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第二章 幕間

54.ギルド指定のないクエスト

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 冒険者ギルドの対抗戦が終わってから、早くも三か月が過ぎた。

 ソフィは『ディラック』の指定依頼を無事に達成したとして、約束通り勲章ランクがDに上がっていた。

 元々ソフィの掲げた目標では対抗戦で優勝をする事ではあったが『グラン』の冒険者ギルド長ディラックにとっては、この町のギルドに人が沢山所属してもらえる事が出来ればそれで満足と考えていたのである。

 そしてそのディラックの願いは、ソフィのおかげで叶えられる事となった。

 万年予選リーグ落ちであった『グラン』のギルドが、対抗戦の決勝トーナメントに進んだ事も大きかったが、それ以上の成果をソフィはこの町に齎してくれた。

 何せ対抗戦の中で勲章ランクAであった『スイレン』を倒して見せて、更には現役最強の剣士と名高い『リディア』をソフィが倒したという噂が、既に全国で騒がれる程に知れ渡っているからである。

 この噂の出所は『サシス』の町の冒険者と言われているのだが、対抗戦に参加していたとある冒険者が怪我で入院をしていた頃に、その病室にリディアが大怪我をした状態で入院してきた事で発覚したと言われている。

 更にそのリディアが目を覚ました時に『ソフィ、覚えていろ』という発言を実際に冒険者を含めた病室の患者全員が、その耳で聞いたというのだから信憑性は増すばかりであった。

 そして『ケビン王国』の領土である『ニビシア』の町でも冒険者ソフィの話題が連日のように出ているらしく、対抗戦にも出ていた『ルビア』が対抗戦の運営達と結託し『グラン』のギルドを反則負けにした事によって、ソフィの恨みを買って『ルビア』はひっそりと大会の裏で消されたという噂も広まっているようであった。

 この事に関しては『ニビシア』のギルドメンバーであった『ソリュウ』が頑なにコメントを出さない事から真実は闇の中ではあるのだが、実際に対抗戦以降に『ルビア』の姿を誰も見ていない為、その噂はかなり信用出来る事なのではないかと至る所で囁かれていた。

 このように冒険者ソフィという十歳のルーキーは、今では世間を大きく騒がしているとなっていて、そのおかげもあって今や『グラン』のギルドは大盛況である。

 これまで勲章ランクDやEが多くを占めていた『グラン』の所属の冒険者だが、今ではBランクも多く所属し始めている。

 その多くの冒険者が実際にソフィが戦う所を見ていた者達で、特に『リルバーグ』の町の冒険者ギルドとの対抗戦での人気は非常に高く『スイレン』戦と『ミラーリ』戦を見て『グラン』のギルドに移籍しようと決めた者も多く居るとの事であった。

 特にその新しく所属した冒険者の多くが『使』というのだから

 そして噂の的であるソフィはというと今日もまた『レグランの実』を食べながら、悠々自適の生活を送っているのであった。

「……はぁ、しかし最近は本当に退屈だな」

 レグランの実を齧りながら、ソフィはアウルベアの縄張りの森で『ベア』と談笑していた。

 現在のソフィの外見は人間の子供ではあるが、本人は魔族なので『ベア』たちといる方が落ち着くのだった。

 そしてベアの方も自分が認めた主が、頻繁に遊びに来てくれる事は好ましく思っていたのであった。

「今日はラルフ殿はどうなされたのですか?」

「ん? ああ、あやつは今日ディラックの所だ」

 ……
 ……
 ……

「では、これから宜しくお願いします」

 ラルフは微笑みを浮かべて冒険者ギルド長『ディラック』に頭を下げる。

「ああ、こちらこそ今回は君のような人材を得られた事はとても幸運だったよ、本当に……! 本当にソフィ君には感謝だな!」

 だはははっとディラックは、笑い声をあげた。

 ソフィの配下となったラルフは、今後ソフィのサポートが出来るように、

 冒険者だけしか入れない場所や、冒険者の資格がないと受けられない指名依頼等、そういった時にサポートが出来る程度には、勲章ランクを上げておきたいと思うラルフであった。

 【種族:人間 年齢:23歳 名前:ラルフ・アンデルセン
 魔力値:999 戦力値:84万 職業:冒険者 勲章ランクG】

 ――通り名『微笑』。

 元にして、現在はである。

 ……
 ……
 ……

「あ、やっぱりここにいたのね!」

 ソフィがベアと、ラルフの話をしていた所にリーネが顔を出すのであった。

 このリーネと和解を果たした彼女の兄であるスイレンは、現在『グラン』の町にあるリーネの家に住んでいる。

 こちらも近々『リーネ』共々、兄妹で『グラン』の町で冒険者ギルドに所属するつもりらしい。

「む? リーネか。今日はスイレンはおらんのか?」

 最近はよく二人でソフィに会いに来る程に仲が良くなっていた。

「ええ。兄さんは『グラン』のギルドに下見に行くって今日は出ていったわ。毎日朝から筋トレばっかり行っていて鬱陶しいったらないわよ? この前なんて兄は私に『一緒に軽くジョギングに行かないか? 昼までにサシスまで行ってグランに戻ってこよう』とか言ってきたのよ? 馬車便を使って数時間かかるような町まで行って戻って来るのは、全然軽いジョギングじゃないわよね。本当に嫌になっちゃう」

 そう話すリーネだが、本当はスイレンが構ってくれる事が嬉しいのだろう。

 ソフィに向けてスイレンの話をする時はいつも笑顔で話をしているのが印象的であった。

 ――ソフィは満足気にリーネの話に相槌を打つのだった。

 【種族:人間 年齢:14 名前:リーネ
 魔力値:210 戦力値:34000 職業:冒険者、勲章ランクB】。

 冒険者ランクAのスイレンを兄に持ち、兄妹共に一流の『影忍かげにん』と呼ばれるである。

 長年の確執もあった兄妹ではあったが、スイレンが里の再興を真剣に考えて自分本位ではなくなり、リーネと真剣に話し合って今後の事を決めたようで、そのおかげで二人の仲は良好になったと言える。

 【種族:人間 名前:スイレン 魔力値:655 
 戦力値:45万 職業:忍者 冒険者・勲章ランクA】。

「ではリーネも来た事だし、たまにはギルドのクエストでも受けに行くとするかな」

 冒険者になってまだ数か月しか経っていないが、リーネの協力もあって現在はあらゆるクエストを受けるようにしている。

 Dランクに上がってからは貴重な薬の材料を集めたり、武器を作る為の木や鉄を集めたりと『グラン』の町の発展に役立つクエストを選んで受けている。

 そのためにあまりポイントの効率は良くはないが、ソフィはランクを上げる事よりもクエストの内容を楽しんでいた。

「そうだね。今日はどんなクエストがあるかな?」

 そんなソフィとリーネを見守るように、ベアはニコニコと笑っていた。

 まさに平和という言葉を体現したかのように、穏やかに毎日が過ぎていく。

 ……
 ……
 ……

 そして今日も二人が『グラン』のギルドに貼りだされているクエストの紙を眺めていると、何やらでクエスト内容が書かれているのを発見する。

「む、この色は一体?」

 ソフィはその珍しさから声をあげる。

「それは緊急ってわけでもないけど、ランク指定のないクエストだね」

 リーネがクエストの用紙をのぞき込む。

 ――――

 『求ム。強者!』
 ・最近グランとステンシアの町を繋ぐ橋付近に、徒党を組んだ盗賊が出没してます。
 ・ステンシアの町までの護衛をしてくださる方を募集します。
 ・報酬は金貨一枚。

 ――――

「うーん、護衛のクエストかぁ……」

 あまり気乗りのしていないリーネにソフィは疑問が浮かぶ。

「盗賊退治をするだけで金貨が貰えるというのは、存外においしいのではないか?」

「確かにソフィだったら問題はないんだけど、実は盗賊達って横の繋がりが結構あってね? 徒党で組んでいるような盗賊を退治したりすると、噂が広まって盗賊団の報復とかが結構あるのよね」

 実力がある程度ないと危ないので、盗賊関連のクエストは勲章ランクC以上が多いのだそうだ。

「なるほど、面白いではないか。我はこのクエストを受けるが、いいだろう?」

 ウキウキとしながら、紙を掲示からとるソフィを見て溜息を吐くリーネ。

「分かったわよ、パーティは私とソフィの二人でいいわよね?」

「待って下さい。私も連れて行ってください」

 いつからそこに居たのか、ラルフが微笑みを浮かべてリーネの背後に立っていた。

「うわっ……! び、びっくりするじゃないラルフ!」

 忍者であるリーネですら気づけなかったようで、素っ頓狂な声を挙げるリーネであった。

「これは申し訳ありません。ソフィ様とリーネさんが仲良さそうに会話をなされていたので、声が掛け辛かったのです」

「え……? 貴方から見ても仲が良く見えたかしら?」

「はい、とても親し気で素晴らしい関係に見えますよ」

 そう言ってラルフがにこりと笑いかけると、ソフィと仲が良さそうに見えると言われたリーネは分かりやすい程に笑顔になった。

「そ、そう……? まぁ私とソフィは実際仲が良いから仕方ないわよね。えへへ……! そう言えば貴方も冒険者になったんだよね? よし、分かった! 三人でパーティを組みましょ?」

 リーネはラルフに拉致をされた経験があって、和解した今でも多少ではあるが苦手意識があるのは否定出来なかった。

 しかしその事をラルフも理解しているようで、今のように少しずつリーネが喜びそうな言葉を掛けて、ゆっくりとではあるが距離を縮めて行っている。

 彼は主を守る為に常にソフィの傍に居たいと考えているようで、まずは外堀を埋めようと考えているのだろう。

「ええ、お願いします。そのクエストはランク指定の無いクエストなのでしょう?」

 勲章ランクGのラルフが受けても何も問題はなさそうであった。

「そのようだな。お主であれば盗賊など問題はなさそうだし、いいのではないか?」

 ソフィの言葉にリーネも頷く。

「じゃあ、窓口に提出してくるわね」

 こうして『ソフィ』『リーネ』『ラルフ』の初の三人パーティで、ギルド指定のない新たなクエストを受けるのであった。
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