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渦巻く陰謀編
244.ヌーと大賢者
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レパートの世界出身の『レインドリヒ』が、リラリオの世界でソフィと会話していた頃、大賢者と大魔王ヌーが『ダール』の世界にあるヌーの城で対談をしていた。
「端的に言うがヌーよ、そろそろ私の配下に加わらないか?」
大賢者がそう言うと『ヌー』と呼ばれた大魔王は鼻を鳴らす。
「馬鹿な事を言うなよミラ。俺がお前達と協力関係にいるのは、あの化け者を潰す為だ」
長いテーブルを挟んで対面に座っていたヌーは、持っていたワインを喉に流し込んだ後に目を細めてそう答える。
「大人しく私についたほうがお前の今後の為だと思うがな? お前の持つ『実験体』から得られた知識から既に、私は既存の『魔法』を進化させてみせた。
お前は未だに『アレルバレル』でNo.2のつもりなのだろうが、常に時代は進んでいるぞ?」
大賢者がそこまで言うと、ヌーは持っていた空のワイングラスを手の中で粉々に割る。
「お前は俺を怒らせるためにここに来たのか? 話がそれだけならこの場でお前を殺してやってもいいんだぞ?」
そう口にした大魔王ヌーの身体から『金色』のオーラが纏われ始めた。
「ふふ、まあ落ち着け。大事な話があるのは本当だ」
そう笑みを浮かべて告げながら大賢者もまた『金色』のオーラを纏う。実際に戦うつもりではないが、護身と抑止の意味を込めた大賢者であった。
「ふん、ならつまらぬ事を言ってないで、さっさと本題を言いやがれ」
再び配下のメイドにワイングラスを持ってこさせたヌーは、新たにグラスに注がれたワインを飲み干す。
「当初の目的通り、大魔王ソフィを別世界へ送る事に成功した」
そこで初めてヌーは、口角を吊り上げて笑みを浮かべる。
「フン、そんな事はとっくの昔に知っている。それで?」
不機嫌さを滲ませたような口調だが、実際には機嫌の良さが見て取れるヌーの態度であった。
「そろそろソフィが『アレルバレル』の世界から消えた事を知った、残っている『九大魔王』達が、動き出すだろう」
「あの面倒な奴らか」
ヌーがまだ『アレルバレル』で覇権を握ろうと目をギラつかせて侵略を行っていた頃、まだ九大魔王とは呼ばれてはいなかったが、すでにソフィの配下となっていた『ディアトロス』や『イリーガル』をヌーは思い浮かべるのだった。
ヌーが居た頃の当時から大魔王『ソフィ』の片腕だったディアトロスには『智謀』から生み出される数々の戦略や作戦で、ヌーの軍勢は苦しめられた過去を持つ。
そしてディアトロスが立てた戦略を、疑問を持たずに真向から行動に移す『イリーガル』という大魔王は驚異的なまでに力が強く、ヌーの軍勢の多くを失う羽目になった。
大魔王ソフィだけでも敵にまわせば驚異的だったというのに、奴の配下の大魔王は誰をとっても面倒な奴らばっかりだったのである。
それでも群雄割拠の『アレルバレル』の『魔界』において、長きに渡りNo.2でいられた大魔王ヌーだからこそ、ソフィとの戦争でも生き残れたのであった。
「私の『概念跳躍』の魔法で多くの魔王共は別世界に閉じ込める事に成功したが、まだ『破壊』や『処刑』の大魔王が残っている。私はそちらの相手をしなければならないのだが、我らと同じ『概念跳躍』を使える『九大魔王』が今ソフィの居る世界に居るのだ……」
放っておいたら面倒な事になると、ヌーに視線で訴える大賢者だった。
「それで? 俺にその『概念跳躍』を使える『九大魔王』の相手をしろというのか?」
「端的に言えばそういう事だな。それに元々奴はお前の持つ『実験体』が居た世界の魔王だ。お前が何とかするのが本当のところは筋だろう」
大賢者の言葉にヌーが考える素振りを見せる。
「フルーフの世界の魔王? ああ思い出した」
そしてヌーは、邪悪な笑みを浮かべる。
「そういえば、ヒヨッ子の女が『アレルバレル』の世界に転移してきた事があったが、あの女が奴の配下の『九大魔王』なのか」
当時、フルーフを追って『アレルバレル』へ転移したユファは、アレルバレルの世界の中央大陸で、戦争中であったヌーの配下に見つかり殺されそうになったところをソフィに助けられたのである。
あの頃のユファは『真なる魔王』の領域には立っていたが、大魔王の階級からは程遠い状態で、ヌーの魔王軍のいち配下と同じくらいの強さだった。
「それならフルーフの配下に殺させればいいではないか。確か『魔王』レアだといったか? ヴァルテンの馬鹿の策略にまんまと騙されて、あの化け物と戦おうとしていただろう?」
そこまで言って厭味な笑みを浮かべてヌーは笑う。
大賢者はその笑みを浮かべるヌーに眉を寄せながらも口を開く。
「もちろんそれは考えているが、あの女はソフィしか見ていない。思い通りに機能しない者をアテにして重要な計画がオシャカになるのは困るのだ」
そこまで言って、大賢者はヌーにユファを殺させようとする。
「俺に何か旨味があるんだろうな?」
ヌーは骨董品の真贋をするような目で大賢者の目を見る。
「そうだな。お前の計画の手助けをするっていう事でどうだ? 私は大賢者だ、お前の計画に十分に役に立つと思うが?」
大魔王ヌーは大賢者の言葉に鋭利な牙を見せて、大満足と言った態度を取る。
「クックック、あんな半人前を片付けるだけでお前を利用できるという事か。そうかそうか、それは決して悪くはないな」
仮にも災厄の大魔法使いと呼ばれて『九大魔王』でもある『ユファ』に対して、半人前と言える魔族はそう多くはないだろう。
ソフィが居なければ確実にあの当時の『アレルバレル』の世界を支配出来ていたであろう、このヌーだからこそ吐ける言葉だった。
「では、交渉成立という事でいいな?」
大賢者の言葉に頷きを見せかけたヌーだが、そこで再び口角を吊り上げた。
「もう一つ条件がある。お前の持っている『根源の玉』を俺に一つよこせ」
『概念跳躍』の魔法が使えない者でも一度だけ他者を別の世界へ転移させることの出来る希少性のある『マジックアイテム』であり、ソフィをリラリオの世界へ転移させた要因のマジックアイテムである。
「何に使うつもりだ? あれがどれだけ稀有な物か分かるだろう?」
初老の男が今までより更に険しい表情を浮かべながらヌーに尋ねる。
「俺の計画に必要だからだ。それ以上でもそれ以下でもない」
大賢者もまた真意を確かめるような視線をヌーに送る。
大魔王ヌーという魔族も『概念跳躍』を使える為に、自身が別世界へ跳ぶだけならば『根源の玉』は必要の無い筈なのである。
しかしそれでもヌーの言う計画に必要だと言われてしまえば、頼んでいる立場に居る大賢者も頷く他無く、渋々といった態度で口を開いた。
「結果を出せよ」
どうやら大賢者は『根源の玉』を渡す決心はついているようだった。
そして、間髪入れずに再び口を開く。
「奴が本気になれば、俺もお前もただでは済まないという事だけは忘れるな」
「ああ……。それは俺が一番理解しているさ」
大賢者はその言葉に頷き、残っていたワインを飲み干して、ヌーに礼儀を返して世界から消えた。
――ヌーは『大賢者』が居なくなった後に独り言つ。
「最後に笑うのは俺一人だがな」
……
……
……
「端的に言うがヌーよ、そろそろ私の配下に加わらないか?」
大賢者がそう言うと『ヌー』と呼ばれた大魔王は鼻を鳴らす。
「馬鹿な事を言うなよミラ。俺がお前達と協力関係にいるのは、あの化け者を潰す為だ」
長いテーブルを挟んで対面に座っていたヌーは、持っていたワインを喉に流し込んだ後に目を細めてそう答える。
「大人しく私についたほうがお前の今後の為だと思うがな? お前の持つ『実験体』から得られた知識から既に、私は既存の『魔法』を進化させてみせた。
お前は未だに『アレルバレル』でNo.2のつもりなのだろうが、常に時代は進んでいるぞ?」
大賢者がそこまで言うと、ヌーは持っていた空のワイングラスを手の中で粉々に割る。
「お前は俺を怒らせるためにここに来たのか? 話がそれだけならこの場でお前を殺してやってもいいんだぞ?」
そう口にした大魔王ヌーの身体から『金色』のオーラが纏われ始めた。
「ふふ、まあ落ち着け。大事な話があるのは本当だ」
そう笑みを浮かべて告げながら大賢者もまた『金色』のオーラを纏う。実際に戦うつもりではないが、護身と抑止の意味を込めた大賢者であった。
「ふん、ならつまらぬ事を言ってないで、さっさと本題を言いやがれ」
再び配下のメイドにワイングラスを持ってこさせたヌーは、新たにグラスに注がれたワインを飲み干す。
「当初の目的通り、大魔王ソフィを別世界へ送る事に成功した」
そこで初めてヌーは、口角を吊り上げて笑みを浮かべる。
「フン、そんな事はとっくの昔に知っている。それで?」
不機嫌さを滲ませたような口調だが、実際には機嫌の良さが見て取れるヌーの態度であった。
「そろそろソフィが『アレルバレル』の世界から消えた事を知った、残っている『九大魔王』達が、動き出すだろう」
「あの面倒な奴らか」
ヌーがまだ『アレルバレル』で覇権を握ろうと目をギラつかせて侵略を行っていた頃、まだ九大魔王とは呼ばれてはいなかったが、すでにソフィの配下となっていた『ディアトロス』や『イリーガル』をヌーは思い浮かべるのだった。
ヌーが居た頃の当時から大魔王『ソフィ』の片腕だったディアトロスには『智謀』から生み出される数々の戦略や作戦で、ヌーの軍勢は苦しめられた過去を持つ。
そしてディアトロスが立てた戦略を、疑問を持たずに真向から行動に移す『イリーガル』という大魔王は驚異的なまでに力が強く、ヌーの軍勢の多くを失う羽目になった。
大魔王ソフィだけでも敵にまわせば驚異的だったというのに、奴の配下の大魔王は誰をとっても面倒な奴らばっかりだったのである。
それでも群雄割拠の『アレルバレル』の『魔界』において、長きに渡りNo.2でいられた大魔王ヌーだからこそ、ソフィとの戦争でも生き残れたのであった。
「私の『概念跳躍』の魔法で多くの魔王共は別世界に閉じ込める事に成功したが、まだ『破壊』や『処刑』の大魔王が残っている。私はそちらの相手をしなければならないのだが、我らと同じ『概念跳躍』を使える『九大魔王』が今ソフィの居る世界に居るのだ……」
放っておいたら面倒な事になると、ヌーに視線で訴える大賢者だった。
「それで? 俺にその『概念跳躍』を使える『九大魔王』の相手をしろというのか?」
「端的に言えばそういう事だな。それに元々奴はお前の持つ『実験体』が居た世界の魔王だ。お前が何とかするのが本当のところは筋だろう」
大賢者の言葉にヌーが考える素振りを見せる。
「フルーフの世界の魔王? ああ思い出した」
そしてヌーは、邪悪な笑みを浮かべる。
「そういえば、ヒヨッ子の女が『アレルバレル』の世界に転移してきた事があったが、あの女が奴の配下の『九大魔王』なのか」
当時、フルーフを追って『アレルバレル』へ転移したユファは、アレルバレルの世界の中央大陸で、戦争中であったヌーの配下に見つかり殺されそうになったところをソフィに助けられたのである。
あの頃のユファは『真なる魔王』の領域には立っていたが、大魔王の階級からは程遠い状態で、ヌーの魔王軍のいち配下と同じくらいの強さだった。
「それならフルーフの配下に殺させればいいではないか。確か『魔王』レアだといったか? ヴァルテンの馬鹿の策略にまんまと騙されて、あの化け物と戦おうとしていただろう?」
そこまで言って厭味な笑みを浮かべてヌーは笑う。
大賢者はその笑みを浮かべるヌーに眉を寄せながらも口を開く。
「もちろんそれは考えているが、あの女はソフィしか見ていない。思い通りに機能しない者をアテにして重要な計画がオシャカになるのは困るのだ」
そこまで言って、大賢者はヌーにユファを殺させようとする。
「俺に何か旨味があるんだろうな?」
ヌーは骨董品の真贋をするような目で大賢者の目を見る。
「そうだな。お前の計画の手助けをするっていう事でどうだ? 私は大賢者だ、お前の計画に十分に役に立つと思うが?」
大魔王ヌーは大賢者の言葉に鋭利な牙を見せて、大満足と言った態度を取る。
「クックック、あんな半人前を片付けるだけでお前を利用できるという事か。そうかそうか、それは決して悪くはないな」
仮にも災厄の大魔法使いと呼ばれて『九大魔王』でもある『ユファ』に対して、半人前と言える魔族はそう多くはないだろう。
ソフィが居なければ確実にあの当時の『アレルバレル』の世界を支配出来ていたであろう、このヌーだからこそ吐ける言葉だった。
「では、交渉成立という事でいいな?」
大賢者の言葉に頷きを見せかけたヌーだが、そこで再び口角を吊り上げた。
「もう一つ条件がある。お前の持っている『根源の玉』を俺に一つよこせ」
『概念跳躍』の魔法が使えない者でも一度だけ他者を別の世界へ転移させることの出来る希少性のある『マジックアイテム』であり、ソフィをリラリオの世界へ転移させた要因のマジックアイテムである。
「何に使うつもりだ? あれがどれだけ稀有な物か分かるだろう?」
初老の男が今までより更に険しい表情を浮かべながらヌーに尋ねる。
「俺の計画に必要だからだ。それ以上でもそれ以下でもない」
大賢者もまた真意を確かめるような視線をヌーに送る。
大魔王ヌーという魔族も『概念跳躍』を使える為に、自身が別世界へ跳ぶだけならば『根源の玉』は必要の無い筈なのである。
しかしそれでもヌーの言う計画に必要だと言われてしまえば、頼んでいる立場に居る大賢者も頷く他無く、渋々といった態度で口を開いた。
「結果を出せよ」
どうやら大賢者は『根源の玉』を渡す決心はついているようだった。
そして、間髪入れずに再び口を開く。
「奴が本気になれば、俺もお前もただでは済まないという事だけは忘れるな」
「ああ……。それは俺が一番理解しているさ」
大賢者はその言葉に頷き、残っていたワインを飲み干して、ヌーに礼儀を返して世界から消えた。
――ヌーは『大賢者』が居なくなった後に独り言つ。
「最後に笑うのは俺一人だがな」
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