最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
17 / 1,966
ギルド対抗戦編

14.冒険者レン

しおりを挟む
 一行はゲルたちを倒した後、ようやく『ラクール』地域から『セソ』地域に入った。

「ようやくここまで来たな」

 ディラックが言うにはここからはもう目と鼻の先に『サシス』の町があり、他のギルドの冒険者や馬車便が溢れかえって混み始めるそうなので、歩いて『サシス』に向かおうかという話になった。

 馬車便はこのまま『サシス』とは違う方向の『セス』地域の町に向かって護衛を雇いに行くらしく、ここで別れる事となった。

「貴重な話をしてもらった、とても有意義な時間だったぞ」

 ソフィがそういうと御者は、それはよかったと笑顔で頷いてくれた。

「また縁があれば会うこともございましょう、その時は御贔屓に」

 そういって気のいい御者は、笑顔を向けて去っていった。

「どうやら御者のおじさんは、ソフィの事をだいぶみたいね」

 突然そんなことをいうものだからソフィは、首を捻ってどうしてか聞くと御者のソフィを見る目が、私がだったかららしい。

 ソフィはどういう意味なのだろうかと、首を傾げる他なかった。

「さて、では我々も『サシス』の町に向かうぞ、今日中に『サシス』のギルド長に会っておきたいからな」

 ディラックがそう口にすると一行は、サシスの町へ歩いて向かうのであった。

(我一人ならば一度辿り着きさえすれば、後は我の移動呪文で一瞬で『グラン』に戻れるのだが、レグランの実を食べに『グラン』の町に戻りたいからといって、このまま帰ったら怒るだろうな)

 ソフィは笑えない冗談を心の中で考えるのであった。

 御者と別れてから数十分程歩くと、ちらほらと他の冒険者たちの姿が見えてきた。

 どうやら皆同じ場所に向かっているらしく、もしかしたら対抗戦の出場者かもしれない。

 そしてコチラが気づいたという事は、もちろんあちらも気づいているはずであり、互いに気にはしながらも話しかけるようなことはしない。

 ――と、思っていたのだが。

「やぁ、君たちはどこのギルド?」

 ソフィに向かって男の子が、声をかけて来るのだった。

 人間の姿のソフィと同じ年齢くらいの子だが、ソフィはなんとなく少年から魔物の匂いを感じた。

「む、我たちは『グラン』からきた冒険者だ」

 嘘偽りなく答えると、男の子は笑顔で頷いていた。

「へえ? 『グラン』かぁ。また遠い所から来たんだね? ここまで歩いてきたの?」

「いや、途中まで馬車便できたよ。君はどこのギルドの冒険者なのかな?」

 前を歩いていたニーアが、いつの間にか隣に来て会話に入ってきた。

「馬車便かぁ、まぁそりゃそうだよね。僕はセス地域の『ウィラルド』っていう町からきたんだぁ』

「『セス』地域ということは、そこまで離れてはおらぬのか?」

「そうだねぇ? 馬車便とかを使う程の距離ではないかな」

 話し方がゆったりとしていて、落ち着いているという印象を受ける少年だった。

「君も対抗戦に出るの?」

 ニーアが核心に迫るようなことを言うと、何やら少年は少し考える素振りを見せた。

「うん、僕は『ウィラルド』の代表選手なんだ。お兄さんたちも出るの?」

「そうだよ。ここにいるソフィ君と僕、そして前に歩いているお兄さんが出る予定だよ」

 少年に包み隠さずに全て話していくニーアだった。

 ソフィとリーネは別に全部言う必要はないんじゃないかと思わないでもなかったが、まぁ事前に参加することが分かったところで、どうなるものでもないかと深くは考えないようにした。

「なるほどねぇ。みんな強そうだねぇ? 

 そういって男の子は目を細めて、真っすぐソフィに射貫く様な視線を向けてきた。

(ほう? 『漏出サーチ』は我が隠蔽しておるから通じない筈だが、我のこの見た目で何かを感じ取れたのか?)

 ソフィがニヤリと笑みを浮かべると、男の子もくすっと笑うのだった。

「それじゃ僕は行くね。もし対抗戦で当たることがあったらよろしく」

 そういって男の子は去っていった。

「『漏出サーチ』」

 【種族:人間 性別:男 年齢:9歳 名前:レン
 魔力値:330 戦力値:57409 職業:冒険者ランクB】。

「クックック、なるほどな」

 ソフィが去っていく背中に向けて男の子に『漏出サーチ』をかけた結果、どうやら男の子の名前はレンというらしく、レンは九歳にして既にこの場に居るソフィを除いた全員より戦力値が上であり、冒険者ランク勲章もリーネと並ぶBクラスだった。

「直ぐにソフィ君の強さに気づくなんて……ね。どうやらあの子、徒者ではないみたいだね」

 ニーアも単独で『開示スペクト』を使っていたらしく魔力値を見たのだろう。その顔には焦りが見て取れた。

「あの子凄いよ。私から見ても全く隙がないもん。下手に攻撃を仕掛けられないわ」

 道中で緩んでいた気が引き締まったようでニーアたちは、武器を握りなおしていた。

 そして一際高い塔のような建物が見えてきた。どうやらあそこが『サシス』の町なのだろう。

 『サシス』の街の入り口には長蛇の列ができており、町の中に入るための検問のようだった。

「うわー凄いねこの人数、下手をすれば入るだけで、日が暮れるんじゃないの」

 冗談でも何でもなく、そう思わせる程の長蛇の列が出来ているのだった。

「いや、そうでもないぞ」

 会話に入ってきたのはディラックだった。

「対抗戦に出るギルド関係者は一度に参加人数分の許可証が出るからな、見た目以上には時間はかからんだろう」

 確かによく見ると一度立ち止まった後、数人が一気に入っているようだった。

 並んでいるのがほとんどが各町のギルド関係者なのだろう。あっという間に、ソフィたちの順番まで回ってきた。

「『グラン』の町のギルドじゃ。ここにいる三人が対抗戦に参加する」

 ディラックがそういうと、門番たちは頷いて通行許可証を渡してきた。

「対抗戦が終わるまでは、必ずこの通行許可証を無くさぬようにご注意をお願いしますね」

 そういって許可証を渡した後、ソフィ達は『サシス』の町の中に入れて貰える事となった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...