上 下
160 / 1,915
シスの回想編

155.ヴェルトマーとの出会い11

しおりを挟む
 レルバノンが不思議に思うのも仕方がない。

 目の前でにやにやと笑みを浮かべている『ヴェルトマー』という存在は、何千年も戦場に身を置き研鑽に研鑽を重ねた大魔法使い。

 ――そしていにしえから『』と呼ばれていた存在なのだから。

 所謂予備の身体を用いている為に、本来の1/10程の魔力と戦力値しか現在は有してはいないが、それでも『最上位魔族』の最上位の領域に立っている。

 いくら魔力等が本来の力ではないとは言っても、卓越した知識と戦闘での戦い方は変わらない。

 ――『災厄の大魔法使い』と呼ばれると戦っている以上は、最上位とはいってもでしかない『レルバノン』が手玉に取られるのも無理はなかった。

 そして本来の『魔王』としての戦い方を見せようとその気になっていた『ヴェルトマー』の元に、唐突に別の方角から同時に複数の『魔法』が無詠唱で放たれた。

 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。

 ――超越魔法、『炎帝の爆炎エクスプロージョン』。

「……ちっ!」

 流石に完全に意表を突かれた事に加えて極大魔法である『万物の爆発ビッグバン』と『炎帝の爆炎エクスプロージョン』が、無詠唱でヴェルトマーに放たれた事で、彼女は攻撃を行う為に用意していた『魔力回路』から使うつもりがなかった膨大な魔力を放出させながら、こちらも無詠唱で神域レベルの『呪文』を使って身を守る。

 ――呪文、『絶対防御アブソリ・デファンス』。

 『ゴルガー』と『ネスツ』が放った魔法を『ヴェルトマー』は完全に無効化する。

 ヴェルトマーは目を紅くさせながら『魔力感知』を使って、ラルグ魔国軍の『ゴルガー』と『ネスツ』の位置を確認して追撃に備える。

「レルバノン様! ここは一度撤退しましょうぞ!」

 ゴルガーがレルバノンの前に立ちながらそう言い放つ。

 その言葉を聞いたレルバノンは冷静に現在の状況を見極めて頷く。

「いいですか? あの化け物から逃げる事は容易ではありません。侵攻の準備をさせていた、を今直ぐにあの化け物にぶつけなさい!」

 ゴルガーはレルバノンの言葉を受けて頷き、直ぐに念話テレパシーで魔族達に命令を下す。

「ちっ! しまったな。ついつい癖で本来の身体のように動いてしまった。絶対防御アブソリ・デファンス』は些か魔力の消費が著しいか……?」

 突如として現れた『ゴルガー』と『ネスツ』に対して追撃を警戒していた『ヴェルトマー』だったが、どうやらだと判断した事で、レルバノン達を完全に無視して自分の魔力を確かめ始めるのだった。

 そして自分の貯蔵の魔力量を調べ終えた彼女は、咄嗟の出来事であった為に事に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるのだった。

 ――いや、

 本体の体力回復用に用いている『代替身体だいたいしんたい』でなければ、先程の無詠唱で放たれた敵の『魔法』を考慮して取るべき対策としての『絶対防御アブソリ・デファンス』は、何も間違いではなかったのである。

 しかしそれはあくまで本来の身体であればの話であり『ヴェルトマー』としての彼女であれば、ここは魔力障壁と結界を織り交ぜて少しの被弾を許してでも、軽減という選択肢を取る事が最善の行動であった。

 それ程までに『絶対防御アブソリ・デファンス』のは『最上位魔族』の魔族の魔力では賄いきれないモノなのである。

「今のうちです! 一気に魔族達をけしかけなさい!」

 その言葉と同時に『ゴルガー』が号令を出した。

 次の瞬間には、この場に居る『ラルグ』魔国の魔族達が一斉に『ヴェルトマー』に向けて襲い掛かっていった。

「よし……! あの化け物が魔族達に意識を向けたのを確認したら、一斉に全魔力を用いて我々全員で攻撃をします。そしてその後はもう振り返らずに全力でラルグ魔国へ戻りますよ!」

 多くの戦力値300万以上の魔族達が一斉にヴェルトマーに向かうのを確認した後、ゴルガーとネスツは同時に頷いた。

 流石にヴェルトマーも今の身体の魔力で、この人数を相手にするのは厳しいと判断するのだった。

「くそっ! 仕方ないか」

 最悪ヴェルトマーは本来の身体を一時的に使って、この局面を一瞬でひっくり返そうと考えるのであった。

 そうなれば再び魔力の回復は数百年は伸びる事になるだろうが、ここでレイズ魔国を奴らに滅ぼされて、

 『大魔王ユファ』は、その選択を選ぼうとした。

 ――しかし、その瞬間であった。

「さぁ、今です! 出し惜しみなく一気に放ちなさい!」

 ――レルバノンの号令がかかったその瞬間。

「させませんよ!」

 ヴェルトマーに襲い掛かっていった魔族達が、膨大な魔力の渦に巻き込まれて吹き飛んでいく。

 その場に居る全ての者達が、凛とした女王の声の方を振り向くとそこには『レイズ』魔国の『セレス』女王と『リーゼ』達の魔法部隊に『ラティオ』が率いる近接近衛部隊。

 ――更には決死の覚悟の表情を見せて、ぎゅっと杖を握った『』が居た。

「お前たち! ヴェルトマーを援護しろぉっ!」

 リーゼ・フィクスの号令に『レイズ』魔国の全魔法部隊が一斉に詠唱を始めるのであった。

「もう……。私一人でいいと言ったのにねぇ……!」

 内心嬉しい気持ちを隠しつつも『ヴェルトマー』はそう呟く。

 レルバノンは『レイズ』魔国の脅威と呼べる『魔法部隊』の一斉に詠唱を聞いた事で、この数秒先に起こる事を考えて直ぐ様号令を出す。

「もう攻撃をしても間に合いません! 今の内に転移魔法を使いなさい!」

「……くっ! わ、分かりました!」

 レルバノンの言葉にゴルガーとネスツは『高等移動呪文アポイント』でラルグ魔国へと引き返していく。

 それを見届けた後に『レルバノン』も転移魔法を使おうとするが、それを見たヴェルトマーは残された『魔力』を注いでレルバノンに向けて高速でを放った。

 シスに教えた魔法『炎の連矢ファイアー・アロー』であった。

「く……っ!」

 レルバノンに『ヴェルトマー』の炎の矢が当たり、彼の身に熱を持った痛みが走る。

 中位魔法とはいっても放ったのは『ヴェルトマー』である。

 ――その威力は、おして然り。

 何とかレルバノンは転移魔法を発動に成功して、傷を負いながらも命からがら撤退をする事に成功する。

 そして次の瞬間に『レイズ』の全ての『魔法部隊』の詠唱が終わり、魔法陣が次々と空中を覆い尽くすように展開されていく。

 第一陣、第二陣、第三陣と『リーゼ』の巧みな号令に従いながら『魔法部隊』が数秒ごとに順番に魔法を発動させる事で、極大魔法の爆撃が折り重なるように連続して直撃していく。

 鳴り止まない爆音と連続魔法によって『ラルグ』の魔族達は慌てて逃亡を図ろうとするが、そこへ『セレス』女王と『リーゼ・フィクス』が更なる極大魔法を展開。

 ――最上位魔族の極大魔法は、敗走するラルグ魔国兵をこの場から脱出させる事を認めない。

 そして遂に『レイズ』魔法部隊全軍の魔法によって、攻めてきた『ラルグ』魔国軍全滅に成功するのであった。

「私が獲物を逃がすなんてね『』か、やるじゃない」

 『ラルグ』魔国軍を押し返す事に成功して喜ぶ『レイズ』魔法部隊の面々たちを尻目に、ヴェルトマーは『レルバノン』の存在を頭に記憶させたのだった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...