上 下
184 / 200
第三章 魔族と人間と

第183話

しおりを挟む

「アベルっ!!ちょっとやりすぎじゃない!?」

 戻ってきたアベルにノアが声を荒げて言った。

「でも~、相手を戦闘不能にさせるには一番手っ取り早くて、怪我もない方法だったと思うよ?」

「それでもやりすぎっ!!その技……えっと、何だっけ?鎧壊し?禁止っ!!」

「え~!?せっかく考えたのに~っ!!」

 ノアから通称鎧壊しという持ち技を禁止されたことに頬を膨らませるアベル。まぁ、誰しも羞恥心というものはあるからな。外傷は確かに無傷だろうが、おそらく……心の方に深い傷を負ってしまっただろう。

 毛布を全身に被ってしくしくと泣いている王国騎士の女性をゼバスとノアがなだめている。
 この光景もなかなかシュールなものだ。

 そして膨れっ面になったアベルが私の方に歩いてきた。

「ね~ね~ミノル!!聞いてよ~、ノアにあの技もう使うなって言われちゃった~。」

「まぁ……仕方がないな。考え出した中では確かに有効な手段だったが……ちょっと相手への配慮が足りなかったな。」

 そうなだめるとアベルは反論するように言ってきた。

「だってあの人間が女の子なんてわかんなかったんだもん!!すごい厳つい仮面被ってたし?ミノルだってわかんなかったでしょ!?」

「う、うんまぁわからなかったな。」

 アベルの言う通り、全身鎧に包まれてたから顔がわからなかったし……さらには声がくぐもってて男性か女性かもわからなかった。
 だから彼女の言い分はわからなくもない。私自身分からなかったしな。

「でしょ!?」

「だが……男女関係なく、とりあえず裸に引ん剝くってのは良くないと思うぞ?」

 男性であれ女性であれ、人前で裸をさらすことに免疫がある人は少ないだろう。

「でも手加減間違えなかったらきっと下着だけ残るはずなんだよ!!」

「そういう問題じゃない。」

「あぅ……。」

 私はこつんとアベルのおでこに軽くチョップする。

「ま、それでも相手を傷つけずに降伏させたのは大きな成果だけどな。」

 当てていた手で私はアベルの頭を撫でた。そういえば今の今までアベルの頭を撫でたことがなかったな。こう……触り心地がもふもふのノノとはまた違ってサラサラの髪の感触がまた……。

 なでなでと感触を確かめていると……。

「あ、あのミノル?」

「ん?……ハッ!?す、すまないついノノとおんなじ癖で……。」

「うぅん、大丈夫だよ~。こうやって頭撫でられたの初めてだったから、ちょっと驚いちゃっただけ。でも意外と気持ちいいんだね。」

 あはは~と少し顔を赤らめながらアベルは言った。

 どうやら不快ではなかったらしい……よかった。
 ほっと胸をなでおろしていると、私のもとにノノがやってきて、こちらにずいっと頭を差し出してきた。

「の、ノノ?」

「アベルさんだけずるいです!!お師様、ノノのこともなでなでしてください!!」

「えぇ!?」

 撫でられているアベルに嫉妬したのか、こちらに頭を差し出してきたノノは言った。
 そんな姿を見て、私もアベルも目をぱちくりとさせていたのだが……。突然、アベルがにんまりと口角をつり上げた。

「んふふ~、ダメだよノノちゃ~ん?今回ボクは活躍したから撫でてもらったんだよ?」

 ポフポフとノノの頭に手を置きながらアベルは言った。

「あぅ……アベルさんに撫でてもらいたいんじゃないんです!!お師様が良いんです!!」

 アベルの手を振り払いながらノノは主張した。ノノの発言に、
アベルはにんまりと顔を歪めながら、ノノの頭の上でピコピコと忙しなく動く耳元でボソリと何かを呟いた。

「……………………?」

「~~~ッ!?」

 あまりに小さい声だったから私には何を言っているのか聞こえなかったが……アベルの言葉を聞いたノノは、一瞬ビクッと体を震わせた。
 その後ノノは今まで私達に見せたことがないほど怒りに満ちた表情を浮かべ、アベルのことを睨み付けた。

「あはっ♪ノノちゃんの怒った顔……初めて見たかも?そんな表情もできるんだ~?」

「…………アベルさん本気……なんですか?」

「本気も本気……ボクは欲しいと思ったものは~手に入れるよ?」

「…………わかりました。じゃあ、今からアベルさんはノノのです。」

「いいねぇ~ボクも燃えてきちゃった。悪いけど……負けないよ?」

「望むところです。」

 バチバチと二人の間で火花が散る。喧嘩……?という訳でもないようだが。
 いったい何が……?

 火花を散らす二人の傍らで、二人が何をどうしてそういう風に敵意むき出しにして睨み合っているのかわからずに、私はただ呆然とそんな二人の姿を眺めることしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ
ファンタジー
書籍化に伴い改題いたしました。 といっても、ほとんど前と一緒ですが。 変わり者で、落ちこぼれ。 名門貴族グレーテル家の三男として生まれたウィルは、貴族でありながら魔法の才能がなかった。 それによって幼い頃に見限られ、本宅から離れた別荘で暮らしていた。 ウィルは世間では嫌われている亜人種に興味を持ち、奴隷となっていた亜人種の少女たちを屋敷のメイドとして雇っていた。 そのこともあまり快く思われておらず、周囲からは変わり者と呼ばれている。 そんなウィルも十八になり、貴族の慣わしで自分の領地をもらうことになったのだが……。 父親から送られた領地は、領民ゼロ、土地は枯れはて資源もなく、屋敷もボロボロという最悪の状況だった。 これはウィルが、荒れた領地で生きていく物語。 隠してきた力もフルに使って、エルフや獣人といった様々な種族と交流しながらのんびり過ごす。 8/26HOTラインキング1位達成! 同日ファンタジー&総合ランキング1位達成!

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

処理中です...