最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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シスの回想編

148.ヴェルトマーとの出会い4

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 早速『ヴェルトマー』がシスに魔法を教えてくれると言ってくれたので、シスはレイズの魔法訓練場に案内する。

 魔法訓練場の中は広く色々な訓練人形等が置いてあった。

 今はあんまり人が居ないようで、ほとんど貸し切りという状態であった。

 どうやら『魔法部隊』の入隊試験を続けて行っている為にあまり居ないのだろうと推測が出来る。

 流石に軍としてもだけを入隊させて、他を落とすというわけにはいかないのだろう。

「さて、それじゃあシス? 何でもいいから魔法を使ってみましょうか」

 ヴェルトマーの言葉にコクリと頷いたシスは、一番馴染みのある中位魔法を使おうと詠唱を始める。

「『炎の矢よ、敵を燃やせ!』」

 ――中位魔法『炎の連矢ファイアーアロー』。

 シスの発動した魔法は真っすぐに訓練人形に向かっていった。

 バチバチと火の粉がはねる音を出しながら、人形を炎の矢が焦がしていく。

「で、出来た!」

 ちゃんと魔法が発動出来た事にほっとした後に顔を綻ばせて、シスは! とばかりに視線をヴェルトマーの方に向けると、ヴェルトマーは眉間に皺を寄せていた。

「ん? 何それ……?」

 その時の表情をシスは生涯忘れないだろう。

 少し前に買ってきたミカンを食べようと持ってみると、腐っていた時のような表情を『ヴェルトマー』は浮かべていた。

「え……っと、私の得意な魔法、なんだ……けど」

(やっぱり私には才能がなかったんだ……。お姉さんを失望させちゃったかな……)

 ヴェルトマーは苛立ちを隠そうとせず、一人でブツブツと呟いている。

「じょ、冗談じゃないわよ! ど、どんな教え方をしたら、ここまで才能を無駄にさせる事ができるのかしら!」

 信じられないとばかりに手をわなわなと震わせていたが、やがてヴェルトマーは私の両手をがっしりと握る。

「いい? もう私以外から魔法を習うは金輪際止めなさい! これ以上貴方の才能を無駄にさせるわけにはいかないからね!」

 その時のお姉さんの表情は何かの決意に溢れていた。私はお姉さんの勢いの凄さに驚き、コクコクと慌てて頷いた。

「よし! もう今まで習ってきた事は、ぜーんぶ忘れちゃいなさい! まず最初に目を閉じて自分の魔力を感じるところから始めるわよ!」

 シスはそんな事を言われても、そこからすでにやり方が分からないのであった。

「じ、自分の魔力を感じる?」

 シスの質問に『そこからか』という感じでお姉さんは苦笑いを浮かべた。

「……成程ね。貴方は自分の魔力を把握しきれていないから『魔法の摂理』というモノを理解せずに、教科書通りに口頭で教わった事をそのまま詠唱しているだけに過ぎなかったって事ね」

 そう言うとヴェルトマーは左手の掌を上に向けて目を瞑る。

 そうすると掌の上で何やら渦のようなものが具現化されていくのだった。

「普通とは順番が逆だけど、貴方がさっき使った魔法を思い出しなさい。そして自分の体内に留めるように意識してみて?」

「う、うん。や、やってみる!」

 お姉さんに言われた通りに『魔法』を発動して自分の体内に向けて押し留める。

 その瞬間にシスは自分の身体全体に『魔力』がいき渡るような感覚を感じた。

「な、何これ!」

 彼女はきっと自分の膨大な魔力の貯蔵量に、ようやく気付いて驚いているのだろう。

 ヴェルトマーが何故興味の無い『レイズ』魔国の軍隊に入隊してまで、シスに魔法を教えようとしたか。

 その理由の一つがシスの『』であった。

 ヴェルトマーは城下でシスが『魔法』を使った時に見せた魔力の残滓、使であれば、見逃す事は決してない『シス』の膨大な魔力の貯蔵量を垣間見たのであった。

 そしてこれは誰にも言えない秘密ではあるが『ヴェルトマー』の本来の姿である『災厄の大魔法使い』と言われた『大魔王ユファ』と比べても目の前の才能がないと嘆いていた『シス』の方がなのをユファは完璧に理解したのである。

 『魔』をどこまでも、それこそ次元を越えてでも追求する彼女『大魔王ユファ』にとって『シス』の存在は見届けたい最高の逸材なのであった。

(この子は。このユファの全てを懸けて、最高の魔法使いに育てて見せるっ!)

「ようやく貴方は魔法を使う準備が整ったというわけよ。その身体に行き渡っている『魔力』の感覚を忘れないようにしてね?」

 お姉さんの言葉にシスはコクコクと何度も頷く。

「さて、それじゃあもう一度ね。その状態でさっきの魔法を唱えて見せなさい?」

 シスは訓練人形の方を向いて、先程と同じように詠唱を始めた。

 今度はさっきとは違い、体中に行き渡る魔力を保持した状態である。

「『炎の矢よ、敵を燃やせ!』」

 ――中位魔法、『炎の連矢ファイアーアロー』。

 これまで自分の『魔力』と向き合ってこなかったシスが、、その魔力に灯を灯すように、正確な詠唱を用いて

 次の瞬間、さっきとは比べ物にならない炎がシスの周りに具現化されていく。

 そして炎は矢の形に変わっていき詠唱者シスの言の葉が、炎の矢に意味をもたらせる。

 シスの炎に詠唱の言葉が乗って、炎の矢は訓練人形に向かっていく。

 爆裂音が響き渡りその方角にあった全ての訓練人形は、木っ端みじんに破壊されていき、その後ろの壁までもが粉々に吹き飛んだ。

 更に勢いが衰えるどころか唱えた詠唱の意味を世界に理解させるかの如く、シスの魔力はグングンと勢いを増していく。

 ヴェルトマーが指をパチンと鳴らす。

 するとシスの魔法の勢いが一気に消失してその場から消えた。

(あっはっ!! 最高だわ! これがこの子の本当の力なのよ! やっぱり私の目に狂いはなかったわね)

 シスの中位魔法は既に現役のレイズ魔国の『魔法部隊』達よりも魔力が上となっており、上位以上の魔法の詠唱を覚えて発動すれば、即座にシスの魔力と詠唱が共鳴を果たしてこれ以上の威力をあっさりと出して見せる事だろう。

「!?」

 魔法を使った筈の詠唱者であるシスが、訓練人形の惨劇に驚きを隠しきれない。

「あっはっはっはっは!! そうそう、貴方の才能ならこれくらい出来て当然なのよ? 分かった? ねぇ、分かった?」

 ヴェルトマーはようやく大満足といった様子で自分の事のように嬉しそうな顔を浮かべて、シスにぱちぱちと拍手を贈った後に、そのシスの手を握りながら何度も自分の才能に気づいたかと口にするのであった。

 しかしシスが何かを口にしようとしたその時、爆音に気づいた『魔法部隊』の管理者である副長が慌てて中へ入ってくるのだった。

「何の騒ぎだ……! こ、これは……、お、お前がやったのか!!」

 レイズ魔法部隊副長『エルダー・トールス』が、ヴェルトマーに対して怒鳴り込んでくる。

「ち、ちが……、今のは私が……」

 シスが慌てて弁論しようとするが、ヴェルトマーは握っていたシスの手を少しだけ強めながら、シスにウィンクをした後に、エルダーの方を向いて口を開いた。

「ええ、そうなのよ! 少しムシャクシャしてて、ついやっちゃったのよ。ごめんごめん!」

 ヴェルトマーは悪びれずに笑って見せるが、こんな事をしておいて管理者であるエルダーが、簡単に許せる筈がない。

「き、貴様ぁっ! ここは由緒あるレイズ魔法部隊の訓練場だぞ! こんな事をしてただですむと思う……なっ……!?』

 ヴェルトマーがパチンと指を鳴らすと、壁は淡い光に包まれた後に何事も無かったの如く元に戻っていく。

「直せるからって少しばかりやりすぎたわね、次からは気を付けるよ」

 煽るようにニヤニヤ笑いながら、ヴェルトマーはエルダーにそう告げるのであった。

「く……っ!! ば、馬鹿にするなよ新人がぁっ!!」

 そして激昂したエルダーは『ヴェルトマー』の胸倉を掴みあげた。

 あまりの勢いに隣に居た『シス』がびくびくっと身体を震わせる。

 怯えているシスを見たヴェルトマーは、

「オイ……?」

 キィイインという甲高い音が訓練場に響き渡ったかと思うと、ヴェルトマーの目が『紅い目スカーレット・アイ』に変わった。

「貴様……! この私の大事なシスを怯えさせて、ここから生きて帰れると思っているのか?」

 ヴェルトマーの周囲に青色のオーラが纏われ始めたかと思うと、夥しい数の『ことわり』が刻まれた『発動羅列』と共に、恐ろしい数の魔法陣が次々と訓練場に展開されていく。

 その数は入隊試験の時に『リーゼ』に対して施した羅列数をであった。

「ヒッ、ヒィッ!!」

「お前を今すぐにぶち殺してやるからね」

 次の瞬間、この国のNo.4である『エルダー・トールス』は、泡を吹いてその場で意識を失った。

「お、お姉……さ、ヴェル!!」

 目の前で『魔法部隊』の副長エルダーを葬ろうと『魔力』を魔力回路から放出させながら、魔法陣を発動させようとしていたヴェルトマーの名前を呼んで、強引に止めるシス王女であった。

 突然に自分の腕を握って来た小さな少女に名前を呼ばれたヴェルトマーは、慌てて発動間近であった『魔法』を止めた。

「……」

 どうやらシスが怯えていたところを見たことで、相当に頭にきていたのだろうヴェルトマーだったが、そのシス王女が必死に止めようとしたことによって、彼女はやっと我に返ったようであった。

「ヴェル……。ごめんね?」

 シスが謝罪をすると、ヴェルトマーの態度は急変してオロオロし始めた。

「な、何で貴方が謝るのよ!! 貴方は悪くないじゃない!」

「だ、だって……。壁を壊したのは私の所為だし……」

 シスがそう言うと優しい笑みを浮かべたヴェルトマーはシスの頭の上に手を置いた。

「全く、本当にあなたはいい子だね」

 ヴェルの手は温かく頭を撫でられているだけで、ふんわりとした気持ちが芽生えるのだった。

「まあ……。こんな騒ぎになった事だし、今回はここまでにしましょうか?」

「う、うん……!」

「邪魔が入ったけれど、貴方に『魔法』の才能があったって言った私の言葉は理解出来たでしょ? 貴方には才能があるんだから、絶対に忘れちゃだめよ?」

 こくりと頷いたシス王女を見たヴェルは、シスの頭に手を置いて撫でながら嬉しそうに、そして慈しむような笑みを向けるのであった。
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