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リラリオの魔王編
354.レアとセレス王女の和解
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ラクスは夜に外に出ていった後、レアが戻ってくるまでひたすら城の外で座りながら待っていた。
廊下ですれ違ったレアに声を掛けられなかった自分に腹が立ち、戻ってきた後には絶対に声を掛けてやろうという気持ちが沸々と沸き上がった為である。
「しかしこの俺がビビって、声が出せなくなるたぁ思わなかったぜ」
あの時の『金色』のレアの目を見たラクスは、全身が総毛立ち脚の震えを止められず、レアが立ち去った後も数秒間は動けなかったのである。
「あいつが怒っている理由は、エリス女王を殺った龍族に対してだろうな……」
レアとエリスの仲は主と配下というよりは、姉妹や家族といったような感じだったとラクスは思っている。
それ程までに仲が良かったのだから、レアが怒り狂ってあの様子になるのもラクスは理解が出来た。
「レアは俺がもし死んでもあれくれぇ怒ってくれるのかな?」
口に出してからラクスは、自分が何でそんなことを考えているんだと頭を振った。
(何を言ってんだ俺は、あいつは俺の同胞を殺した奴だぞ。憎い敵だった筈……。なのになぁ)
今ではもうラクスはこれっぽっちもレアを恨んではいなかった。
それよりもレアが悲しそうな表情を浮かべるのを想像しただけで、ラクスは焦燥感に駆られる程に、辛い気持ちになってしまっている。
「とりあえず、あいつが戻ってきたらひと声掛けよう」
自分自身にそう言い聞かせながら、戻ってくるレアを待ち続けるラクスだった。
そして空が一瞬光ったのを感じてラクスが空を見上げると、凄まじく膨大な魔力が辺りを支配し始めたかと思うと海に向かって放出された。
「なっ……!?」
慌ててラクスは立ち上がり『漏出』を使って、魔力を放った者を感知しようとしたが、その魔力の持ち主を感じ取った瞬間、頭に激痛が走った。
「うぐぐ……! うぁぁっ……! ぐあああっ……!!」
ラクスはその場で転がりながら頭を押さえる。
もしその場でラクスを見ていた者がいれば、突然の奇行に驚いて逃げるかもしれない。それ程までに見たものが驚く程のラクスの奇声と奇行だったのである。
だが、ラクスがそんな行動を起こすのも不思議ではない。今ラクスが『漏出』で魔力を感知しようとした相手は『魔王』レアが本気で力を開放した姿であった為である。
スクアードを纏っていない通常の状態の魔人ラクスが、二色の併用を全力のオーラで展開している魔王レアを『漏出』で測ろうとしたのだから、下手をすれば、そのまま魔力の圧に押しつぶされて、絶命していてもおかしくはなかったのである。
「ハァッ……、ハァッ……。こ、この魔力は、れ、レア……か?」
ラクスは左手で頭を押さえながら、なんとか立ち上がる。
レアに鍛えられた事で相当の自信をつけていたラクスだったが、まさかここまでレアの本気が凄い物だと気づいていなかったラクスは慌てて我に返った。
「俺達魔人族の王である『シュケイン』王が、勝てなかったわけだ……!」
ラクスはその場から、真っすぐに城の中庭へと向かう。
どうやらここで待っている場合ではないと、彼は感じたのだろう。スクアードを纏いながら、研鑽をしにいつもの中庭へと戻るのだった。
……
……
……
レアが城へ戻ってきたのは結局日が昇り始めた頃だった。
レアは城へ戻るとまずは汗を流す為に入浴をしようと真っすぐ城にある浴場へと向かった。入浴場のドアを開けて入ろうとするレアは、先客がいる事に気づいた。
「今この城にいるのはラクスちゃんくらいよねぇ?」
中に居るのがラクスだと思いレアはそのまま中へと入ると、先客は驚いた様子でこちらを見ていた。
「貴方は、確かエリスちゃんの……」
「魔王れあ……?」
互いに顔を見合ったまま動かない。見た目はレアもセレスと同じくらいであり、同年齢の幼女に見える。
「!」
セレスは舌打ちをしながら俯き、レアの横を通り過ぎる。
「待ちなさい! 何勝手に出て行こうとしているのかしらぁ?」
しかしレアは出て行こうとするセレスを呼び止める。
「な、何よ!」
相手は魔族の王だと言うのにセレスは無礼を承知で言い返す。通常であれば罰せられても可笑しくはないというのに、レアを睨みつけるセレスに後悔する様子は見られない。
「いいから、湯舟に戻りなさい」
「分かったわよ!!」
怒り顔を見せながらも素直にレアの言う通りを聞いて、再び湯につかるセレスだった。レアも軽く体を流しながら、すぐにセレスの横へと腰を下ろす。
セレスは嫌そうな表情を浮かべながらも離れる真似はせずレアの顔を見上げていた。そしてレアはそんなセレスの顔を見て口を開いた。
「セレスちゃん、貴方が私を憎むのは分かるけど、もう少しだけ我慢しなさい」
「え?」
何を言われるのかと考えていたセレスは、突然のレアの言葉にきょとんとした顔を浮かべる。
「私達の大陸を攻めてきた龍族は、私が責任を持って滅ぼしてあげる。その後は私はこの世界を去るから、それまでは我慢してほしいのよぉ」
「この世界を……去る?」
そのレアの言葉に余程驚いたのか、セレスはレアの言葉をそのまま反芻させるかのように返す。
「ええ……。私は元々この世界の魔族じゃないからねぇ。用が済んだら元の世界へと戻るわぁ」
「な……なにを勝手な事を……!! そ、それに龍族を滅ぼすって、出来る訳がないでしょう!!」
セレス王女は湯舟から立ち上がり、苛立ちを隠そうともしないでレアに向かってそう断言する。
「出来るわよ。あいつらは私が必ず滅ぼす」
それまでやんわりと笑っていたレアは、唐突に真顔になりセレスを見る。その勢いにセレスはやられて、フラフラしながら湯船に腰を落とした。
「セレスちゃん。私が……、私がアイツを倒したら……」
――『私を許してくれる?』と、喉までせり上がってきた言葉を慌ててレアは飲み込んだ。
それは明らかにセレスの事を考えなさすぎる言葉だと、自分だけが救われるような免罪符に過ぎない言葉だと考えた為であった。
「貴方にエリスちゃんの代わりに、レイズの魔国王になってほしいのよぉ」
少しの間をおいて、そう言葉を言いかえるレアだった。
「私はまだ子供よ? それに龍族を倒したらあっさりとこの世界から去るって、都合がよすぎでしょ!」
そこまで『セレス』が言うと『レア』は悲観めいた表情になった。
「でも、私の出す条件を叶えてくれたら、貴方の思惑通りになってあげてもいいわよ」
セレスがそう言うと悲観めいた表情を浮かべていたレアの表情が変わった。
「その条件は何かしらぁ?」
――『私をお母さまと同じくらい強くして!』。
その言葉を聞いた瞬間にレアは嬉しそうな笑顔を見せたが、やがて不意に笑顔は崩れていく。
「今から貴方を魔王の領域へ育てるには、少しばかり時間がかかりすぎるわねぇ」
セレスも『魔』の才覚は十分にあるとレアは見るが、それでも現在のセレスは年相応の戦力値しかなく今はまだ『下位魔族』の領域である。
少なくともレアがこの世界へ来る前の状態であった『エリス』女王程に『セレス』が強ければ考えてもよかった。
――しかしレアが今から鍛えたとしてもエリスの『覚醒した魔王』の領域までは、早くても数百年はかかるだろう。
流石にそこまでこの世界に居座る事は考えられない。レアの目的はあくまでも『フルーフ』の命令を完遂することであるからだ。
いくらレアがエリスを好きでその娘である『セレス』に頼まれたからといっても、そこまでは面倒を見られないとレアは、冷静に判断してしまうのだった。
やっぱり無理かと言う顔を浮かべたセレスは、すぐに代替案を口にするのだった。
「じゃあお母さまに教えていた『魔』の『理』を私に教えなさい! それなら貴方が居なくなった後でも、私が学べるでしょう!?」
セレスが何故『魔』の『理』等という難しい言葉を知っているのかとレアは考えたが、何度かエリスに会いに転移した時に、ベッドの上で娘に読み聞かせていたエリスを思い出したのだった。
「私の『理』を教えたら、貴方がレイズの魔国王になるって約束する?」
「当然でしょ! 私はお母様からどんな約束でも約束したなら守りなさいって教えられたもん!」
レアはその言葉に、いつもレアの無理難題を聞いては叶えてきたエリスを思い出す。
(ああ、そうねぇ。貴方はいつも私との約束は破った事はなかったわねぇ……)
レアはエリスを思い出してセレスから顔を隠すように俯き涙を流す。
「だから、そのレア様……! りゅ、龍族に負けないで無事に帰ってきてね?」
レアの涙を見たのだろう。顔を背けながらセレスも母親を思い出して、必死に我慢しながらも泣き声でそう告げるのだった。
「ええ……。約束……よぉ」
こうして二人は最後には笑い合ってセレスは、レアの背中を流してあげるのだった。
……
……
……
廊下ですれ違ったレアに声を掛けられなかった自分に腹が立ち、戻ってきた後には絶対に声を掛けてやろうという気持ちが沸々と沸き上がった為である。
「しかしこの俺がビビって、声が出せなくなるたぁ思わなかったぜ」
あの時の『金色』のレアの目を見たラクスは、全身が総毛立ち脚の震えを止められず、レアが立ち去った後も数秒間は動けなかったのである。
「あいつが怒っている理由は、エリス女王を殺った龍族に対してだろうな……」
レアとエリスの仲は主と配下というよりは、姉妹や家族といったような感じだったとラクスは思っている。
それ程までに仲が良かったのだから、レアが怒り狂ってあの様子になるのもラクスは理解が出来た。
「レアは俺がもし死んでもあれくれぇ怒ってくれるのかな?」
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それよりもレアが悲しそうな表情を浮かべるのを想像しただけで、ラクスは焦燥感に駆られる程に、辛い気持ちになってしまっている。
「とりあえず、あいつが戻ってきたらひと声掛けよう」
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そして空が一瞬光ったのを感じてラクスが空を見上げると、凄まじく膨大な魔力が辺りを支配し始めたかと思うと海に向かって放出された。
「なっ……!?」
慌ててラクスは立ち上がり『漏出』を使って、魔力を放った者を感知しようとしたが、その魔力の持ち主を感じ取った瞬間、頭に激痛が走った。
「うぐぐ……! うぁぁっ……! ぐあああっ……!!」
ラクスはその場で転がりながら頭を押さえる。
もしその場でラクスを見ていた者がいれば、突然の奇行に驚いて逃げるかもしれない。それ程までに見たものが驚く程のラクスの奇声と奇行だったのである。
だが、ラクスがそんな行動を起こすのも不思議ではない。今ラクスが『漏出』で魔力を感知しようとした相手は『魔王』レアが本気で力を開放した姿であった為である。
スクアードを纏っていない通常の状態の魔人ラクスが、二色の併用を全力のオーラで展開している魔王レアを『漏出』で測ろうとしたのだから、下手をすれば、そのまま魔力の圧に押しつぶされて、絶命していてもおかしくはなかったのである。
「ハァッ……、ハァッ……。こ、この魔力は、れ、レア……か?」
ラクスは左手で頭を押さえながら、なんとか立ち上がる。
レアに鍛えられた事で相当の自信をつけていたラクスだったが、まさかここまでレアの本気が凄い物だと気づいていなかったラクスは慌てて我に返った。
「俺達魔人族の王である『シュケイン』王が、勝てなかったわけだ……!」
ラクスはその場から、真っすぐに城の中庭へと向かう。
どうやらここで待っている場合ではないと、彼は感じたのだろう。スクアードを纏いながら、研鑽をしにいつもの中庭へと戻るのだった。
……
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レアが城へ戻ってきたのは結局日が昇り始めた頃だった。
レアは城へ戻るとまずは汗を流す為に入浴をしようと真っすぐ城にある浴場へと向かった。入浴場のドアを開けて入ろうとするレアは、先客がいる事に気づいた。
「今この城にいるのはラクスちゃんくらいよねぇ?」
中に居るのがラクスだと思いレアはそのまま中へと入ると、先客は驚いた様子でこちらを見ていた。
「貴方は、確かエリスちゃんの……」
「魔王れあ……?」
互いに顔を見合ったまま動かない。見た目はレアもセレスと同じくらいであり、同年齢の幼女に見える。
「!」
セレスは舌打ちをしながら俯き、レアの横を通り過ぎる。
「待ちなさい! 何勝手に出て行こうとしているのかしらぁ?」
しかしレアは出て行こうとするセレスを呼び止める。
「な、何よ!」
相手は魔族の王だと言うのにセレスは無礼を承知で言い返す。通常であれば罰せられても可笑しくはないというのに、レアを睨みつけるセレスに後悔する様子は見られない。
「いいから、湯舟に戻りなさい」
「分かったわよ!!」
怒り顔を見せながらも素直にレアの言う通りを聞いて、再び湯につかるセレスだった。レアも軽く体を流しながら、すぐにセレスの横へと腰を下ろす。
セレスは嫌そうな表情を浮かべながらも離れる真似はせずレアの顔を見上げていた。そしてレアはそんなセレスの顔を見て口を開いた。
「セレスちゃん、貴方が私を憎むのは分かるけど、もう少しだけ我慢しなさい」
「え?」
何を言われるのかと考えていたセレスは、突然のレアの言葉にきょとんとした顔を浮かべる。
「私達の大陸を攻めてきた龍族は、私が責任を持って滅ぼしてあげる。その後は私はこの世界を去るから、それまでは我慢してほしいのよぉ」
「この世界を……去る?」
そのレアの言葉に余程驚いたのか、セレスはレアの言葉をそのまま反芻させるかのように返す。
「ええ……。私は元々この世界の魔族じゃないからねぇ。用が済んだら元の世界へと戻るわぁ」
「な……なにを勝手な事を……!! そ、それに龍族を滅ぼすって、出来る訳がないでしょう!!」
セレス王女は湯舟から立ち上がり、苛立ちを隠そうともしないでレアに向かってそう断言する。
「出来るわよ。あいつらは私が必ず滅ぼす」
それまでやんわりと笑っていたレアは、唐突に真顔になりセレスを見る。その勢いにセレスはやられて、フラフラしながら湯船に腰を落とした。
「セレスちゃん。私が……、私がアイツを倒したら……」
――『私を許してくれる?』と、喉までせり上がってきた言葉を慌ててレアは飲み込んだ。
それは明らかにセレスの事を考えなさすぎる言葉だと、自分だけが救われるような免罪符に過ぎない言葉だと考えた為であった。
「貴方にエリスちゃんの代わりに、レイズの魔国王になってほしいのよぉ」
少しの間をおいて、そう言葉を言いかえるレアだった。
「私はまだ子供よ? それに龍族を倒したらあっさりとこの世界から去るって、都合がよすぎでしょ!」
そこまで『セレス』が言うと『レア』は悲観めいた表情になった。
「でも、私の出す条件を叶えてくれたら、貴方の思惑通りになってあげてもいいわよ」
セレスがそう言うと悲観めいた表情を浮かべていたレアの表情が変わった。
「その条件は何かしらぁ?」
――『私をお母さまと同じくらい強くして!』。
その言葉を聞いた瞬間にレアは嬉しそうな笑顔を見せたが、やがて不意に笑顔は崩れていく。
「今から貴方を魔王の領域へ育てるには、少しばかり時間がかかりすぎるわねぇ」
セレスも『魔』の才覚は十分にあるとレアは見るが、それでも現在のセレスは年相応の戦力値しかなく今はまだ『下位魔族』の領域である。
少なくともレアがこの世界へ来る前の状態であった『エリス』女王程に『セレス』が強ければ考えてもよかった。
――しかしレアが今から鍛えたとしてもエリスの『覚醒した魔王』の領域までは、早くても数百年はかかるだろう。
流石にそこまでこの世界に居座る事は考えられない。レアの目的はあくまでも『フルーフ』の命令を完遂することであるからだ。
いくらレアがエリスを好きでその娘である『セレス』に頼まれたからといっても、そこまでは面倒を見られないとレアは、冷静に判断してしまうのだった。
やっぱり無理かと言う顔を浮かべたセレスは、すぐに代替案を口にするのだった。
「じゃあお母さまに教えていた『魔』の『理』を私に教えなさい! それなら貴方が居なくなった後でも、私が学べるでしょう!?」
セレスが何故『魔』の『理』等という難しい言葉を知っているのかとレアは考えたが、何度かエリスに会いに転移した時に、ベッドの上で娘に読み聞かせていたエリスを思い出したのだった。
「私の『理』を教えたら、貴方がレイズの魔国王になるって約束する?」
「当然でしょ! 私はお母様からどんな約束でも約束したなら守りなさいって教えられたもん!」
レアはその言葉に、いつもレアの無理難題を聞いては叶えてきたエリスを思い出す。
(ああ、そうねぇ。貴方はいつも私との約束は破った事はなかったわねぇ……)
レアはエリスを思い出してセレスから顔を隠すように俯き涙を流す。
「だから、そのレア様……! りゅ、龍族に負けないで無事に帰ってきてね?」
レアの涙を見たのだろう。顔を背けながらセレスも母親を思い出して、必死に我慢しながらも泣き声でそう告げるのだった。
「ええ……。約束……よぉ」
こうして二人は最後には笑い合ってセレスは、レアの背中を流してあげるのだった。
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