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ヴェルマー大陸編
95.ヴェルトマー、決死の大魔法
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シュライダーは『シス』女王が弱っているとはいっても決して侮る事はしない。
彼の計算ではここまで私兵の『魔族』の数を減らすつもりはなかった。
シスを『最上位魔族』の中でも最強の魔法使いだという事までは理解していた。
しかし理解はしていたが先程シスが使用した『終焉の炎』を見た時にシュライダーは戦慄が走った程であった。
彼女がシュライダーの私兵に対して使った『超越魔法』は、完全に燃え尽きるまで業火が燃え上がっていた。
これまでの彼が経験してきた炎の『魔法』とは比較が出来ない程の熱量であった。
見た事のない『魔法』というモノは、それだけで不気味で怖いものである。
慎重な性格をしているシュライダーにとって、ここまでシスを弱らせるのは当然といえるのだった。
だがそれでも数百の魔族を引き替えに『レイズ』魔国最強の女王をここまで消費させられたのだから、決して大損という訳でもないとシュライダーは判断をするに至った。
「さぁ魔女『シス』よ、ここまでだ!」
シュライダーは剣を抜刀し『紅いオーラ』を具現化させながらその剣に『オーラ』を纏わせ始める。
どうやら『紅』のオーラを持っていた剣に『形成付与』を行ったのだろう。
こうした『紅のオーラ』の使い方は『上位魔族』がよく使うオーラの使用方法ではあるが『シュライダー』程の『最上位魔族』が使う事は珍しい事であった。
しかし『最上位魔族』であるシュライダーが行った『紅のオーラ』が纏われた事で、その既製品の剣は切れ味が明確に変わったと言えるだろう。
その恐ろしくも禍々しい『紅色の剣』で彼はシスを斬り刻もうとする。
直撃すれば『シス』女王はただでは済まないだろう。
そして多くの魔族を屠り続けた彼女の体力はもうあまり残されておらず、身体を必死に動かそうとするが、最早避ける事は不可能だとシス本人が悟ってしまった。
しかしそこに『ヴェルトマー』が身体を強引に突き出してシスの前に立ち、シュライダーの剣をシスの代わりに受けるのであった。
「う……っ、ぐ……!」
シュライダーの『紅のオーラ』を纏った剣は、ヴェルトマーの体を斜めに切り口鋭く斬り捨てる。
「そ、そんなっ! ヴェルッ!?」
魔力を操る事を出来なくする重病の所為で、身体強化の一つも出来てはいない生身のヴェルトマーの体である。
その『最上位魔族』であるシュライダーの一撃は、簡単に『ヴェルトマー』の命を奪おうとするのであった。
「……シ、……ス、あ……、なた……、だけ、は」
恐ろしい程の出血が『ヴェルトマー』の斬られた身体の箇所から溢れ出る。
口からも夥しい程の血を吐き出しながら彼女は、必死に絶命だけはするものかと堪える。
「貴方……さ、え……、生き……て……、いれ……ば、必ず……っ!!」
ヴェルトマーはシュライダーに背を向けて、シスに言い聞かせるように震える手でシスの両肩を掴みながら、息も絶え絶えに声を絞り出し続ける。
「いい……? 貴方を……、守って……、くれる……、ひ、人のとこ、ろへ……! わ、私が……!」
シュライダーがトドメとばかりに、背後からオーラを纏った剣をヴェルトマーの胸に突き入れる。
「し、しぶとい奴め! さ、さっさと死ねぇ!」
グサリという音が聞こえた後、ヴェルトマーの胸から剣が、みち、みちという肉が少しずつ貫かれていく生々しい音と共に、ヴェルトマーの身体を貫通していく。
「あ……っ、……うぅ……!」
シスの両目から涙が流れるのが止まらない。
目の前で師匠が、いや……、姉同然に今まで暮らしていたヴェルトマーが敵に殺されようとしているのだ。
それも自分を守ろうとして身を盾にしながらである。
彼女は今恐ろしい激痛の中で、自分を守ってくれている。
何も出来ないシスは、歯がゆさと情けなさでヴェルトマー以上に『シス』は痛い思いを堪えている。
そしてシス女王は今この時より、ラルグ魔国軍『シュライダー・クーティア』をこの世の誰よりも憎む対象となった。
「はぁはぁ……っ! シスぅ……、し、幸せ……に、生きて……ね?」
最後にシスに泣き笑いの表情を浮かべて病を患いながら、身体を切り刻まれながらもヴェルトマーは、決死の大魔法を放つ。
――これこそが『ガネーサ』へ向かう時に彼女が考えていたモノ。
そして大切に大切に残しておいた最後の『魔力』だった。
「い、いや! ヴェルッ! ヴェルーー!!」
――根源魔法、『ルート・ポイント』。
次の瞬間、シスの体は強制的に空に浮かび、そのまま驚異的な速度で転移させられていく。
「こ、……こ……れで……、だい……じょう……ぶ」
――自分の仕事は終わった。
『レイズ』魔国はもう大丈夫――。
シスさえ生きていれば何度でも蘇る。
たとえそこに『ヴェルトマー・フィクス』の姿がなくとも、見事にシスは国を立て直してくれると信じている。
「ええい! よ、余計な事をしてくれたな、死に損ないがああ!」
剣を『ヴェルトマー』の身体から強引に引き抜いた後、何度も何度も『ヴェルトマー』の身体を斬り刻み続ける。
もう既にヴェルトマーは事切れているのだが『シュライダー』はお構いなしに何度も何度も斬り続ける。
「はぁはぁはぁ、クソ! クソクソクソ!」
シュライダーはここまで『シス』女王を追い込んでおきながら、みすみすとシスを取り逃がしてしまった。
完璧主義者の彼にとって決してこれは許される事ではなかった。
「いいか、お前達! まだ生き残っている『レイズ』の者達を捕縛して『ラルグ』魔国へ連行しろ!」
どうやら彼はこのままでは、収まりがつかない様子であった。
――『レイズ』の女兵士達を慰み者にして死よりも酷い目にあわせた後、その姿を『レイズ』の女王である『シス』に見せつけて、この場で逃げた事を死ぬまで後悔させてやろうと、シュライダーは決心するのであった。
彼の計算ではここまで私兵の『魔族』の数を減らすつもりはなかった。
シスを『最上位魔族』の中でも最強の魔法使いだという事までは理解していた。
しかし理解はしていたが先程シスが使用した『終焉の炎』を見た時にシュライダーは戦慄が走った程であった。
彼女がシュライダーの私兵に対して使った『超越魔法』は、完全に燃え尽きるまで業火が燃え上がっていた。
これまでの彼が経験してきた炎の『魔法』とは比較が出来ない程の熱量であった。
見た事のない『魔法』というモノは、それだけで不気味で怖いものである。
慎重な性格をしているシュライダーにとって、ここまでシスを弱らせるのは当然といえるのだった。
だがそれでも数百の魔族を引き替えに『レイズ』魔国最強の女王をここまで消費させられたのだから、決して大損という訳でもないとシュライダーは判断をするに至った。
「さぁ魔女『シス』よ、ここまでだ!」
シュライダーは剣を抜刀し『紅いオーラ』を具現化させながらその剣に『オーラ』を纏わせ始める。
どうやら『紅』のオーラを持っていた剣に『形成付与』を行ったのだろう。
こうした『紅のオーラ』の使い方は『上位魔族』がよく使うオーラの使用方法ではあるが『シュライダー』程の『最上位魔族』が使う事は珍しい事であった。
しかし『最上位魔族』であるシュライダーが行った『紅のオーラ』が纏われた事で、その既製品の剣は切れ味が明確に変わったと言えるだろう。
その恐ろしくも禍々しい『紅色の剣』で彼はシスを斬り刻もうとする。
直撃すれば『シス』女王はただでは済まないだろう。
そして多くの魔族を屠り続けた彼女の体力はもうあまり残されておらず、身体を必死に動かそうとするが、最早避ける事は不可能だとシス本人が悟ってしまった。
しかしそこに『ヴェルトマー』が身体を強引に突き出してシスの前に立ち、シュライダーの剣をシスの代わりに受けるのであった。
「う……っ、ぐ……!」
シュライダーの『紅のオーラ』を纏った剣は、ヴェルトマーの体を斜めに切り口鋭く斬り捨てる。
「そ、そんなっ! ヴェルッ!?」
魔力を操る事を出来なくする重病の所為で、身体強化の一つも出来てはいない生身のヴェルトマーの体である。
その『最上位魔族』であるシュライダーの一撃は、簡単に『ヴェルトマー』の命を奪おうとするのであった。
「……シ、……ス、あ……、なた……、だけ、は」
恐ろしい程の出血が『ヴェルトマー』の斬られた身体の箇所から溢れ出る。
口からも夥しい程の血を吐き出しながら彼女は、必死に絶命だけはするものかと堪える。
「貴方……さ、え……、生き……て……、いれ……ば、必ず……っ!!」
ヴェルトマーはシュライダーに背を向けて、シスに言い聞かせるように震える手でシスの両肩を掴みながら、息も絶え絶えに声を絞り出し続ける。
「いい……? 貴方を……、守って……、くれる……、ひ、人のとこ、ろへ……! わ、私が……!」
シュライダーがトドメとばかりに、背後からオーラを纏った剣をヴェルトマーの胸に突き入れる。
「し、しぶとい奴め! さ、さっさと死ねぇ!」
グサリという音が聞こえた後、ヴェルトマーの胸から剣が、みち、みちという肉が少しずつ貫かれていく生々しい音と共に、ヴェルトマーの身体を貫通していく。
「あ……っ、……うぅ……!」
シスの両目から涙が流れるのが止まらない。
目の前で師匠が、いや……、姉同然に今まで暮らしていたヴェルトマーが敵に殺されようとしているのだ。
それも自分を守ろうとして身を盾にしながらである。
彼女は今恐ろしい激痛の中で、自分を守ってくれている。
何も出来ないシスは、歯がゆさと情けなさでヴェルトマー以上に『シス』は痛い思いを堪えている。
そしてシス女王は今この時より、ラルグ魔国軍『シュライダー・クーティア』をこの世の誰よりも憎む対象となった。
「はぁはぁ……っ! シスぅ……、し、幸せ……に、生きて……ね?」
最後にシスに泣き笑いの表情を浮かべて病を患いながら、身体を切り刻まれながらもヴェルトマーは、決死の大魔法を放つ。
――これこそが『ガネーサ』へ向かう時に彼女が考えていたモノ。
そして大切に大切に残しておいた最後の『魔力』だった。
「い、いや! ヴェルッ! ヴェルーー!!」
――根源魔法、『ルート・ポイント』。
次の瞬間、シスの体は強制的に空に浮かび、そのまま驚異的な速度で転移させられていく。
「こ、……こ……れで……、だい……じょう……ぶ」
――自分の仕事は終わった。
『レイズ』魔国はもう大丈夫――。
シスさえ生きていれば何度でも蘇る。
たとえそこに『ヴェルトマー・フィクス』の姿がなくとも、見事にシスは国を立て直してくれると信じている。
「ええい! よ、余計な事をしてくれたな、死に損ないがああ!」
剣を『ヴェルトマー』の身体から強引に引き抜いた後、何度も何度も『ヴェルトマー』の身体を斬り刻み続ける。
もう既にヴェルトマーは事切れているのだが『シュライダー』はお構いなしに何度も何度も斬り続ける。
「はぁはぁはぁ、クソ! クソクソクソ!」
シュライダーはここまで『シス』女王を追い込んでおきながら、みすみすとシスを取り逃がしてしまった。
完璧主義者の彼にとって決してこれは許される事ではなかった。
「いいか、お前達! まだ生き残っている『レイズ』の者達を捕縛して『ラルグ』魔国へ連行しろ!」
どうやら彼はこのままでは、収まりがつかない様子であった。
――『レイズ』の女兵士達を慰み者にして死よりも酷い目にあわせた後、その姿を『レイズ』の女王である『シス』に見せつけて、この場で逃げた事を死ぬまで後悔させてやろうと、シュライダーは決心するのであった。
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