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第三章 魔族と人間と

第169話

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 それから数時間の時が経ち……徐々に夕暮れへと近づいてきたころ。

「やっと……終わった。もう魔力の限界だよ。」

 私の横には最後の人間たちを運び終え、魔力がすっからかんになって干からびかけているアベルがいた。

 行く街々で魔物と戦い、一匹残らず殲滅し……そこに残っていた住人たちをピースへと運んであげていたからな。
 ノアとゼバスも戦ってはいたが、大半の魔物はアベルが広範囲の空間魔法で消し飛ばしていた。故の魔力切れだろう。

 そんな疲れ切った様子のアベルにノアが一声かけた。

「アベル、ありがとね?」

「ん~ん、いいの。もとはと言えばボク達が原因かもしれないから。」

 今回一番の功労者のアベルにノアがお礼の言葉を述べる。

「ひとまず常駐の騎士がいない村や街は全て回ったので、残りは王都とその周辺……でありますな。」

「その常駐の騎士ってのは、魔物に対処できるぐらい強いの?」

「一人一人は吾輩より腕は劣りますが……それでもある程度の魔物であれば対処できるかと。」

「なら急がなくても大丈夫そうだね。」

 ゼバスの言葉にアベルはほっと一息ついた。

「も~今日は帰るっ。久しぶりにどっと疲れちゃったよ~。」

 アベルは最後の魔力を振り絞り空間を切り裂いた。

「あ、アベル。申し訳ないんだけど……私とゼバスさんのことピースまで運んでくれない?」

「そう言うと思ってもう繋げてあるよ~。……ほらほら早く入って~。」

「えへへ、ありがと。」

 そしてノアとゼバスはピースへと向かっていった。それを見送るとアベルは私に声をかけてきた。

「ねぇミノル。」

「ん?どうした?」

「もしピースに住んでる人間たちが……ボク達が日照りを起こしたって知ったらどうなっちゃうかな?」

 二人になった途端にふとアベルは私に聞いてきた。

「不安か?」

「うん……ちょっとね。」

「……どんな歴史にも隠し事ってのはつきものだ。いずれバレてしまうものからずっと隠蔽されるものまで様々な。でも、隠し事ってのは誰かが話さないと基本は表には出てこない。」

「うん。」

 私の話をアベルは頷きながら聞いている。

「まぁつまり……だ。アベルが話したかったら話せばいいし、話したくなかったら話さなくてもいいってことだ。」

 アルマスもジュンコもこのことは内密にしてくれるだろうしな。
 事実を公にするのも、秘密にするのもアベルの自由だ。

「そっか……。」

 私の話を理解したアベルはうつむきながらポツリと言った。

 今はまだどちらにするか決めかねているみたいだな。

「ま、今ここで思い悩むより帰って風呂にでも浸かりながらゆっくり考えるといいさ。」

 案外考え事ってのは湯船に浸かりながらゆっくり考えると、答えが見えてくるものだ。

 そう助言すると、アベルはコクリと頷く。

「うん、わかった。やってみる……。」

「良し、それじゃ帰ろう。今頃カミル達が腹を空かせてるだろうからな。」

 そして私とアベルは、カミルの城へと帰るのだった。











 いつも通り美味しい料理を食べたアベルは、ミノルの助言に従って湯船に浸かりながら件の事を考えていた。

「はふぅ……やっぱり気持ちいいなぁ。」

 ちょうど良い温度のお湯に肩まで浸かったアベルはポツリと溢した。

「……歴史に隠し事はつきもの……かぁ。」

 もし……今人間達が苦しんでいる原因が自分達にあると知ったら、彼等はどんな反応をするだろう?
 真っ先に頭に思い浮かんだのは、怒りや憎しみ……。

「う~……でも、あぁでもしないと今の関係まで発展しなかっただろうし……。」

 ようやく築き上げた今の魔族と人間の関係は、あの作戦なしには成し得なかったもの。それはアベルが一番よく理解していた。
 故に、その事実を公にして今の関係が崩れることをひどく恐れている。

「どうすればいいのかなぁ~……ぶくぶく。」

 口元までお湯に浸かり、水中でぶくぶくと大きなため息を吐いた。
 そんな時、ふとアベルの脳裏にノアの姿が浮かんだ。

「……ノアだったらなんて言うかな。」

 ノアも今回天候を操った事を知っている数少ない人物の一人だ。人間では唯一……その事実を知っている。
 しかし、彼女はピースに移住してきた人間にその事実を話している様子は無い。

 お風呂から上がって……ノアを迎えに行った時に聞いてみてもいいかもしれない。
 そう思ったアベルは湯船から立ち上がる。

「ノアの意見を聞いてみてからでも遅くない……よね。」

 そして逆上せる前に、風呂から上がり……ミノル特製の蜂蜜牛乳を飲んだアベルはノアを迎えにピースへと赴くのだった。
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