最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
25 / 1,985
ギルド対抗戦編

22.現役最強の剣士

しおりを挟む
「それでは次の選手、リングへ上がってください」

 審判のコールを受けた『サシス』ギルドの大将を務めるリディアは、静かにリングに上がり始めた。

  その様子を観客席やソフィたちがいる観戦室、そして貴族たちのいる部屋と、正にこの一戦を全ての者達が注目するのだった。

「遂に来たね。ソフィ君」

 ニーアが興奮しながらリディアの名をあげた。

「ふむ、確かこの大陸で最強の剣士だったか?」

 ソフィの言葉に大きく頷くニーア。

「そうなんだよ、彼が冒険者ランクAの中で……、いや『ミールガルド』大陸にある全冒険者ギルドの中で『』って言われている剣士だ」

(少し誇張が過ぎるのではないだろうか? 我にはそのとやらは、そこまで強くは見えないが……。まだ我には、魔法使いの『リマルカ』の方が強く見える)

 そう思ってモニターの映像越しに、リディアの魔力を探知して『漏出サーチ』をかける。

 【種族:人間 性別:男 年齢:25歳
 職業 剣士 魔力値??? 戦力値:測定不能】

「待て。に……、だと!?」

 確かに『漏出サーチ』は、相手の戦力値を測る魔法で便利ではあるが、全く対策が出来ないわけでもなく、呪文や魔法に相当の心得があるものならば、術者の力関係の差を含めて対抗する事も可能なのである。

 もちろんソフィも隠蔽呪文を施しており、例え相手に『漏出サーチ』をされても相手に実際の『魔力』の正確な数値が開示される事はない。

 しかし問題なのは『漏出サーチ』自体が『アレルバレル』の世界であっても人間の世界では、失われし根源魔法と言われる程に珍しい『魔法』であり、この世界であってもどうやら知識では魔法使いは知っている者も居る様子だが、それがまさか一介の剣士がその『漏出サーチ』の対策魔法を身に着けているとは思わなかった。

 そしてソフィがは他にもあった。

 それは『漏出サーチ』で相手の値が測定不能と出たからである。

 つまりそれはソフィのの『』では、相手の力を推し量れないという事と同義である。

 現在のソフィはではあり、本来の彼の実力から比べれば、雲泥の差状態ではある。

 しかし本来の力を出してはいないとはいっても『グラン』の冒険者ギルドでは、誰も歯が立たなかった上に、討伐指定のランクC魔物モンスターのベアを全く相手にせず、あっさりと屠れるだけの力は有しているソフィである。

 現に先程まで勲章ランクBのリマルカ選手や、ここに来るまでに出会ったレンという少年に『漏出サーチ』を放った時には、その正確な戦力が測れていた筈である。

 しかしここに来て単に一目見ただけではそこまで強くはなさそうだと感じた『リディア』という勲章ランクAの現役最強の剣士とやらは、確かに今のだと『魔法』によって、明確に示されたのであった。

 その事実にソフィはニヤリと笑みを浮かべて、リディアとリマルカの試合に興味を持つのだった。

 ――そして審判の合図で最終戦が開始された。

「行くぞ……」

 ――上位魔法、『風衝撃ウィンド・インパクト』。

 ミルリ選手やウォルト選手の時と同じように、対近距離戦の戦いを仕掛けるリマルカに対して、リディアは微塵も慌てずに剣を鞘に入れたまま様子を見るように立っている。

 そしてリマルカの風の魔法が一直線にリディアを襲い掛かるが、その刹那――。

 恐ろしい速度で剣を抜いてそのまま襲いかかる風を

 何と物理で魔法を斬ってみせたのであった。

「何……?」

 一番早く反応して驚いているのは対戦相手であるリマルカではなく、観戦室で見ていたであった。

 物理で魔法を斬るといった芸当は、長く生きるソフィでも見た事はない。

「あれは東の小さな島国に伝わる伝統の抜刀剣術、居合というらしいよ」

 ニーアがその知識から説明をしてくれた。

「居合?」

(いや……、どんな剣技なのかとかは知らぬが、それよりもあのリディアという男が剣を振るう時に一瞬だが、

 どうやらニーア達は『居合』という剣技の方に意識を向けていて、剣を振るう僅かな一閃の瞬間に、光が放たれているのが見えてはいない様子であった。

 ソフィはそちらの方に意識を割かれて、試合よりもリディアの方に集中する。

(まさかな……)

「魔法を斬るなんて芸当、普通の剣士には出来ない。凄いよ本当に!」

 ソフィ達は視線をモニター映像に移して試合の続きを見る。

 先程までのように、対近距離戦用の戦いパターンを作り上げてきたリマルカだが、『風衝撃ウィンド・インパクト』を斬られた後に間合いまで入り込まれていた。

「た、盾よ……、ぐむッ!」

 だが、詠唱が無い高速発動のリマルカの『魔法』ですら、間に合わなかった。

 ――『』。

 いつ斬ったのか……。既にリマルカの間合いから離れて、元に居た場所で剣を鞘に戻すリディアだった。

 そして背後を向いたと同時に『リマルカ』選手は意識を失ってその場に崩れ落ちるのだった。

「勝者、リディア!」

 今日一番の歓声を挙げる観客を一瞥もせぬままに、リディアはリングを降りるのだった。

「『つ、強い……』」

 ニーアとティーダが同時に声をあげる。

 リマルカは確かに対近距離戦のエキスパートだった。

 そして彼が、一番得意とする相手である筈の近接職の剣士だったが、リディアの前では手も足も出なかったのであった。

(リマルカとやらは決して弱くはなかったが……、流石に力量に差があり過ぎたな)

「しかし、物理で魔法を斬るか……、クックック」

 物珍しい戦い方をして見せたリディアに、ソフィはこの世界では初めてといっていい程の興味を見出したのだった。

(素晴らしいではないか、どこまでの『魔法』ならあの剣技で斬れる?)

 ソフィは歪んだ笑みを見せながら、もう抑えられないといった様子で迸る魔力のオーラを纏いながらリディアを見る。

 そしてその場にいる誰もが、、その魔力に気づく事はなかった。

 そしてソフィのリディアに対する戦闘意欲は、増していくのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...