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魔族の王陥落編

166.再会する者達

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「う、嘘でしょう?」

 根源魔法である『ルート・ポイント』はその者が今一番必要だと思う人の元へ、届けるという古の魔法である。

 でもそれがまさか自分の恩人であり、違う『世界』に居る筈の大魔王ソフィの元だとは思わなかった。

「こ、この世界にソフィ様がいるの? ほ、本当に?」

 そしてユファの言葉にシスが頷く前に、部屋が開けられて人が入ってくる。

「話し声がするが、起きたのかシスよ」

「え?」

 呆然としているユファは普段であれば絶対に見せない表情のまま、入ってきた人物たちを見る。

「む? お主は……。まさか、ユファか?」

 驚いた顔でソフィはユファを見て口を開くが、それ以上に驚いているユファは目を見開いてソフィを見つめる。

 そしてゆっくりと、ユファの目から雫が零れ落ちた。

「そ、ソフィ様……!」

 幾千年という長い長い年月の果て、元の世界でもなければ『アレルバレル』でもない世界で、二人は再会を果たすのであった。

 ……
 ……
 ……

 ソフィとユファが再会を果たしている頃『魔王』レアは直近まで住んでいた山奥を離れて、過去にレアがこの世界を支配した時に最後まで手を焼き、異空間へと封じ込めた大陸へと向かっていた。

「龍族は面倒だけどぉ、ソフィちゃんの力を測れる存在なんて……、多くはいないからねぇ」

 その大陸の名前は『ターティス』と呼ばれていて、神にもっとも近い種族とされている種族、が住んでいた大陸である。

 かつてこの大陸でこれから会う龍族の王と、魔王レアはヴェルマー大陸の同胞達を守る為に戦った過去がある。

 その時のレアも既に『魔王』としての領域へと足を踏み入れてはいたが、流石に相手もこの世界の調停者と呼ばれる龍族の王であった為に滅ぼすには力が足りず、仕方なく相手の体力を削り切った後に、古の『時魔法タイム・マジック』で大陸ごと海に沈めて、その大陸を世界から除外させて時を止めていたのであった。

 今回その龍族の王を復活させるしかなくなり、その事を考えたレアは憂鬱な気分に陥っていた。

 何故なら魔王となったレアでさえ、ソフィの力を測るという目的がなければ、出来るだけ接触は避けたいと考えていた者達なのである。

 もし復活させても自分の思惑通りに行かなければ、再び龍族の王と戦う事になるかもしれない。

 レアは面倒な事だと考えながらもどこか、久々の再会を喜んでいる自分も居る事に気づいた。

 自分はやはり生粋の『魔族』なんだなと、どこか客観的に自分の事を考えるのであった。

 その大陸はヴェルマー大陸より遥か南に位置しており、周りは海に囲まれていて『ターティス』以外の大陸はない。

「交渉になるかどうかも怪しいけどぉ、念には念を入れておきましょうかぁ」

 ――そう口にすると『魔王』レアは詠唱を始める。

 すると海が割れて何もない場所に、徐々に陸が朧げに出現する。

「さぁてぇ『空間除外イェクス・クルード』で除外させていたから時間は止まっていたと思うけどぉ、果たしてどうなっているかしらねぇ?」

 レアがそう言って全体の半分だけを出現させた『ターティス大陸』へと降り立つ。

 ――その大陸は神秘的だった。

 周りは海に囲まれていて、人間や魔族の手が入っておらず、魔法で作られた建物は煌びやかな装飾が至る所に施されている。

 何千年も経っているにもかかわらず、傷や亀裂等が一切入っていない。

 まさに太古の昔に、神に近いとされていた種族に相応しい場所だった。

 『ターティス』大陸の中央に位置する場所に一つの宮殿があった。

「さて、ここにアイツが居たと思うけどぉ」

 ――その場所こそが最後に『魔王』レアが、龍族の王と戦った場所であった。

 レアが宮殿の中に入ると中にはぽつんと、クリスタルが中央に一つあった。

 そのクリスタルの中に魔族とも人間とも違う『人型の生物』が眠っていた。

 ゆっくりとレアはクリスタルに近づき触れると、その瞬間にクリスタルは音を立てて割れるのであった。

「さぁて……『キーリ』ちゃん目覚めなさい?」

「……」

 キーリと呼ばれたレアと同じくらいの見た目である、がゆっくりと目を覚ます。

 【種族:龍族 名前:キーリ 年齢:???
  魔力値:??? 戦力値:??? 所属:ターティス】。

 キーリと呼ばれた少女はぼんやりとしていたが、徐々に目の焦点がしっかりしていき、やがて目の前に立つ『魔王』レアをその視界に捉えた。

「―――!」

 次の瞬間、激しい怒りを露わにした少女『キーリ』が、レアに向けて攻撃をしようとする。

「あらら? 神に近いとされていたが、激情に支配されていては笑われるわよぉ?」

 レアは薄く笑みを浮かべながらキーリに向けて『金色の目ゴールド・アイ』を放つのだった。

 しかしそのキーリは今のレアですら見えない速度で『金色の目ゴールド・アイ』を躱す。

「そうよねぇ、やっぱりオーラすら纏っていないと、あんたを相手に簡単にはいかないわよねぇ」

 キーリはいつの間にかレアの背後にまわり、小さな手をレアの内臓めがけて突き入れようとする。

 レアは器用に前屈をしながら、背後からのキーリをの攻撃を避けるが、強引に身体を前に倒した事でスカートの中が丸見えだった。しかしそんな事を気にするレアではない。

「うふふ、えっちねぇ?」

 殺し合いの最中にも拘らず、レアは上機嫌でそんな事を宣う。

 キーリは距離を取って不思議な構えをとる。

 左手の手の平を上に向けて、右手は添える様に左手首を掴む。

 すると次の瞬間、レアの身体は硬直して動けなくなるのであった。

「あ、それは、ま、っずいわねぇ!」

 キーリは今度は左手の手の平を下に向けて、右手の人差し指で自らの左手首を突き刺した。

 ぼたりぼたりと手首から出血がするが、構わずにどんどんと突き入れていき指の第二関節までめり込み、指が完全に反対側から見えるくらいまで差し込むと、レアはそれまで以上に苦しみながら額に大量の脂汗を浮かばせた。

 ――まさに神通力の如く遠距離からレアは、攻撃を受け続けて抵抗が出来ない。

「――!」

 そしてキーリが何かを唱えると、レアは地面に倒れ伏した。

 …………

 しかしキーリはその場から動かずに、レアが何かをするのを待っていた。

 やがてレアは起き上がり、無表情のままキーリを見る。

「ふふっ、やっぱり誘いにはのらないかぁ。流石に龍族の始祖様は違うわねぇ?」

「――」

 キーリは何かをレアに言った後に笑みを浮かべるが、このままではキーリが何を言っているのか理解が出来ない。

 どうやらこの世界の言語ではないらしい。

「うーん……。キーリちゃんが何言ってるのか、分からないのは困るのよねぇ」

 そう言うとレアは、キーリに向けて手を翳しながら何かを唱えた。

 キーリは別段危険を感じなかった為か、動かずに口だけを動かす。

「……? この空間だけに干渉する魔法か?」

 次の瞬間、レアはキーリが話している言葉が分かるようになった。

 古の『大魔王』フルーフが編み出した古代魔法の一つだった。

 言葉の通じない相手であろうとも、契約無しで一時的に話す言語を理解できる。

「ざんねーん! 単にキーリちゃんの言葉を、分かるようにしただけよぉ?」

 先程殺されかける程の攻撃を受けたというのに、くすくすとレアはキーリに笑いかける。

「ふん、お前はいつも他者を馬鹿にする態度をとる奴だな」

 心底楽しそうに笑うレアに溜息を吐くキーリであった。

「それで? 今頃ここを復活させてどういうつもりなんだよ? 『魔族の王レア』」

 先程までの戦いはあくまでもキーリの憂さ晴らしと言った様子で、今は冷静にレアの言葉を聞こうとするキーリだった。

「そうねぇ。少し貴方に手伝ってもらいたいことがあるのよねぇ?」

 そう言ってレアは首を傾けながら、キーリを射貫くように目を細めてそう告げるのであった。
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