上 下
291 / 1,906
世界間戦争編

284.さよならの前に

しおりを挟む
「……」

 ユファが治癒の魔法をかけ続けるが、一向にレアの目に光が宿らない。先程まで言葉を口にしていたレアは、もう何も喋らずにユファの顔だけをじっと見ていた。

「何で傷が塞がらないのよ! 私の魔力が足りないの!? ならもっと生命力を……!」

(ごめんねぇ。もう無理をしないでいいわよ先輩ユファ。私はどうせ助からないわぁ)

 そう声に出して言いたいが、レアはもう喋る事が出来ない為に心の中でそう呟いた。

 そしてレアの目がゆっくり、ゆっくりと閉じられていく。

「駄目よ! レア、諦めないでよ!!」

 治癒魔法をかけ続けるユファの顔は、涙でぐしゃぐしゃでレアにかける声は涙声だった。

「どいつもこいつも私を置いて逝くなぁ! お願いよぉ……!」

 レパートの世界の同胞達。レインドリヒもフルーフも居なくなり、そして今レアも居なくなろうとしている。徐々に寂しさがユファを襲ってくるのだった。

「あ……りが……と、ねぇ……」

 何とか絞り出すようにその言葉を残して『魔王』レアはその生涯を閉じるのだった。

 ――レアの残した言葉を聞いたユファはもう涙を止められない。

「駄目よ! 逝っては駄目よ、レアぁっ、レア! 目を開けろ! 開けなさいよぉ!!」

 ユファの治癒魔法に更に魔力が勢いが増していく。

 それはユファが自らの生命力を全て費やそうと、一気に力を込めたからである。

 急速に生命力を失っていくユファの様子を見たラルフは、これまで以上に焦りの声を漏らす。

「ゆ、ユファさん! それ以上はだめです、貴方が死んでしまう!」

 ラルフはジーヌとの戦闘中だが、声をかけずにはいられなかった。ここで放っておけば師であるユファは『レア』の目を開けさせる為に自らの命を絶ってしまう。

 そこにラルフはジーヌから右拳を鳩尾に受ける。

「ぐはっ……!」

 戦闘中にジーヌから視線を外してしまった為に、ジーヌから手痛い一撃を食らうラルフだった。

 ……
 ……
 ……

 その頃ブラストと戦闘を続けていたヌーは、溜息を吐いて口を開く。

「ちっ! アイツらの力を借りるのは癪だがこれ以上は仕方あるまい」

 そう言うとヌーは残り少ない『魔力』を使

「?」

 もちろん戦闘中である為に、ブラストは唐突なヌーの行動に眉を寄せる。そんなブラストの前に一人の魔族が突然現れた。

 ――その魔族はとても細身で背が高く、ふちの青い伊達眼鏡をかけていた。

「やれやれ。我らの主に大口を叩いておいて、結局はこの様ですか?」

 突如現れた魔族は『大魔王』ヌーに対してとても辛辣な言葉を放つ。

やかましい、さっさと手を貸せ」

 いきなり現れた細見で長身の魔族にヌーがそう言うと、その魔族は溜息を吐いた。

「勘違いなさらないでくださいよ? 我ら組織の力に頼る以上、貴方は『大賢者』様に大きな借りを作るということを努々ゆめゆめお忘れなく」

「分かった分かった。いいからさっさと俺を飛ばせよ

 突如現れたリベイルという魔族は、どうやら『概念跳躍アルム・ノーティア』の魔法を使えるようだった。

 このままでは逃げられてしまうと感じたブラストは様子見を辞めて、一気に本気になるのであった。

 リベイルの魔法詠唱より早くブラストは『金色のオーラ』を纏い始めて、ヌーもろとも破壊の魔法を使おうと右手を翳す。

 ――その時であった。

「――」

 遠く離れた場所から、一直線にこちらに向けて光が放たれた。

「まずい……!」

 リベイルの前に立ったヌーは『次元防壁ディメンション・アンミナ』を展開する。

 しかし『力の魔神』の前では防御系の最高峰と呼ばれる神域領域の『時魔法タイム・マジック』といえども何の意味も為さない。

 リベイルは魔力が残り少ないヌーの肩を掴み更に空高く上昇する。

「別世界へ跳びますよ? 次は確実に殺されます」

「ああ……、さっさといけ」

 次の瞬間、リベイルの『概念跳躍アルム・ノーティア』が発動して『リラリオ』の世界から二人は忽然と姿を消すのだった。

 残されたブラストは、苛立ちから破壊の衝動に襲われる。

「あぁっ! クソッタレ! 邪魔してんじゃねぇよボケがぁっ!!」

 ブラストは衝動的に『破壊』の魔法を放とうと右手を魔神に向けかけるが、そこで必死に歯を食いしばって何とか自制を行うのであった。

 ここで『力の魔神』を相手にすれば、どう足掻いてもやられるのは自分だと理解している為である。衝動を何とか抑えたブラストは、近づいてくる魔神を睨む。

「――?」(貴方は確かソフィの……?)

 何を言っているか分からないが、魔神に『契約の紋章』を見せると魔神は笑みを浮かべた。ソフィの配下の『九大魔王』達は全員が『契約の紋章』を持っている。

 この契約の紋章を持っていれば、その世界にソフィがいれば魔力や戦力値が上昇するアイテムであるが、それ以上の恩恵と言ってもいい事に『力の魔神』に味方だと知らせる事が出来る。

「――」(それじゃあ、失礼するわね)

 この世界からヌーが消えた事で、ソフィに迫る脅威は消えたと魔神は認識したのだろう。

 『力の魔神』にとってソフィに敵意を向ける存在が居なくなれば、その後の事はどうでもいい様子で、ブラストの目の前で『力の魔神』は静かに消えていった。

 一人残されたブラストはやり場のない怒りを滲ませながら、ユファの元へと戻っていくのだった。

 ……
 ……
 ……

 そしてブラストがユファの元へと辿り着いた時、レアはその場で倒れており、ユファを守るように人間の男も地面に片膝をついていた。

「ラルフ! しっかりしなさい、もう少し私が強ければ……っ!!」

 どうやらユファ側の魔族達もジーヌの配下達に苦戦しており、かなり危ないところのようだった。

 そこへ上空からブラストがユファに声を掛ける。

「おい、ユファ! どいつが敵だ?」

 ブラストの声にユファは空を見上げる。

「ブラスト……! 敵はアイツらよ!」

 ユファはレアを殺った憎き魔族とその一味の者達を指さす。

「仲間がいるならさっさとどかせよ? 悪いが今の俺は気分が悪い。最初に言っておくが全て壊すぞ」

 ユファはその言葉に慌てて『念話テレパシー』で『ベア』や『ロード』達に敵から離れるように告げた後、倒れているレアとラルフの身体を掴んでユファもまたその場から離れるのだった。

「屑共が……。全員粉々に吹き飛んでしまえ!」

 ――神域魔法『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』。

 空を覆い尽くす程の『発動羅列』が浮かび上がったかと思うと、夥しい数の魔法陣が出現していく。

 そこに『破壊』の大魔王『ブラスト』が魔力回路から一気に全ての魔力を放出すると、その膨大な魔力は魔法陣に吸い込まれていった。

 ――次の瞬間。

 光がブラストから放出されたかと思うと、その場にいたヌーに操られたレアの配下達の魔族が全員逃げる間も無く呑み込まれていき、やがて恐ろしい魔法の爆音と共に肉体が骨ごとグチャグチャと音を立てて潰れていく生々しい音が聞こえて破壊されるのだった。

 ラルフやベア、それにロードの者達は目を丸くしてその光景を見届ける。

「レア……! わ、私がもっと強ければ……!」

 ユファだけがそちらを見ずに足元に倒れている、レアとレインドリヒを悲し気に見つめるのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...