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魔族の王陥落編

163.過去のアレルバレル

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 ――『王』『フィクス』『ビデス』『トールス』『ディルグ』。

 全ての指揮官を失った『ラルグ』魔国軍は、もはや敗走する他に選択肢が残されてはいなかった。

 魔族達は『ヴェルマー』大陸全土を統一したへとなり下がり、その無様な姿を晒しながら敗走する。

 しかし散り散りに魔族達が逃げても、ソフィの配下達である五体の『ロード』や、遊撃部隊達が、その魔族達の命を狩り取っていく。

 サシスの街の方面でも冒険者達やリディア達が掃討に力を入れて、数千を超えるラルグ魔国軍達は徐々にその数を減らしていくのであった。

 ケビン王国領内では国民達のソフィの配下達や冒険者達を送る歓声で、まるで地鳴りのような音が鳴り響いていた。

 この歓声は王城にも轟いていて、王城にいる貴族達も笑みを浮かべて声をあげていた。

 そしてケビン王は、あの時の少年が齎《もたら》した言葉を思い出していた。

(確かに他国の民の為にここまでする事ができる者であれば、あの時の言葉もまた嘘ではないのだろう)

 ――『国を動かす立場の者が、一番に考えるのは弱い者の立場だ。上の者が下の者を考えずに行動して、皆を不幸にするのは決して行ってはならぬ事だ』。

 この言葉はケビン王国の王宮内にソフィを招いた時に、彼が口にした言葉であった。

(確かにその通りだ……)

 ケビン王は横で少年の配下だという魔物達を見て、忌々しそうにしている

(今の王国で本当に民を思い、民の為に命を捨てる……。そんな覚悟のある者達は、どのくらい居るだろうか)

 こうして国を助けてもらっている事に感謝どころか、憤懣《ふんまん》やるかたない様子の公爵を見ていると、どうにも自分達の事が情けなくなるケビン王であった。

 ――そして『レルバノン』の屋敷の近くに多く居たラルグの魔族達は、ソフィの魔瞳『金色の目ゴールド・アイ』によって完全にその命は途絶えた。

 そんなソフィの元に『シチョウ』が近づいてくる。

「お疲れ。ようやく終わったな」

「うむ……。我はこれから王国の方を見に行こうと思うが、お主はどうする?」

「ああ、当然俺もついていくよ」

「そうか。ではレルバノンが戻り次第王国へ飛ぶから、準備をしておいてくれ」

 シチョウは頷きを見せながら、屋敷へと歩を進めるのだった。

 ……
 ……
 ……

「ソフィさんって、そこまで凄かったの?」

 レルバノンの屋敷の中にある『シス』が眠っていた寝室のベッドの上で、彼女はユファから昔のソフィの話を聞いていたところだった。

「私の知る限りでは、ね」

 レイズ魔国で『最強の魔導士』と呼ばれていた『ヴェルトマー』にここまで言わしめるのだから、相当なものなのだろう。

「ヴェルはソフィさんと、会った事があるの?」

「もちろんあるわよ? 私も『アレルバレル』の世界へ行った事があるからね」

「え!?」

 驚愕の言葉にシスは素っ頓狂な声をあげる。

「大魔王フルーフが編み出した『概念跳躍アルムノーティア』は研究の末に私も使えるようになったし、同様に『魔王』レアも使える筈よ」

 『世界間跳躍』という魔法は、想像以上に使える者が多いようだ。

「もちろん誰にでも使えるわけじゃないわよ? フルーフ様の生きた時代を知る者の中、それも相当の実力者くらいなものだし。それに一度使えば、今の私でさえも数日は使えないくらい魔力を持っていかれるからね」

「そうなのね……。それでヴェルはソフィさんと会ったって言っていたけれど、その後はどうなったの?」

 ユファはそこまで詳しくは話すつもりはなかったらしく、どうしようかと少し渋りながらもやがては教えてくれるのであった。

「アレルバレルの世界へ跳んだフルーフ様が帰って来なくなり、再戦を挑もうとしていた私は彼の魔力の残滓を探りながら『概念跳躍アルムノーティア』を使って『アレルバレル』の世界へ飛んだの」

 これから話す内容が相当に苦々しい思い出なのか、ユファはその先を話す前に小さく溜息を吐いた。

「地獄よ……。あそこは地獄だった……」

「え……?」

「アレルバレルの世界にある『魔界』という場所にはね、

「ヴェルマー大陸みたいな?」

 私がそう質問するとヴェルは首を振った。

「そういう次元じゃないのよ。私が『概念跳躍アルムノーティア』した時代の『アレルバレル』は、同士の戦争の真っ最中で、少しでも相手に魔力を感知されてしまえば、それこそ直ぐに『魔王』階級クラスの刺客が送り込まれてくるのよ……」

 この世界では『ヴェルマー』大陸でさえ『最上位魔族』までが主力であり、現代の『ラルグ』魔国王である『シーマ』でさえ『魔王』階級クラスには達していないのである。

 もしも『ヴェルマー大陸』に『魔王』階級クラスの魔族の存在が居れば、直ぐに制圧されてしまうだろう。

 だが、そんな『魔王』がアレルバレルの世界では、単なる刺客として放たれる偵察兵のような扱いだったというのだから驚くなという方が難しいだろう。

「私も元の居た世界ではそれなりに有名だった事もあって『災厄の大魔法使い』と呼ばれていたけど『アレルバレル』の世界に『概念跳躍アルムノーティア』した時には、必死に魔力を隠蔽して姿を隠して怯えながら逃げる事しかできなかったのよ……」

 シスはあまりに現実離れしすぎた話に、中々ついていけずピンとこない。

 シスが見てきたこの目の前に居る『ヴェルトマー』は、この世界で三千年間もの間『最強の魔導士』と呼ばれており『ヴェルトマー』が戦場に立てば勝利が確実だと言われる程だった。

 そんな『ヴェルトマー』が、更に強いというで怯えながら魔力を隠して、逃げ延びるのが精一杯だったという。

「当時のアレルバレルは群雄割拠で、様々な場所に『大魔王』の勢力が蔓延っていた。そんな中で、私はと呼ばれる大魔王の一味に見つかってね……? その時に私はあの方ソフィに救われたのよ」

 ユファは当時の事を思い出しながら、嬉しそうな顔を浮かべるのであった。

 ……
 ……
 ……
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