上 下
355 / 1,906
リラリオの魔王編

346.エリスの娘、その名はセレス王女

しおりを挟む
 レアがラルグ城の上空で辺りを見回すように待機していると、そこへ遂に龍達が続々と空を飛翔しながら集まってくる。

「来たわねぇ」

 レアはいつものように余裕のある態度ではなく、最初からすでに青を纏いながら腕を組んでいた。

 見つめる先にいる龍達の多くは戦力値が1億程度ではあったが、レアはそんな龍達を無視して何かを探すように視線を動かし始める。

「あいつか」

 どうやら目的の存在は多くいる龍達のはるか後方でこちらを伺っているようだった。

 ヴェルマー大陸に張っていた結界は、レアを以てしてもかなり上位の結界であり、戦力値1億を持つ龍族であっても簡単には解除出来ない程の代物なのである。

 その結界を易々と破壊して見せたと言う事は、目の前にいるこの多くの龍達よりも強い存在がいると言うことの証明なのであった。

 レアが後方にいる龍族を見つめていると、その龍はゆっくりと前に出てくる。その様子に周りにいた龍達から順番に左右へと道を開けていき、やがて一体の龍は人型になりながらレアの前まで出てくるのだった。

「お前が魔族の王だな?」

 大きな龍の姿から人型になった事でレアは少しばかり驚いたが、龍の言葉にレアはゆっくりと口を開いた。

「いきなり私の大陸にずかずか乗り込んできて、一体何のつもりかしらぁ?」

 同じ魔族であれば今のレアの威圧的なオーラとその言葉に、怯む程であったがその龍は平然としていた。

「お前達魔族は数々の事件を起こして、我らが龍族の始祖様であらせられるキーリ様にと認定された。そして我ら龍族が世界の安寧の為に、お前達魔族を滅ぼさせてもらう事となった」

 キッパリと魔族を滅ぼすと告げる龍にレアは薄く嗤う。

「へぇ? それは魔人族と精霊族を滅ぼしたのが、原因だからかしらぁ? でもねぇそれは私達から手を出したワケじゃなく、どれも向こうからちょっかいをかけられたから仕方なく身を守るためにやった事なのだけど? むしろ私たちは被害を受けた側なのだけどねぇ。あなたたち龍族様方は、魔族が敵に侵略行為を行われてもやり返す事はせずににこにこ笑いながら、されるがまま、なすがままにされろと仰りたいのかしらぁ?」

 言葉の端々に嫌味を滲ませるような口調でレアは言葉を返した。

「そんなことを決めるのは私ではない。始祖龍キーリ様がお決めになられたから我々はそれに従いここにきているだけだ。理由がどうであろうとそんな事は知ったことではない」

「なっ……!?」

 流石のレアもここまでキッパリと言い切られるとは思わなかった為に、素っ頓狂な声をあげてしまった。

 目の前に居る龍族達はその始祖龍と呼ばれる主の命令によって、任務を遂行するためだけにここにきている。そうであるならば、レアがいくら言葉巧みに正論を述べたところで効果はない。

 レアは少しでも龍族達の侵攻を遅らせようとばかりに、彼らを一時的に退かせる意味を兼ねて、大陸に話を持って帰らせようと模索しての挑発行為であったが、結局はアテが外れてしまった。どうやら余程龍族を束ねているという存在は大物であるらしい。

「お前達魔族は……いや、お前はやりすぎたのだ、魔族の王」

 そう言うと目の前の龍は力を開放し始めた。

「お前の行いの所為で同胞の魔族達はこの時を以て滅びることになるのだ。あの世で自分の所業を悔い改めよ魔族の王」

 その言葉を最後に人型であった龍族は本来の大きな龍の姿へと変貌していき、そしてそれが戦闘の合図となった。

 ……
 ……
 ……

「お母さま……だと? お前、エリス女王の子供なのか?」

 ラクスは木陰からこちらを見つめる視線の主に語り掛ける。震える体を必死で堪えながら、ラクスの言葉に頷きを見せる少女。

「そうか……」

 ラクスは切なげにそう口にすると、少女は恐る恐るといった様子でラクスに近づいて行き、やがて母親の亡骸の前まで来ると『エリス』の身体にしがみつくように抱きしめる。

「お母さま……、お……かあさまぁ……」

 そして彼女は母親であるエリスが死んでいるという事を少しずつ実感していき、その少女は泣きながら母の目を覚まさせようと名を呼ぶ。

 しかし物言わぬ亡骸となったエリスが目を覚ます事は無く、少女の噎び泣く声だけが辺りに響いた。

 …………

 ラクスは目の前で母親を抱きながら泣いている少女に自分の時の事を思い出してしまい、やるせない気持ちが身を包む。

 いつまでそうしていただろうか……。

 やがて少女はゆっくりと顔を上げた。涙で濡れた顔をラクスに向けながら静かに口を開いた。

「みんなは……おかあさまは……、レア様のせいで龍族様に殺されたんでしょ?」

 ――ラクスはその言葉に驚きを見せた。

「!! ち、違……!」

 慌てて否定しようとするが、実際にレアは魔人族と精霊族を滅ぼしたせいで、この世界の調停者と呼ぶべき龍族に魔族が危険視されて襲撃されたのである。

「何が違うの? レアさ……、お母さまは死ななかったんじゃないの……?」

「……」

 真っすぐにラクスの顔を直視する少女にラクスは、ふいに視線を逸らしてしまう。

「ゆるせない……」

 少女がそう呟くと同時にまだ残っていたのか、空から龍がラクス達を見つけて空から急降下してくるのだった。

「危ねぇ……!!」

 ラクスは空から急降下しながら攻撃をしてきた龍から少女を庇う為に前に出て、龍からの攻撃を受ける。

「ぐっ……」

 ラクスは少女を救う事は出来たが、咄嗟であったために『スクワード』も纏えず、大ダメージを代わりに受けてしまうのだった。

「だ、大丈夫!?」

 慌てて少女は庇ってくれた魔人ラクスを心配そうに見つめてそう口を開く。

「あ……ああ、大丈夫だ!」

 ラクスは立ち上がったかと思うと、少女を守るように前に立つ。

「お前は俺の後ろにいろ。ここから離れようとすると、あいつらはお前を狙うかもしれねぇ!!」

 ゴクリと唾を飲み込みながら『セレス』という少女は頷く。

 戦う意思を見せる魔人ラクスを見てその龍は、にやにやと笑い始めた。

 そしてそんなラクスに龍が炎を吐こうとする。

「おせぇ!!」

 しかしラクスは一瞬でスクアードを纏ったかと思うと、こちらに向けて炎を吐こうとしていた龍の前に転移したかと思わせる程の速度で肉薄して、目にも止まらぬ速さで拳を繰り出す。

 そしてその拳は龍の顎を突き上げる。

「グアッ……!!」

 そして魔人ラクスの目が赤くなったかと思うと、一度拳に力を入れて後ろに体の重心を引き、息を吐きながら一気に全体重を拳に乗せて前方に体を押し出し全力で拳を振りぬく。

 恐ろしい程の威力を持った拳は、そのまま固い皮膚を持つ龍の体を突き破り、そのまま龍は白目を剥きながら倒れるのであった。

 戦力値が1億を超えるこの世界の頂点に位置する龍族を相手取っても、レアに鍛え抜かれた『幹部級』の最上位の領域にまで届いた魔人『ラクス』の敵ではないようであった。

「す……っ、すごい……!!」

 ラクスの後ろで怯えながらこちらを見ていた少女は、羨望の表情を浮かべながらラクスに称賛の声をあげるのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...