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同胞との別離編

288.さらば、同胞よ

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 レインドリヒの墓石を完成させたユファが墓前の前で過去に耽けていたが、そこに物音がユファの耳元に聞こえた。

「誰?」

 敵意は感じないが気配を消すような行動をとる者が近づいた事で、ユファは警戒を強めるがそこに小さな女の子が物陰から顔を出すのであった。

「……」

 女の子は押し黙ったままユファと、彼女が作ったばかりの『レインドリヒ』の墓を交互に見ていた。ユファはその視線から、直ぐにこの女の子が誰なのかにピンと気づいた。

「貴方、姿や形は違うけど中身はレアでしょ?」

 その瞬間、レアと呼ばれた女の子はびくりと身体を震わせるのだった。

 ユファが確信をもってそう告げた事で、どうやら誤魔化せないと察したレアは素直にコクリと頷いた。黒髪で人間の子供のような姿をしているが、これがレアの『代替身体だいたいしんたい』を取った姿なのだろう。

「わ、私も……。私も最後にレインドリヒちゃんと、しっかりとお別れをさせてもらえないかしら?」

 レアがそう言うと、ユファは頷いて場所を空ける。

 先輩ユファの仕草に泣き笑いの表情を浮かべたレアは、急いでレインドリヒの墓の前まで走ってくると、必死に墓の前で手を合わせ始めるのだった。

 その様子を見ながらユファは、レインドリヒに心の中で語りかける。

(どうやら貴方が命をかけて守った同胞は、こうしてちゃんと挨拶にきたみたいよ?)

 フルーフの魔王軍に身を投じて戦いに明け暮れた過去。最後とはいっても命をかけて守る者が出来た事は、彼にとって幸運な生涯だったのか、それとも不運なことだったろうか。

 少なくとも守った小さな命が、こうして敵対していた者の居る場所に来てまで手を合わせるぐらいには、レインドリヒのしたことは誇れる事であったのだろう。

 ヴァルテンに『呪縛の血カース・サングゥエ』を使われても死を恐れず真実を告げて、ヌーからレアを守った『大魔王』。

 ――騙された挙句に殺された、哀れな魔族と思う者も居るかもしれない。でもそれを私の前で口にする奴がいたら、殺してあげるわよ――。

(同じ世界の同胞として、共に生きた私だけは貴方を尊敬してあげる)

 ――だから、誇りながら逝きなさい?

 最後にレアと同じように、レインドリヒの墓に手を合わせて最後の言葉を戦友に贈るユファであった。

 ……
 ……
 ……

 レアが別れの挨拶を終えた後、すっと墓前から立ち上がる。

「最後にお別れが出来て良かった。感謝するわよ先輩ユファ

 そういったレアの顔は、決意に満ち溢れていた。どうやらレアがここに来た理由はまだあるらしい。

「その、ね先輩。私が貴方達の主達を襲った事に怒りを抱いている事は分かってるし、その罪も償うつもりではいるのよぉ」

 モジモジと下を見ながら、ぽつりぽつりとレアは語りだす。何が言いたいのか察してきたユファだが、最後まで言葉を聞く事にする。

「もう少しだけ……。もう少しだけ私に猶予を与える様に、あなたの主に伝えてもらえないかしらぁ?」

 ユファは目の前の幼女が自己保身の為に、猶予を欲しいと言っているわけではないという事を理解している。

 レインドリヒが言っていた本当のの正体が誰であるかを知ったレアはヌーに対する復讐の為に、今裁かれるのを待って欲しいと願っているのであろう。

 しかし当然それを決めるのはユファではないし、それは自分の口から伝えなくてはいけない事だとユファは思っている。

 だからレアの為を思ったユファは、心を鬼にしてレアが嫌そうな表情を浮かべる未来を見据えながら、を口にするのだった。

「分かったわ! 私がソフィ様の前に貴方を連れて行ってあげる! 

 瞬間――。レアはあんぐりと口を開けて、信じられないモノを見たかのような顔でユファを見上げる。

「え、い、いやそのユファ、ね? あ、貴方の口から伝えてもらえな……」

「自分の口で伝えなさい。レア!」

「ぐむっ……!」

 案の定、とても嫌そうな表情を浮かべたレアは、ユファを恨むように見た後に口を尖らせる。

「こ、殺されないかしらぁ? 私、も、もう『代替身体だいたいしんたい』の用意がないのだけど」

 現在のレアの姿は金髪の時の本体とは比べ物にならない程に『魔力』が弱いが、それでも『魔王』の領域には十分に達している。

 『代替身体だいたいしんたい』は、本来の状態から十分の一程の『戦力値』と『魔力値』程の状態になってしまう。つまり元々の戦力値が4億を越えて『青』の練度も高く、更には『金色のオーラ』を体現しているレアであれば『代替身体だいたいしんたい』の今の身体でも『金色』を纏えば『真なる魔王』階級クラスまでは到達出来ている事だろう。

 ユファは自身が『代替身体だいたいしんたい』の『ヴェルトマー』の身体となった時は『最上位魔族・最上位』が限度だった。ユファはその時の事を考えながらレアを見て、心の中で流石だなと思うのだった。

「あのねレア? 私の主様は何でもかんでもすぐに殺すような殺戮者ではないのよ? 貴方が真摯に本音を伝えたならば、絶対にソフィ様は分かってくれる筈よ」

 ユファはそう言うがレアの頭の中では、彼女の『凶炎エビル・フレイム』の『魔法』の炎に焼かれながら、大笑いをしながら迫ってきていたあの姿が目に焼き付いている。

 …………

 ――『クックック、いいぞ! いいぞ、いいぞ! もっといけるだろう? さぁっ! もっと我を殺すつもりでこい! フハハハッッ!!』

 …………

 あの時のソフィの歪んだ笑みと、聞く者が耳を塞ぎたくなるような笑い声。そして焦燥感を煽るような言葉と迫りくる圧力。

 トラウマとなっているレアは、その場で蹲りながら頭を押さえる。

「こ、こわいよぉ……!」

 ここまであの生意気で自信に満ち溢れていた幼女が本気で怯えている姿を見て、ソフィ様は一体どれだけの事をこのレアにしたのだろうかと、真剣にユファは考えるのだった。

「分かったわよ。話が終わるまで私が横についていてあげるから」

「ほ、本当!? せ、先輩!」

 その言葉にレアは泣きそうな顔から一転。救いを得たとばかりに、嬉しそうな表情を浮かべるのだった。
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