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第六章後半 幕間
366.簒奪を行う者から、更に簒奪を行う魔王レア
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ヴァルテンが城の中にある医務室で寝かされている間に、レアは次々と行動を開始し始める。
まずレアはこの十年の間にヴァルテンによって奪われた『フルーフ』の魔王軍の指揮権を奪還する事から着手し始める。
どうやら今のフルーフの魔王軍は『レインドリヒ』の部隊と『ヴァルテン』の部隊に分かれているようだった。
『レインドリヒ』の部隊は元々の彼の配下だった者も多く居て『レア』が居た十年前とそこまで変わってはいなかった。
そしてこちらが問題なのだが『ヴァルテン』の部隊は、どうやらユファが率いていた魔法部隊をそっくりそのままヴァルテンに操られて支配下に置かれて編成されているようであり、中々に魔力の高い者達が集っていた。
「先輩がどこに行ったか知らないけど、この現状を見たらさぞがっかりするでしょうねぇ……」
レアの先輩であった『魔王』ユファはかつてこの世界で『災厄の大魔法使い』と呼ばれていた。
今ではヴァルテンに操られた魔法部隊達は生気がない顔を並べているが、彼らがユファの配下だった頃は面倒見のいいユファを慕って毎日活き活きとした表情で『魔』の研鑽を積んでいた。
――もし今のユファが自分の育てた『魔法部隊』の配下達の惨状を見たら、どういう顔を浮かべるだろうか?
勿論最初は怒って部下達を窘めることから始めるだろうが、一人になった時にきっと悲しい表情を浮かべてがっかりするだろうなと、レアは想像するのだった。
別にレアは魔王軍に属しているわけではないために、元々フルーフの魔王軍に居たユファを先輩と呼ぶのも正しくはなく、単にフルーフと接している期間はレアより長いために、便宜上『先輩』と呼んでいるに過ぎない。
そしてこれまではそこまでユファのことを親しく思った事もないが、それでも『リラリオ』の世界を経験したことによって、レアは自分の配下達を育てる難しさと楽しさを知った。
苦労して育てた配下達を奪われる事を想像すると、たとえそこまで親しく思っていないユファのことであっても、同情したくなるレアであった。
そう考えたレアはヴァルテンに奪われたユファの魔法部隊を少しずつではあるが、次から次に正気に戻していくのだった。
「仕方ないから、貴方の配下達は私が面倒見てあげるわよぉ。どこ行ったか知らないけど、さっさと引き取りに戻ってきなさいよねぇ」
最後にぽつりと、ユファに向けて呟くレア。そしてヴァルテンが目を覚ましたことをレインドリヒから報告を受けたレアは、再びヴァルテンの前に顔を出しに行くのであった。
……
……
……
彼が目を覚ますと、そこは白い壁に包まれた医務室だった。
「私に一体何があった……?」
ぼやける視界の中でヴァルテンは、気絶する前の事を少しずつ思い出していく。そして徐々に覚醒していって意識を失う前の『金色の目』をしたレアの姿を思い出すのだった。
「そ、そうだ! 私はあのガキに……!」
完全に覚醒したヴァルテンは直ぐにベッドから起き上がり、レアが居ない今の間に『概念跳躍』で『アレルバレル』の世界へ向かおうとする。
――しかしヴァルテンが詠唱を最後まで行う前に『魔王』レアが彼の目の前転移してくるのだった。
「ひ、ひぃっ!!」
「お目覚めのところ悪いんだけどぉ、お前に伝えておくことがあってねぇ?」
ヴァルテンは行おうとしていた『概念跳躍』の詠唱を即座にやめたかと思うと、悟られないようにレアに視線を向ける。
「つ……、伝えておくこと!?」
レアはヴァルテンの目の前まで歩いていくと、左手の人差し指を『ヴァルテン』の顎の下へと持っていく。そしてその指をヴァルテンの口元まで這わせながら、レアは笑みを浮かべて口を開く。
「フルーフ様が戻るまでの間、私がこの世界を預かる事にしたからぁ……」
「!?」
――「『お前は私の配下になりなさい』」。
ヴァルテンはそう告げられたことで頭の中が真っ白になった。
これまでこの世界で行ってきた徒労と苦労が、王になることでようやく報われる筈だった。そうだと言うのに、突然この世界に戻ってきた若い魔族にその王の座を奪うと告げられたのだ。
「くっ!!」
ヴァルテンはこれまでの苦労してきた過去を思い唇を噛みながら悔しそうする。しかし逆らえばどうなるかを理解している『ヴァルテン』は必死にレアを睨むに留まるのだった。
「お前がどこへ逃げようとも私はお前の魔力を覚えたわよ。たとえ貴方が『概念跳躍』を使って何処へ向かったとしても逃さないわぁ」
――『概念跳躍』を使えるのは、貴方だけではないのよぉ?
そう静かな声で呟いた後に再びレアの目が『金色』に変わった。
「く、くそぉ……!」
「さっさと返事をしなさい!! フルーフ様の座を奪おうとした罪でお前を今すぐにこの場で殺してやってもいいのよぉ!!」
レアの恫喝は不満を訴えていたヴァルテンの心ごと、ポキリと折ってしまうのだった。
「くっ! わ、わかりました……。ま、魔王レア……さま!」
こうしてリラリオの世界から戻ってきたレアは、様々な胸中を抱えたまま親の代わりに『レパート』の王になるのだった。
まずレアはこの十年の間にヴァルテンによって奪われた『フルーフ』の魔王軍の指揮権を奪還する事から着手し始める。
どうやら今のフルーフの魔王軍は『レインドリヒ』の部隊と『ヴァルテン』の部隊に分かれているようだった。
『レインドリヒ』の部隊は元々の彼の配下だった者も多く居て『レア』が居た十年前とそこまで変わってはいなかった。
そしてこちらが問題なのだが『ヴァルテン』の部隊は、どうやらユファが率いていた魔法部隊をそっくりそのままヴァルテンに操られて支配下に置かれて編成されているようであり、中々に魔力の高い者達が集っていた。
「先輩がどこに行ったか知らないけど、この現状を見たらさぞがっかりするでしょうねぇ……」
レアの先輩であった『魔王』ユファはかつてこの世界で『災厄の大魔法使い』と呼ばれていた。
今ではヴァルテンに操られた魔法部隊達は生気がない顔を並べているが、彼らがユファの配下だった頃は面倒見のいいユファを慕って毎日活き活きとした表情で『魔』の研鑽を積んでいた。
――もし今のユファが自分の育てた『魔法部隊』の配下達の惨状を見たら、どういう顔を浮かべるだろうか?
勿論最初は怒って部下達を窘めることから始めるだろうが、一人になった時にきっと悲しい表情を浮かべてがっかりするだろうなと、レアは想像するのだった。
別にレアは魔王軍に属しているわけではないために、元々フルーフの魔王軍に居たユファを先輩と呼ぶのも正しくはなく、単にフルーフと接している期間はレアより長いために、便宜上『先輩』と呼んでいるに過ぎない。
そしてこれまではそこまでユファのことを親しく思った事もないが、それでも『リラリオ』の世界を経験したことによって、レアは自分の配下達を育てる難しさと楽しさを知った。
苦労して育てた配下達を奪われる事を想像すると、たとえそこまで親しく思っていないユファのことであっても、同情したくなるレアであった。
そう考えたレアはヴァルテンに奪われたユファの魔法部隊を少しずつではあるが、次から次に正気に戻していくのだった。
「仕方ないから、貴方の配下達は私が面倒見てあげるわよぉ。どこ行ったか知らないけど、さっさと引き取りに戻ってきなさいよねぇ」
最後にぽつりと、ユファに向けて呟くレア。そしてヴァルテンが目を覚ましたことをレインドリヒから報告を受けたレアは、再びヴァルテンの前に顔を出しに行くのであった。
……
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……
彼が目を覚ますと、そこは白い壁に包まれた医務室だった。
「私に一体何があった……?」
ぼやける視界の中でヴァルテンは、気絶する前の事を少しずつ思い出していく。そして徐々に覚醒していって意識を失う前の『金色の目』をしたレアの姿を思い出すのだった。
「そ、そうだ! 私はあのガキに……!」
完全に覚醒したヴァルテンは直ぐにベッドから起き上がり、レアが居ない今の間に『概念跳躍』で『アレルバレル』の世界へ向かおうとする。
――しかしヴァルテンが詠唱を最後まで行う前に『魔王』レアが彼の目の前転移してくるのだった。
「ひ、ひぃっ!!」
「お目覚めのところ悪いんだけどぉ、お前に伝えておくことがあってねぇ?」
ヴァルテンは行おうとしていた『概念跳躍』の詠唱を即座にやめたかと思うと、悟られないようにレアに視線を向ける。
「つ……、伝えておくこと!?」
レアはヴァルテンの目の前まで歩いていくと、左手の人差し指を『ヴァルテン』の顎の下へと持っていく。そしてその指をヴァルテンの口元まで這わせながら、レアは笑みを浮かべて口を開く。
「フルーフ様が戻るまでの間、私がこの世界を預かる事にしたからぁ……」
「!?」
――「『お前は私の配下になりなさい』」。
ヴァルテンはそう告げられたことで頭の中が真っ白になった。
これまでこの世界で行ってきた徒労と苦労が、王になることでようやく報われる筈だった。そうだと言うのに、突然この世界に戻ってきた若い魔族にその王の座を奪うと告げられたのだ。
「くっ!!」
ヴァルテンはこれまでの苦労してきた過去を思い唇を噛みながら悔しそうする。しかし逆らえばどうなるかを理解している『ヴァルテン』は必死にレアを睨むに留まるのだった。
「お前がどこへ逃げようとも私はお前の魔力を覚えたわよ。たとえ貴方が『概念跳躍』を使って何処へ向かったとしても逃さないわぁ」
――『概念跳躍』を使えるのは、貴方だけではないのよぉ?
そう静かな声で呟いた後に再びレアの目が『金色』に変わった。
「く、くそぉ……!」
「さっさと返事をしなさい!! フルーフ様の座を奪おうとした罪でお前を今すぐにこの場で殺してやってもいいのよぉ!!」
レアの恫喝は不満を訴えていたヴァルテンの心ごと、ポキリと折ってしまうのだった。
「くっ! わ、わかりました……。ま、魔王レア……さま!」
こうしてリラリオの世界から戻ってきたレアは、様々な胸中を抱えたまま親の代わりに『レパート』の王になるのだった。
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