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ヴェルマーの闘技場編
236.リディアVSユファ
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「それではBランクボス『ユファ』殿と、挑戦者『リディア』殿の試合を始めます! 準備は宜しいですか?」
リング上で審判を務める魔族が声高らかに確認を行う。戦う二人が頷いたのを確認して、審判は試合開始のコールをするのであった。
「それでは、試合開始!」
「貴様が期待外れではない事を祈る」
そう言ってリディアは右足を前に出し、腰を屈めながら右手を鞘に収まっている刀に手をかけた。これはミールガルド大陸の剣士でも珍しい、リディア特有の抜刀の構えである。
「それはこちらの台詞ね? 『レイズ』魔国の『フィクス』である私と戦おうというのだから、ある程度は持たせて頂戴よ?」
ユファは笑みを浮かべながら『身体強化』『魔力強化』『魔力障壁』の三つの魔法を同時に無詠唱で発動する。
まだまだ本気ではないとはいっても『上位魔族』程度では、これによって既にユファの身体に傷をつける事も出来なくなった。同じ魔法でもユファの魔力では効果が桁違いである。
「いくぞ……」
――居合。
刀に手をかけていたリディアの手は振りぬかれて、鈍い光を放つ刀の抜き身が見えた。そして次の瞬間には一気にユファの間合いに入っていた。
「……成程、そこそこ速いわね?」
しかしリディアの恐ろしい程の速度で放たれた刀の一撃は淡く紅いオーラを纏う右手の指で掴まれていた。
「でもその程度じゃ、どうにもならないわよ?」
刀を指でつまんだままユファは左足で、リディアのがら空きの右肩を目掛けて下から蹴り上げる。
「成程……」
ユファの左足での上段蹴りを腰を捻りながら左手で抑えにいく。
足を掴んだ瞬間に恐ろしい程の重さを感じたリディアは、刀を持つ手を離しながら思いきり後ろへ飛んで勢いを殺す。
大魔王領域のユファの蹴りを、生身の身体で抑え込むには力が足りない。
「チィ……ッ!」
ようやくリディアは、目の前に居るユファという魔族が、今まで戦ってきた有象無象の魔族ではないと理解する。
ユファは掴んだままのリディアの刀を投げ返す。
「隠している力があるなら直ぐに使いなさい? 何も出来ないままで、このまま終わりたくはないでしょう?」
ユファはまだ実力の半分も出してはいないが、今のままのリディアであればこのままでも十分だと感じたのだった。
そして投げ返された刀をリディアは受け取ると、そのまま鞘へ戻した。
「戻した……?」
自分の武器を戻したリディアを見て、ユファは訝し気に眉を寄せる。
「ああそうだな。お前の言う通りそうさせてもらおう」
リディアが今までの抜刀の構えから更に態勢を低くする。
そして身体から『淡く青い』オーラが浮かび上がってくる。
(最上位魔族階級の練度のオーラね。これが彼の本気という訳かしら?)
確かにこの世界ではかなりのモノであり、このオーラを発している者が『人間』だという事を考えると十分すぎる程の強者ではある。
――しかしそれでもラルフが目標とする程には、大層な人物にはユファには思えなかった。
ユファは『最上位魔族』の領域に到達しているそのリディアに合わせる為に、彼女も『淡く青い』オーラを纏い始める。
これで如何にリディアの戦力値が跳ね上がろうとも『真なる魔王』形態のユファには、あらゆる対応が出来る。
その筈だった――。
――刹那。
会場に居るほとんどの者達の眼からリディアが消えた。それはユファの目でさえぼんやりと影が映っただけだった。
しかしユファは何とかその一瞬映ったリディアに対して無意識で体を動かす。
リディアの振り切った刀の柄を『淡く青い』オーラを纏った足先で蹴り上げて、矛先を強引に変えた。
(い、今のは危なかった……っ!)
上手くリディアの攻撃を捌いた事でユファはホッとしてしまった。まだリディアの攻撃はそれで終わりではないというのに――。
「!?」
むしろ防がれた刀は囮でこちらの『柄のない光輝く刀』が本命であった。
「くっ……!」
まさに死角からの二刀目の斬撃。その矛はユファの肩口を浅くではあるが届いた。
ユファは痛みより先に、熱さが肩口から伝わって来るのを感じ取る。
そしてその一瞬の隙の間にリディアは再び、蹴り上げられた方の刀を器用に半回転させながら柄の部分を左手で掴み、そのままユファの反対側の肩を狙い刺し入れる。
「調子に乗るなぁ!」
その場でユファの目が『金色』に眩いたかと思うと、突き入れようとしていたリディアの『オーラ』を纏っていないほうの刀を『金色の目』で粉々に粉砕する。
持っていた刀が破壊されたことでリディアは一度距離を取った。そして再度抜刀の構えを見せながら、姿を晦ます。
まさに神速と言える程の行動を見せるリディアだが『災厄の大魔法使い』は決して甘くはない。
『淡く青い』オーラを纏ったユファが魔力を一気に開放すると、バチバチと音が辺りに鳴り響き始める。
――超越魔法、『終焉の雷』。
リディアの高速で動く体目掛けてリディアの魔法が追走する。
先程とは違い魔瞳である『金色の目』を体現させているユファには高速で動き回るリディアの姿が丸見えであった。
流石のリディアもユファの魔法を、避けられないと感じたのかその場で止まる。
「観念したか!」
ユファがそう言うとリディアは、一度ユファの方を見て笑みを浮かべた。
「!?」
何とリディアは両手に『柄のない二刀の光輝く刀』を具現化させて、両方の刀をクロスさせる。
そして迫りくるユファの魔法『終焉の雷』に目掛けて自ら突っ込んでいくのだった。
…………
「あいつ死ぬ気か!?」
ここまで一度も口を開かず試合を見ていたキーリが、ユファの放った魔法に飛び込んでいくリディアを見て口を開いた。
リング上を見ている観客もリディアが雷に打たれるだろうという予測を立てた。
しかし現実はそうならなかった――。
何とリディアはある程度は本気で放たれたユファの魔法を斬ったのであった。
「!?」
ユファは目を丸くして驚き、そして目の前で起きた現象を信じられぬままに呆然と見ていた。
…………
「クックック、オーラの技法を用いておる『ユファ』程の魔法でさえ斬るか」
ソフィは嬉しさを含んだ言葉を発しながら、リング上のその次の光景を見届ける。
魔法を物理的に斬られた過去がないユファは茫然としていたが、一瞬で距離をつめてくるリディアに我に返り『金色の目』でリディアを捉えようとする。
しかし身体を反転させながらリディアは『金色の目』から逃れながらも避けた反動を利用して半回転しながら、そこから更に加速してユファに迫ってくる。
「く……! まずいっ!」
先程の魔法を斬る程のリディアの攻撃力であれば、すでに張っている『障壁』や『身体強化』では防ぎきれないとユファは即座に判断する。
「『絶対防御』!!」
ユファは神域の領域を除いて防御系魔法の最終形である『絶対防御』を使うのだった。
リディアの斬撃は完全にユファの魔法によって防がれた。
「ちっ! 面倒な魔法を使いやがる」
ユファの耳にその言葉を残した後、リディアは再び距離を取る。
縦横無尽にリング上を走り回るリディアの速度は、異常ともいえる程に速い。
観客席にいる観客は勿論の事、魔族で言えば既に『魔王』の領域に片足を踏み込んでいる筈のラルフですら、今のリディアの姿が見えない。
「ま、まさか……。こ、これ程とは!」
ラルフは自分がユファに鍛えられた事で追い抜いたとまでは思ってはいなかったが、リディアの背中に触れるくらいは近づけたと思っていた。
しかし今『淡く青い』オーラを纏いながらにして、尚且つ『金色の目』を使って、リディアの姿を追いかける師の様子を見て、まだまだリディアに追いついていないという現実を目の当たりにするのだった。
…………
ユファは『終焉の雷』を斬られた事よりも、今こうしてある程度本気で戦っている自分に驚いていた。
当初は本当にラルフより強いかどうかを確かめる程度の相手だと思っていた。実際に戦闘を始めるとすでにそういう域ではない事を悟る。
あのお方がこの男に目をかけている理由が同じ『大魔王』の領域にいる自分には分かる。
――そしてユファは一つの結論に達した。
それは過去に『ラルフ』に対しても少しだけ考えた発想。そしてその先へと、思考は到達させられた。
――こいつは危険だ。今のうちに殺しておく。
…………
「む! ユファよ、それはいかぬ!」
観客室にいるソフィが叫ぶが、ユファの放つ魔法の方が速い。
――神域魔法、『天空の雷』。
今後のリディアの成長に懸念を抱いたソフィの忠実な配下は、無詠唱ではあるが確実に殺すつもりで神域魔法を放つのだった。
「!!」
リディアは先程の『終焉の雷』のように、魔法を斬ろうと『柄のない二刀の光輝く刀』で両刃をクロスにする。
――バチバチという音を立てながら雷神の一撃は、リディアの身体を焼き尽くさんと迫るのだった。
リング上で審判を務める魔族が声高らかに確認を行う。戦う二人が頷いたのを確認して、審判は試合開始のコールをするのであった。
「それでは、試合開始!」
「貴様が期待外れではない事を祈る」
そう言ってリディアは右足を前に出し、腰を屈めながら右手を鞘に収まっている刀に手をかけた。これはミールガルド大陸の剣士でも珍しい、リディア特有の抜刀の構えである。
「それはこちらの台詞ね? 『レイズ』魔国の『フィクス』である私と戦おうというのだから、ある程度は持たせて頂戴よ?」
ユファは笑みを浮かべながら『身体強化』『魔力強化』『魔力障壁』の三つの魔法を同時に無詠唱で発動する。
まだまだ本気ではないとはいっても『上位魔族』程度では、これによって既にユファの身体に傷をつける事も出来なくなった。同じ魔法でもユファの魔力では効果が桁違いである。
「いくぞ……」
――居合。
刀に手をかけていたリディアの手は振りぬかれて、鈍い光を放つ刀の抜き身が見えた。そして次の瞬間には一気にユファの間合いに入っていた。
「……成程、そこそこ速いわね?」
しかしリディアの恐ろしい程の速度で放たれた刀の一撃は淡く紅いオーラを纏う右手の指で掴まれていた。
「でもその程度じゃ、どうにもならないわよ?」
刀を指でつまんだままユファは左足で、リディアのがら空きの右肩を目掛けて下から蹴り上げる。
「成程……」
ユファの左足での上段蹴りを腰を捻りながら左手で抑えにいく。
足を掴んだ瞬間に恐ろしい程の重さを感じたリディアは、刀を持つ手を離しながら思いきり後ろへ飛んで勢いを殺す。
大魔王領域のユファの蹴りを、生身の身体で抑え込むには力が足りない。
「チィ……ッ!」
ようやくリディアは、目の前に居るユファという魔族が、今まで戦ってきた有象無象の魔族ではないと理解する。
ユファは掴んだままのリディアの刀を投げ返す。
「隠している力があるなら直ぐに使いなさい? 何も出来ないままで、このまま終わりたくはないでしょう?」
ユファはまだ実力の半分も出してはいないが、今のままのリディアであればこのままでも十分だと感じたのだった。
そして投げ返された刀をリディアは受け取ると、そのまま鞘へ戻した。
「戻した……?」
自分の武器を戻したリディアを見て、ユファは訝し気に眉を寄せる。
「ああそうだな。お前の言う通りそうさせてもらおう」
リディアが今までの抜刀の構えから更に態勢を低くする。
そして身体から『淡く青い』オーラが浮かび上がってくる。
(最上位魔族階級の練度のオーラね。これが彼の本気という訳かしら?)
確かにこの世界ではかなりのモノであり、このオーラを発している者が『人間』だという事を考えると十分すぎる程の強者ではある。
――しかしそれでもラルフが目標とする程には、大層な人物にはユファには思えなかった。
ユファは『最上位魔族』の領域に到達しているそのリディアに合わせる為に、彼女も『淡く青い』オーラを纏い始める。
これで如何にリディアの戦力値が跳ね上がろうとも『真なる魔王』形態のユファには、あらゆる対応が出来る。
その筈だった――。
――刹那。
会場に居るほとんどの者達の眼からリディアが消えた。それはユファの目でさえぼんやりと影が映っただけだった。
しかしユファは何とかその一瞬映ったリディアに対して無意識で体を動かす。
リディアの振り切った刀の柄を『淡く青い』オーラを纏った足先で蹴り上げて、矛先を強引に変えた。
(い、今のは危なかった……っ!)
上手くリディアの攻撃を捌いた事でユファはホッとしてしまった。まだリディアの攻撃はそれで終わりではないというのに――。
「!?」
むしろ防がれた刀は囮でこちらの『柄のない光輝く刀』が本命であった。
「くっ……!」
まさに死角からの二刀目の斬撃。その矛はユファの肩口を浅くではあるが届いた。
ユファは痛みより先に、熱さが肩口から伝わって来るのを感じ取る。
そしてその一瞬の隙の間にリディアは再び、蹴り上げられた方の刀を器用に半回転させながら柄の部分を左手で掴み、そのままユファの反対側の肩を狙い刺し入れる。
「調子に乗るなぁ!」
その場でユファの目が『金色』に眩いたかと思うと、突き入れようとしていたリディアの『オーラ』を纏っていないほうの刀を『金色の目』で粉々に粉砕する。
持っていた刀が破壊されたことでリディアは一度距離を取った。そして再度抜刀の構えを見せながら、姿を晦ます。
まさに神速と言える程の行動を見せるリディアだが『災厄の大魔法使い』は決して甘くはない。
『淡く青い』オーラを纏ったユファが魔力を一気に開放すると、バチバチと音が辺りに鳴り響き始める。
――超越魔法、『終焉の雷』。
リディアの高速で動く体目掛けてリディアの魔法が追走する。
先程とは違い魔瞳である『金色の目』を体現させているユファには高速で動き回るリディアの姿が丸見えであった。
流石のリディアもユファの魔法を、避けられないと感じたのかその場で止まる。
「観念したか!」
ユファがそう言うとリディアは、一度ユファの方を見て笑みを浮かべた。
「!?」
何とリディアは両手に『柄のない二刀の光輝く刀』を具現化させて、両方の刀をクロスさせる。
そして迫りくるユファの魔法『終焉の雷』に目掛けて自ら突っ込んでいくのだった。
…………
「あいつ死ぬ気か!?」
ここまで一度も口を開かず試合を見ていたキーリが、ユファの放った魔法に飛び込んでいくリディアを見て口を開いた。
リング上を見ている観客もリディアが雷に打たれるだろうという予測を立てた。
しかし現実はそうならなかった――。
何とリディアはある程度は本気で放たれたユファの魔法を斬ったのであった。
「!?」
ユファは目を丸くして驚き、そして目の前で起きた現象を信じられぬままに呆然と見ていた。
…………
「クックック、オーラの技法を用いておる『ユファ』程の魔法でさえ斬るか」
ソフィは嬉しさを含んだ言葉を発しながら、リング上のその次の光景を見届ける。
魔法を物理的に斬られた過去がないユファは茫然としていたが、一瞬で距離をつめてくるリディアに我に返り『金色の目』でリディアを捉えようとする。
しかし身体を反転させながらリディアは『金色の目』から逃れながらも避けた反動を利用して半回転しながら、そこから更に加速してユファに迫ってくる。
「く……! まずいっ!」
先程の魔法を斬る程のリディアの攻撃力であれば、すでに張っている『障壁』や『身体強化』では防ぎきれないとユファは即座に判断する。
「『絶対防御』!!」
ユファは神域の領域を除いて防御系魔法の最終形である『絶対防御』を使うのだった。
リディアの斬撃は完全にユファの魔法によって防がれた。
「ちっ! 面倒な魔法を使いやがる」
ユファの耳にその言葉を残した後、リディアは再び距離を取る。
縦横無尽にリング上を走り回るリディアの速度は、異常ともいえる程に速い。
観客席にいる観客は勿論の事、魔族で言えば既に『魔王』の領域に片足を踏み込んでいる筈のラルフですら、今のリディアの姿が見えない。
「ま、まさか……。こ、これ程とは!」
ラルフは自分がユファに鍛えられた事で追い抜いたとまでは思ってはいなかったが、リディアの背中に触れるくらいは近づけたと思っていた。
しかし今『淡く青い』オーラを纏いながらにして、尚且つ『金色の目』を使って、リディアの姿を追いかける師の様子を見て、まだまだリディアに追いついていないという現実を目の当たりにするのだった。
…………
ユファは『終焉の雷』を斬られた事よりも、今こうしてある程度本気で戦っている自分に驚いていた。
当初は本当にラルフより強いかどうかを確かめる程度の相手だと思っていた。実際に戦闘を始めるとすでにそういう域ではない事を悟る。
あのお方がこの男に目をかけている理由が同じ『大魔王』の領域にいる自分には分かる。
――そしてユファは一つの結論に達した。
それは過去に『ラルフ』に対しても少しだけ考えた発想。そしてその先へと、思考は到達させられた。
――こいつは危険だ。今のうちに殺しておく。
…………
「む! ユファよ、それはいかぬ!」
観客室にいるソフィが叫ぶが、ユファの放つ魔法の方が速い。
――神域魔法、『天空の雷』。
今後のリディアの成長に懸念を抱いたソフィの忠実な配下は、無詠唱ではあるが確実に殺すつもりで神域魔法を放つのだった。
「!!」
リディアは先程の『終焉の雷』のように、魔法を斬ろうと『柄のない二刀の光輝く刀』で両刃をクロスにする。
――バチバチという音を立てながら雷神の一撃は、リディアの身体を焼き尽くさんと迫るのだった。
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