170 / 200
第三章 魔族と人間と
第169話
しおりを挟む
それから数時間の時が経ち……徐々に夕暮れへと近づいてきたころ。
「やっと……終わった。もう魔力の限界だよ。」
私の横には最後の人間たちを運び終え、魔力がすっからかんになって干からびかけているアベルがいた。
行く街々で魔物と戦い、一匹残らず殲滅し……そこに残っていた住人たちをピースへと運んであげていたからな。
ノアとゼバスも戦ってはいたが、大半の魔物はアベルが広範囲の空間魔法で消し飛ばしていた。故の魔力切れだろう。
そんな疲れ切った様子のアベルにノアが一声かけた。
「アベル、ありがとね?」
「ん~ん、いいの。もとはと言えばボク達が原因かもしれないから。」
今回一番の功労者のアベルにノアがお礼の言葉を述べる。
「ひとまず常駐の騎士がいない村や街は全て回ったので、残りは王都とその周辺……でありますな。」
「その常駐の騎士ってのは、魔物に対処できるぐらい強いの?」
「一人一人は吾輩より腕は劣りますが……それでもある程度の魔物であれば対処できるかと。」
「なら急がなくても大丈夫そうだね。」
ゼバスの言葉にアベルはほっと一息ついた。
「も~今日は帰るっ。久しぶりにどっと疲れちゃったよ~。」
アベルは最後の魔力を振り絞り空間を切り裂いた。
「あ、アベル。申し訳ないんだけど……私とゼバスさんのことピースまで運んでくれない?」
「そう言うと思ってもう繋げてあるよ~。……ほらほら早く入って~。」
「えへへ、ありがと。」
そしてノアとゼバスはピースへと向かっていった。それを見送るとアベルは私に声をかけてきた。
「ねぇミノル。」
「ん?どうした?」
「もしピースに住んでる人間たちが……ボク達が日照りを起こしたって知ったらどうなっちゃうかな?」
二人になった途端にふとアベルは私に聞いてきた。
「不安か?」
「うん……ちょっとね。」
「……どんな歴史にも隠し事ってのはつきものだ。いずれバレてしまうものからずっと隠蔽されるものまで様々な。でも、隠し事ってのは誰かが話さないと基本は表には出てこない。」
「うん。」
私の話をアベルは頷きながら聞いている。
「まぁつまり……だ。アベルが話したかったら話せばいいし、話したくなかったら話さなくてもいいってことだ。」
アルマスもジュンコもこのことは内密にしてくれるだろうしな。
事実を公にするのも、秘密にするのもアベルの自由だ。
「そっか……。」
私の話を理解したアベルはうつむきながらポツリと言った。
今はまだどちらにするか決めかねているみたいだな。
「ま、今ここで思い悩むより帰って風呂にでも浸かりながらゆっくり考えるといいさ。」
案外考え事ってのは湯船に浸かりながらゆっくり考えると、答えが見えてくるものだ。
そう助言すると、アベルはコクリと頷く。
「うん、わかった。やってみる……。」
「良し、それじゃ帰ろう。今頃カミル達が腹を空かせてるだろうからな。」
そして私とアベルは、カミルの城へと帰るのだった。
◇
いつも通り美味しい料理を食べたアベルは、ミノルの助言に従って湯船に浸かりながら件の事を考えていた。
「はふぅ……やっぱり気持ちいいなぁ。」
ちょうど良い温度のお湯に肩まで浸かったアベルはポツリと溢した。
「……歴史に隠し事はつきもの……かぁ。」
もし……今人間達が苦しんでいる原因が自分達にあると知ったら、彼等はどんな反応をするだろう?
真っ先に頭に思い浮かんだのは、怒りや憎しみ……。
「う~……でも、あぁでもしないと今の関係まで発展しなかっただろうし……。」
ようやく築き上げた今の魔族と人間の関係は、あの作戦なしには成し得なかったもの。それはアベルが一番よく理解していた。
故に、その事実を公にして今の関係が崩れることをひどく恐れている。
「どうすればいいのかなぁ~……ぶくぶく。」
口元までお湯に浸かり、水中でぶくぶくと大きなため息を吐いた。
そんな時、ふとアベルの脳裏にノアの姿が浮かんだ。
「……ノアだったらなんて言うかな。」
ノアも今回天候を操った事を知っている数少ない人物の一人だ。人間では唯一……その事実を知っている。
しかし、彼女はピースに移住してきた人間にその事実を話している様子は無い。
お風呂から上がって……ノアを迎えに行った時に聞いてみてもいいかもしれない。
そう思ったアベルは湯船から立ち上がる。
「ノアの意見を聞いてみてからでも遅くない……よね。」
そして逆上せる前に、風呂から上がり……ミノル特製の蜂蜜牛乳を飲んだアベルはノアを迎えにピースへと赴くのだった。
「やっと……終わった。もう魔力の限界だよ。」
私の横には最後の人間たちを運び終え、魔力がすっからかんになって干からびかけているアベルがいた。
行く街々で魔物と戦い、一匹残らず殲滅し……そこに残っていた住人たちをピースへと運んであげていたからな。
ノアとゼバスも戦ってはいたが、大半の魔物はアベルが広範囲の空間魔法で消し飛ばしていた。故の魔力切れだろう。
そんな疲れ切った様子のアベルにノアが一声かけた。
「アベル、ありがとね?」
「ん~ん、いいの。もとはと言えばボク達が原因かもしれないから。」
今回一番の功労者のアベルにノアがお礼の言葉を述べる。
「ひとまず常駐の騎士がいない村や街は全て回ったので、残りは王都とその周辺……でありますな。」
「その常駐の騎士ってのは、魔物に対処できるぐらい強いの?」
「一人一人は吾輩より腕は劣りますが……それでもある程度の魔物であれば対処できるかと。」
「なら急がなくても大丈夫そうだね。」
ゼバスの言葉にアベルはほっと一息ついた。
「も~今日は帰るっ。久しぶりにどっと疲れちゃったよ~。」
アベルは最後の魔力を振り絞り空間を切り裂いた。
「あ、アベル。申し訳ないんだけど……私とゼバスさんのことピースまで運んでくれない?」
「そう言うと思ってもう繋げてあるよ~。……ほらほら早く入って~。」
「えへへ、ありがと。」
そしてノアとゼバスはピースへと向かっていった。それを見送るとアベルは私に声をかけてきた。
「ねぇミノル。」
「ん?どうした?」
「もしピースに住んでる人間たちが……ボク達が日照りを起こしたって知ったらどうなっちゃうかな?」
二人になった途端にふとアベルは私に聞いてきた。
「不安か?」
「うん……ちょっとね。」
「……どんな歴史にも隠し事ってのはつきものだ。いずれバレてしまうものからずっと隠蔽されるものまで様々な。でも、隠し事ってのは誰かが話さないと基本は表には出てこない。」
「うん。」
私の話をアベルは頷きながら聞いている。
「まぁつまり……だ。アベルが話したかったら話せばいいし、話したくなかったら話さなくてもいいってことだ。」
アルマスもジュンコもこのことは内密にしてくれるだろうしな。
事実を公にするのも、秘密にするのもアベルの自由だ。
「そっか……。」
私の話を理解したアベルはうつむきながらポツリと言った。
今はまだどちらにするか決めかねているみたいだな。
「ま、今ここで思い悩むより帰って風呂にでも浸かりながらゆっくり考えるといいさ。」
案外考え事ってのは湯船に浸かりながらゆっくり考えると、答えが見えてくるものだ。
そう助言すると、アベルはコクリと頷く。
「うん、わかった。やってみる……。」
「良し、それじゃ帰ろう。今頃カミル達が腹を空かせてるだろうからな。」
そして私とアベルは、カミルの城へと帰るのだった。
◇
いつも通り美味しい料理を食べたアベルは、ミノルの助言に従って湯船に浸かりながら件の事を考えていた。
「はふぅ……やっぱり気持ちいいなぁ。」
ちょうど良い温度のお湯に肩まで浸かったアベルはポツリと溢した。
「……歴史に隠し事はつきもの……かぁ。」
もし……今人間達が苦しんでいる原因が自分達にあると知ったら、彼等はどんな反応をするだろう?
真っ先に頭に思い浮かんだのは、怒りや憎しみ……。
「う~……でも、あぁでもしないと今の関係まで発展しなかっただろうし……。」
ようやく築き上げた今の魔族と人間の関係は、あの作戦なしには成し得なかったもの。それはアベルが一番よく理解していた。
故に、その事実を公にして今の関係が崩れることをひどく恐れている。
「どうすればいいのかなぁ~……ぶくぶく。」
口元までお湯に浸かり、水中でぶくぶくと大きなため息を吐いた。
そんな時、ふとアベルの脳裏にノアの姿が浮かんだ。
「……ノアだったらなんて言うかな。」
ノアも今回天候を操った事を知っている数少ない人物の一人だ。人間では唯一……その事実を知っている。
しかし、彼女はピースに移住してきた人間にその事実を話している様子は無い。
お風呂から上がって……ノアを迎えに行った時に聞いてみてもいいかもしれない。
そう思ったアベルは湯船から立ち上がる。
「ノアの意見を聞いてみてからでも遅くない……よね。」
そして逆上せる前に、風呂から上がり……ミノル特製の蜂蜜牛乳を飲んだアベルはノアを迎えにピースへと赴くのだった。
0
お気に入りに追加
209
あなたにおすすめの小説
喫茶店のマスター黒羽の企業秘密3
天音たかし
ファンタジー
沖縄の琉花町で喫茶店を経営する黒羽秋仁は、異世界トゥルーで食材の仕入れを行っている。ある日、トゥルーの宿屋にてウトバルク王国の女王から食事会の誘いを受ける。
黒羽は緊張しながらも、相棒の彩希と共にウトバルクへと旅立つ。
食事会へ参加した黒羽は、事故で異世界に渡ってしまった沖縄出身の料理人「山城誠」と出会う。彼の腕前に感動した黒羽は、山城と交流を深めていく。
しかし、彼は女王暗殺を目論んだ犯人として、投獄されてしまう。黒羽は彼の無実を信じ、動き出した。
――山城の投獄、それはウトバルク王国の影に潜む陰謀の序章に過ぎなかった。
※前作
「喫茶店のマスター黒羽の企業秘密」
「喫茶店のマスター黒羽の企業秘密2」
「喫茶店のマスター黒羽の企業秘密 外伝~異世界交流~」
こちらも公開していますので、よろしくお願いします!
元魔王おじさん
うどんり
ファンタジー
激務から解放されようやく魔王を引退したコーラル。
人間の住む地にて隠居生活を送ろうとお引越しを敢行した。
本人は静かに生活を送りたいようだが……さてどうなることやら。
戦いあり。ごはんあり。
細かいことは気にせずに、元魔王のおじさんが自由奔放に日常を送ります。
異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~
ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した
創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした
その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる
冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る
テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる
7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す
若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける
そこからさらに10年の月日が流れた
ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく
少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ
その少女の名前はエーリカ=スミス
とある刀鍛冶の一人娘である
エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた
エーリカの野望は『1国の主』となることであった
誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた
エーリカは救国の士となるのか?
それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか?
はたまた大帝国の祖となるのか?
エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
俺この戦争が終わったら結婚するんだけど、思ってたより戦争が終わってくれない
筧千里
ファンタジー
ガーランド帝国最強の戦士ギルフォードは、故郷で待つ幼馴染と結婚するために、軍から除隊することを決めた。
しかし、これまで国の最前線で戦い続け、英雄と称されたギルフォードが除隊するとなれば、他国が一斉に攻め込んでくるかもしれない。一騎当千の武力を持つギルフォードを、田舎で静かに暮らさせるなど認めるわけにはいかない。
そこで、軍の上層部は考えた。ギルフォードに最後の戦争に参加してもらう。そしてその最後の戦争で、他国を全て併呑してしまえ、と。
これは大陸史に残る、ガーランド帝国による大陸の統一を行った『十年戦役』において、歴史に名を刻んだ最強の英雄、ギルフォードの結婚までの苦難を描いた物語である。
俺この戦争が終わったら結婚するんだ。
だから早く戦争終わってくんねぇかな!?
※この小説は『小説家になろう』様でも公開しております。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる