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第一章 龍の料理人

第87話

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 そして私が本を読み終えるころ……私の隣でノノが難しそうな表情を浮かべながら、さっきあげたメモ用の本と向き合っていた。
 ノノに気付かれないようにそっと内容を覗いてみると……やはり三枚下ろしの事について書き記しているところで、ピタリと筆が止まっている。

 ただ、それ以外のところは非常に良く書かれていて……如何にノノが私のことを見ていたかが分かる。わからないことをいつまでも悩んでいても仕方がない。少し助言をしてあげるとしようか。

「ノノ、わからないときは遠慮なく聞いていいんだぞ?」

「あぅ……で、でもお師しゃまも本を読んでたし。聞いていいのか分からなくて……。」

「そういう時でも遠慮はするな。分からなかったら、その疑問を抱いているうちに聞く……わかったな?」

「は、はいっ!!」

 ノノと一つ約束を交わし、私はノノの質問に答えていく。……とはいっても大方どんな風に包丁を動かすのかとかは理解しているようだったので、本当に少し手を貸してあげるだけでその後ノノは自分で理解を深めていった。

 そしてノノが今日のことをめいいっぱい記した後、二人で書庫を後にしようとしたとき……ちょうど廊下でカミル達とすれ違った。

「お?皆揃って……どこに行くんだ?」

「水浴びじゃ!!温かい湯のことをアベルに話したら入りたいと聞かなくての。」

「だってボクの城より面白いものがあるって聞いたら~そりゃあ体験したくなるでしょ!!」

「なるほどな。そういうことだったか。」

「そういうわけだから先に水浴びしてくるわね~。」

「ミノル、蜂蜜牛乳用意しといて……ね?」

「はいはい、まぁ逆上せない程度にゆっくり浸かって来なよ。あ……そうだ!!ノノも一緒に連れていってやってくれ。」

 浴槽へと向かおうとしていたカミル達にノノのことを預かってもらおうとすると……。

「あぅ……ノノは、ノノはお師しゃまと一緒が……。」

「ノノ、言いたいことは分かるが……風呂ってのは男性と女性は基本別々で入るものなんだ。それに、ノノは私とだけじゃなくカミル達とも交流を深めてもらわないと……。これから一緒に過ごす住人なわけだし、なっ?」

「あぅ~~~……わかりましたぁ~。……で、でもっ!!寝るときはお師しゃまと一緒がいいでしゅっ!!……ダメ、でしゅか?」

 瞳の縁に少し涙を溜めながらノノは振り絞るような声で言った。まぁ……それぐらいならいいだろう。

「……わかった。」

 ノノのお願いに私が首を縦に振ると、彼女はぱぁっと表情を明るくして嬉しそうな仕草を見せた。

「あ、ありがとうございましゅ!!お師しゃま!!」

「あぁ……ほら、皆待ってるから行っておいで。あ、これ着替えな。カミル、もしノノが着替えに手間取ったら手を貸してやってくれ。」

「仕方のないやつじゃのぉ~。ま、それぐらい主人の務め……か。」

「えへへ……お師しゃま行って来ましゅ!!」

 明るく手を振るノノに手を振り返し、私は彼女達が浴室へと向かうのを見送った。

「さて……マームに釘を刺された蜂蜜牛乳はさっき片手間で作ったから良しとしてだ。ちょっとピッピ達と戯れにいくか。」

 そう思った私は中庭へと歩みを進めた。外に出て空を見上げると、少しずつ空が茜色に染まりつつあった。

「もう夕方か……。」

 最近時間の進みが早く感じる。……もしかすると実際に早いのかもしれない。日本……というか地球では一日が24時間と言う明確なものがあったが、こちらの世界はどうなのだろう?体感的に1日が18時間とかに感じる。
 ……それとも歳のせいか?人は歳を食うと時間の進みが早く感じるって現象に襲われるらしいからな。とはいっても、私はまだ来年で30……まだ20代、まだ20代だ。そんなに気にする必要はないだろう。

 この事はもう考えないようにしようと頭を横に振っていたときだった。

「ピィ~ッ!!」

「お?」

 バサバサと大きな羽音と共に、上空から私のもとへとピッピが舞い降りてきた。ピッピの蛇のような尻尾にはぐるぐる巻きにされた魔物がいる。どうやら狩りに行って帰ってきたところらしい。
 そしてピッピは、魔物をそっと地面に置くと私のもとへと一目散に駆け寄ってきた。

「うわっぷ!!」

「ピィ~ピィ~ッ!!」

 ピッピは頭で押すようにして私のことを軽く押し倒すと、もふもふの体を私に擦り付けてくる。

 もう既に体も私よりも大きいし、力も強い。故にあっさりと私は押し倒されマウントをとられてしまう。
 まったく、ピッピの成長スピードには驚かされるばっかりだ。

「お前本当に大きくなるのが早いな。」

 すりすりと体を擦り付けてくるピッピの頭を撫でていると、突然ピッピは私の服の襟を大きな嘴でつまみ上げる。そしてどこかへと歩みを進め始めた。

「お!?ど、どこに行くんだ!?」

 されるがままにピッピに体を預けていると、連れていかれた先にはモーモーと……そしてあるものがあった。

「これは…………。」

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