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ギルド対抗戦編

36.決勝戦前の修行

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 ニーアは予選が終わってから決勝戦が始まるまでの間、毎日毎日魔力値を高めるための修行に明け暮れていた。

 予選の時のソフィのアドバイスを反芻し開幕と同時に大魔法を撃ち、相手を竦ませたりさせる事の重要性などを知ったためである。

 明日にあたるギルドは、魔法使いたちの祖と呼ばれる者たちの街『ニビシア』である。

 どこまで自らの魔法が通用するかを知るためにはいい機会だった。

 今こうして瞑想している最中でも魔力を高める修行を怠らず、ニーアは常に気を張り巡らせている。

「純粋で心地良い『魔力』だ」

 いつから部屋にいたのか集中しているにも拘らず、全く気づかなかったニーアだが、ソフィならば仕方ないと半ば諦めているために少し困った笑みを浮かべて口を開いた。

「ソフィ君、少しだけ修行に付き合ってくれないかい?」

「構わないが、短時間で出来る事など限られておるぞ?」

 『トンプーカ』の武道家『トンシー』を連れて模擬戦を行おうとしていた頃ならいざ知らず、決勝トーナメントが始まった今となっては、精々が魔法の精度を確かめる等といった検証程度しか出来ないだろう。

 ニーアもそれが分かっている為に、自分が使っている『魔法』や、立ち回り等々をソフィに見て貰おうくらいの気持ちであった。

 二人は宿を出た後に『トンシー』と模擬戦を行う時に使おうと思っていた、町はずれの広場に向かい、その場所で町に被害が出ないように『結界』を張る。

「うむ、これくらいの『結界』であれば大丈夫だろう」

 ニーアは結界の練度の高さに驚きふためく。

(これくらいの結界ってあっさりと言うけど、僕が大魔法を何十発撃っても全く破れる気がしないのだけど)

 しかしこの『結界』の規模に気づけたニーアは、才がある方である。

 現在ソフィがこの空間に張った『結界』は『大魔王、下位領域』と『アレルバレル』の世界では分類される程の『結界』である。

 今のギリギリまで抑えられたこの状態の『魔力』で張れる彼の『結界』の中では最上位であろう。

 当然、大魔王領域に居る魔族達が一斉に襲撃してくれば、あっさりとこの結界は破られるであろうが、その時は更に魔力を高めて、新たに結界を張ればいいだけだとソフィは考えて、この『結界』を張る事にしたのであった。

(※しかしこの『結界』でさえ、この国の軍隊の総攻撃を行っても結界を破壊する事はおろか、亀裂、いや傷をつけるどころか埃を舞わせるくらいしか出来ないであろう。最低でも『アレルバレル』の世界の『人間界』に居る『賢者級』が扱う『魔法』がこの『結界』に傷をつける事が出来る最低条件である)

 やる事全てが規格外のソフィに、ニーアはもう考える事を放棄するのだった。

「では、我に向けて魔法を放ってもよいぞ」

 ソフィであれば何があっても、大丈夫だろうと判断してニーアも頷く。

 『古より世界に伝わりし火の言霊、我の魔力に呼応し体現せよ。』

 ――上位魔法、『炎者の爆風フレイマーバースト』。

 予選で『トンプーカ』の剣士を打ち負かした、ニーアの出来る大魔法であった。

 ニーアが召喚した炎の影はソフィに向けて、数多くの火球を飛ばし始める。

 まさに予選の再現だが、すっとソフィは右手を前に出した。

 ――ただ、それだけだった。

 ソフィに向けられて放たれた炎の影の火球は、ソフィに全て吸収された。

「魔力が前に見た時より遥かに高くなっているな。一発一発の火力が非常に上がっている。これ程の練度の魔法であれば十分に誇ってよいぞ」

 全てノーダメージどころか、当たっているのかどうかも分からないところを見せられて、果たして本当に誇ってよいのだろうかと、ニーアは顔をヒクつかせながら苦笑いを浮かべる。

「そ、そうかな? あ、ありがとう」

 ニーアはソフィの周りの『魔力』の集まりに気づく。

「?」

「ニーアよ、お主の『魔力』の高まり具合ならば、の『魔法』も扱えるだろう」

 ニーアの前で分かりやすく詠唱を伴って、ソフィは魔法を唱えた。

「『我の体に誘うは焔の結晶、個の体、個の心に育注ぎ昇華せよ』」

 ――上位魔法、『焔者の炎爆フレイマーバーン』。

 ソフィの魔力によって作られた焔の影は、閉じられた結界の中で吹き荒れた。

「す、すごい!」

 炎者の爆風と違い火球が遠心力を利用して、回転しながら対象者に向かっていくようである。

 全ての火球が『結界』に弾かれては消えていくが、それはソフィの張った『結界』であるからこそ、耐えられているのであって、普通の魔法使いの結界ならば一発一発の火力で『結界』は割られてしまう事だろう。

「うむ、まぁこれくらいだろう。」

 そう告げるとソフィは手をゆっくりと下ろしながら『魔力』を消失させていく。

 その瞬間に火球を生み出していた『焔影』も消えていった。

「今のニーアならばこれくらいであれば、大した魔力を使わずとも扱える筈だ。さぁやってみるがいいぞ」

 ニーアは自分がこんな大きな魔法を使えるだろうかと半信半疑だったが、ソフィが言うのなら一度やってみようと先程の詠唱を思い出しながら魔力を込め始める。

「『我の体に誘うは焔の結晶、個の体、個の心に育注ぎ昇華せよ』」

 ――上位魔法、『焔者の炎爆フレイマーバーン』。

 先程ソフィが出した焔の影と同じモノが出現した。ニーアが命じれば直ぐに先程と同じ回転する火球を放つ事が出来るだろう。

「で、出来た……! す、凄いよソフィ君!」

 現在の使える『魔法』を使った立ち回りを見てもらうくらいのつもりでソフィに声を掛けたのだが、まさか『新魔法』を体得させて貰えるとは思わなかったので、ニーアはたいそう喜びを露わにしたのだった。

「うむ、お主は筋が良いのは分かっておったのでな。お主は誇ってよいぞ、見ただけで直ぐに覚えられる程の類まれなる能力を持っているのだからな」

 ニーアがこのまま修行を続けていけば、いずれは『大魔法使い』として歴史に名を残す事も十分に可能だろうとソフィは確信している。

 ソフィは弟子を取るつもりなどは考えてはいないが『ニーア』にもし頼まれたならば、寿見ても良いと思える程には、目を掛けているのであった。

 ソフィは魔王と呼ばれた程の『魔族』ではあるのだが、努力を続ける者は『魔族』だけではなく、種族を越えて『人間』であろうと分け隔てなく認める事の出来る存在なのであった。
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