最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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リラリオの魔王編

317.忍び寄る影

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「あー……、疲れた!」

 レアとの稽古を終えた魔人のラクスは、ラルグの城に宛がわれている自室へと戻る為に廊下を歩いていた。

 ラクスは廊下を歩きながらも最近は、同胞を殺した憎い筈のレアに復讐をする気が薄れてきていると感じていた。

 しかしラクスはその理由もまた分かっている。レアという魔族の王は他の魔族と違い種族の違う自分を優しい目で接してくるのだ。蔑むでも見下すでもなく、同胞に接するように自分を強くしてくれているのが分かり、そんなレアの元にいるのが嫌ではなくなってきていた。

 ――つまりなんだかんだ言っても彼は、今の環境が居心地がいいのである。

 もちろん最終的にはレアを倒して魔人達の仇は取るつもりではあるが、当初の想いとは少し変わりとラクスは考えるようになっていた。

「アイツを倒して悔しいって言わせたら、さぞ気分が高揚するだろうな」

 そういって生意気なレアの悔しそうな表情を想像して笑うラクスであった。

 面白い想像をしているうちに自分の部屋が見えてきた。

 だがラクスが自分の部屋の前にたどり着いた時、そんな楽しい気分は一気に飛んでしまった。

「な、なんだこれは!」

 部屋の扉に一枚の張り紙が貼られていた。その紙にはこう書かれていた。

 ――

「!」

 ラクスは乱暴に紙をはがして苛立ち交じりに破り捨てる。そして部屋に入り乱暴にベッドに寝転がると、自分のいる場所が安寧の場所ではなく、だという事を再認識するのであった。

 ――そしてこの時から、ラクスに対する嫌がらせは少しずつ増えていった。

 誰が書いているのかは分からないが、毎日のように扉には暴言が書かれた紙が必ず貼られている。表立っては何も言ってこない為にラクスは誰に嫌がらせをされているのか分からなかった。

 嫌がらせはそれだけではなく食事の時にもそれは起きた。食堂でいつものように食事をとっていると、それは聞こえた。

 ――あの魔人、自分が嫌われているのに気づいてねぇのか?

 ――馬鹿だから分かんねぇんだよ。

 ――あいつがっていうより、

 ラクスを蔑む声が至る所から聞こえてくるのであった。

「誰が言いやがったぁっ! ぶっ殺すぞ!!」

 ラクスは立ち上がるとそんな言葉を吐いた連中に対して大声で怒鳴る。

 しかし悪口を言っていた奴はそれ以上何も言わず、ただ突然大声をあげたラクスに周りから迷惑そうな視線を浴びせられるのだった。

 そして今日もレアと訓練を行っているラクスだったが、全然稽古に集中出来ずにレアから溜息が漏れた。

「ラクスちゃん? 貴方今日は全然ダメねぇ。強くなるつもりがあるのかしらぁ?」

 レアがいつものようにラクスに小言を言うと、普段は小言を言い返してくるラクスから返事はなかった。

 代わりに何も言わずにその場を去ろうとする。普段と違う態度にレアは首を傾げながらもあとを追いかける。

「ちょっと、何を勝手に終わろうとしているのぉ? 私がいいと言うまでは終わらせないわよぉ」

 レアが背後から声をかけると、ラクスは振り返ってレアの胸倉を掴み上げた。

「もういい! てめぇと修行をするのは終わりだ。俺はおれのやり方で強くなって見せる」

 レアは突然の言葉に目を丸くしてラクスを見る。

俺はうんざりしてんだよ!」

 唖然とした態度でラクスを見ていたレアだがその言葉に激昂する。

「貴方。一体誰に対して口をきいているのかしらぁ?」

「!!」

 魔人の怪力をものともせずにレアは、で胸倉を掴んでいるラクスの手を掴み捻り上げる。

「は、離せ、気に入らねぇなら、もう……。この場で俺を……、殺せよ」

 その言葉にレアの目は大きく見開かれた。そして掴んでいたラクスの手を離す。突然離された為にその場でラクスは尻餅をつく。

 そしてレアは無様に倒れたラクスに冷ややかな視線を送るのだった。

「勘違いしないでねぇ? 貴方の生殺与奪の権利は私にあるのよぉ」

 そう言ったレアの目は『金色』に輝いていた。

 ここ最近見たことがなかったレアの目にラクスは、その視線を逸らせず見つめ合う結果となった。

「ふーむ、動揺と憤慨と少しの恨事ねぇ?」

 その言葉にラクスはハッとして、慌ててレアから視線を外す。

 レアの『金色の目ゴールド・アイ』から逃れられるのは大したものだったが、すでにレアの魔瞳によって、ラクスの考えている事は読み取られた後だった。

「まぁいいわ。今日は終わりにしてあげるから戻りなさい」

 レアがそう言うと、舌打ちをしながらラクスはその場から去っていった。

 ――そして、その場を去るラクスの背中を心配そうにじっと見つめるレアであった。

 …………

「どうやらあのレアとかいう魔族達の王は、あの魔人をいたく気に入っているようだな」

 二人のやり取りを水晶を通して見ていた者が、誰もいない場所で静かにそう口を開いた。

(あの魔族にはどう足掻いても我々は力では勝てないだろう。しかしそれならばそれで構わぬ。我々の方法で脅威は取り除くまでだ)

 水晶を覗いていた者はゆっくりと立ち上がり、計画を実行し始めるのだった。
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