最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
22 / 1,966
ギルド対抗戦編

19.対抗戦前夜

しおりを挟む
 ソフィは明日の対抗試合大将として出ると決まってから、この大陸で一番強いとされる冒険者Aランクについて考えていた。

(我はこの世界で勲章ランクBまでの者しか見た事がない)

 ソフィと出会った勲章ランクBの冒険者は、リーネとこのサシスの町に来る前に出会ったという冒険者だけである。

「しかし同じBランクでも二人の間には、戦力値が倍近くの差があったしな」

 レンという少年は戦力57000程であった。

 この世界の冒険者の中では十分にトップレベルだが、それでも冒険者ランクはBである。

 では、Aランクは70000程なのだろうか。

 それとも10万を越えるのか――?

 ソフィはまだ自分がこの人間の姿になってから本気で戦っていないために、魔王の姿の時と同じだけの魔力の出力を出せる事が出来るのかを理解をしていない。

 魔力値999と言う数値は、あくまで魔法や呪文を使った時に消費される数値であり、この世界では魔力値の大きさで魔法使いの強さを測るようだが、ソフィたちの世界『アレルバレル』の世界では違う。

 魔力値999という表記は、現在ソフィが使っている隠蔽魔法の結果であり、魔王城にいる魔族達の魔力値は数千万、いやそれ以上の者も数多く居る。

 力の数値は強さの基準とはならないのである。

 重要なのは戦力値であるが、それすらも隠蔽を見抜けなければどうにもならない。

 根本の『魔力値』自体が相手よりも少なければ『漏出サーチ』などといった『魔法』で相手の戦力値を測る事も出来ず、隠蔽された相手の戦力値を数値化しようとするには、その術者の持っている『魔力』を上回らなければならない。

 そしてもう一つ注意しなければならない事があり『漏出サーチ』という魔法は、相手の戦力値や魔力値を正確に数値化する上では欠かせない『魔法』ではあるのだが、この魔法で自分より遥か格上の存在に使用した場合『魔法』によって強制的に相手の強さの情報を数値化しようとすると、下手をすると脳が焼き切れてしまいそのまま絶命する事もあるのである。

 これまでソフィがこの世界で出会って来た者達くらいの戦力値や魔力値くらいであれば、そこまで懸念する必要性もない。

 しかしソフィが元の居た『アレルバレル』の世界であれば話は変わる。

 魔族達は気軽に相手に『漏出サーチ』を使う事すらせずに『魔力感知』や『魔力探知』の魔法を用いて相手の居場所を割り出したら強さをある程度測る程度に押し留めるのである。


 しかし何より最重要なのは、相手の強さの数値よりも戦い方だという事である。

 例え相手の戦力値が自分より上だったとしても、上手く戦いを有利に導く事ような動きをする事で、戦力値が低い者でも高い相手を倒せるような事もある。

 魔王領域に居る者やそれに近しい者達にとっては、戦ってみなければ相手に力量は推し量れないと考えていて長く生きている者こそ、その事実を熟知している。

 『アレルバレル』の世界であれば、それが至極当然の考え方であり、相手を見縊るような者こそ弱者側に位置付けられる。

 しかしその危険な世界、『アレルバレル』の世界ですらソフィは全力で戦った事など一度もなく、半分の力も出さずとも、西し、数千年もの間統治してきた。

 そんなソフィであるからこそ、人間の子供の姿をしている今の自分の戦力値がどの程度なのか、見極める必要があると思い始めたのであった。

「明日の対抗戦でリーネの兄が出てくるみたいだが、我にある程度『力』を出させてくれる相手である事を願うところだな」

 ソフィが明日への期待に胸を膨らませている頃、同じ宿に泊まっているリーネは、逆に陰鬱な気分に陥っていた。

 いずれは対抗戦で当たる可能性もあるかもしれないと思っていたスイレンと、まさか初戦で当たる事になるなんて夢にも思わなかった。

 今のリーネは里を裏切り父を暗殺した恨みよりも、ソフィが兄によって大怪我や万が一にでも死ぬような事があれば、どうしようかと悩んでいたのだった。

 どうやらリーネはそれ程までに、ソフィを気に入ってしまっているようだと自分で自覚をし始めていた。

「もしソフィが殺されそうになったら、その時は私が……!」

 リーネは出場選手ではないが故に、観客席から影忍の『忍術』を使ってでも乱入して、ソフィを助けようと決心するのであった。

 そして同時刻『リルバーグ』のギルドのリーネの兄であるスイレンは、ソフィたちが泊っている宿とは違う宿で、一回戦など眼中にないのか対抗戦とは全く別の事を考えていた。

「今回でいよいよ私も冒険者を引退か」

 彼の野望は『影忍』を再興し王国軍を自分の物にすることであった。

 その野望の為には父が治める忍者の里は邪魔でしかなかった。

 目的の為だけに我々『忍者』を利用し、用が済めば邪魔者扱いする国の貴族や雇人にも腹が立つが、一番彼が許せなかったのは、それを良しとして改善などせず、いつまでも古い風習などを馬鹿正直に守り続けている先代たちであった。

 あのままでは自分の代になっても今の関係は変わらず、後悔することが目に見えていたスイレンは全てをリセットして、自分が冒険者となり最後は国王軍に入り込んで中から支配する事であった。

 ――そしてようやく今回で、最終段階まで辿り着いたのである。

 スイレンは今回の対抗戦を最後に冒険者を引退して、スカウトされている王国軍に入りこみ一定の地位を築き上げた後は、次々と王国軍に自分の同胞たちを潜り込ませて、を『影忍』にする予定なのである。

 一つ誤算だったのは妹のリーネの事である――。

 才能もあり兄妹でもあるリーネには、一番初めに王国軍に潜入させようとしていたが、ある時から行方を眩ませて居場所が分からなくなった。

 妹の『影忍』としての才能は恐ろしく、ある『忍術』を用いて暗殺をする事に関しては、自らを凌ぐ程だと彼自身が認めている。

 いずれは再び妹を連れ戻して『影忍』再興に尽力を尽くしてもらうつもりである。

「最後の対抗戦だ……。出来れば優勝を土産に王国軍に入りたいものだな」

 ククッと笑いながら、は、感慨深い気持ちを抱きながら明日の試合を待つのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...