76 / 200
第一章 龍の料理人
第75話
しおりを挟む「ようこそ、私達エルフの国へ。」
「ここが……エルフの国。」
エルフの国の建物はどうやら全て木造建築のようで、こう……なんというか。自然の中で生きている人達というのを感じさせられる。
そして奥には堂々とそびえ立つ巨大な世界樹。以前カミルから聞いた話では、あの世界樹に咲く花はどんな病でも治すことのできる薬になるのだとか……。
初めて足を運んだエルフの国の街並みを眺めていると、奥に見える世界樹の方から一人のエルフがこちらに歩いてきているのが目に入った。そのエルフが近付いてくると、私達をここまで案内してくれたエルフの女性はそちらの方を向いて跪いた。
「やぁ、良く来てくれたね。僕はアルマス……一応この国、エルフの国を束ねている者だよ。」
こちらに近づいてきたエルフの男性はアルマスと名乗り、エルフの国を束ねている……つまり王だと言った。
「先日は僕の友人のシルフを助けてくれてありがとう。……ほら、シルフもお礼を言いなさい?」
アルマスが謝礼の言葉を述べて、シルフの名を呼ぶと、彼の背中からひょっこりとシルフが顔を出し、少し顔を赤らめながら言った。
「あ、そ、その……オイラを助けてくれてありがとう。本当に感謝してるんだナ。」
「ふふ……っと、さてそれじゃあ立ち話もなんだから、僕の屋敷に行こうか?僕も君達の事を知りたいし……ね?」
にこりと私の方を向いて笑いかけてきたアルマス。その笑顔から私は何も彼の思っていることを読み取ることができなかった。魔王のアベルに初めて会ったときの事を思い出させるような、何を考えているのかわからない不敵な笑み。これが王というものなのだろうか。
「警戒……しているね?別に君達の事をとって食べようって訳じゃない。それに僕なんかの力じゃそちらの五龍の方々にはとても敵わないからね。」
私から視線を移し、カミルとヴェルの方を向いてアルマスは言った。そしてクルリと踵を返すと……ゆっくりと世界樹までの方に歩き始めた。
彼が歩き始めたのを見て、私はチラリと隣にいるカミルに視線を向けた。すると、私の意思を読み取ったようにカミルは言った。
「……まぁ着いていくしかないのぉ。」
「だよな……。」
私達はアルマスに導かれるがまま、世界樹の方へと歩みを進めるのだった。
そして世界樹の根本まで来ると、そこにはポツン……と一軒の大きな屋敷があった。
「ここが僕の屋敷だよ。……まぁ、エルフの王は皆ここに住むことになってるってだけなんだけど。ささ、入って入って……。」
アルマスに肩に手をかけられ、半ば強引に中に入るように勧められる。
中に入ると……メイド服のようなフリフリの服を着た小さな妖精がいた。
「あ!!妖精王様、おかえりなさいです。」
「あぁ、ただいま。ミル、お客人にお茶を淹れてくれるかい?」
「かしこまりましたです!」
その妖精はペコリと可愛らしくお辞儀をすると、パタパタとその妖精は屋敷の奥へと駆けていった。
良く周りを見てみるとそこかしこにメイド服を着た小さな妖精が何人もいる。そして私が妖精達を見ていることに気が付いたアルマスが言った。
「あの子達は本当にむか~しからこの屋敷の管理をしてくれる妖精達だよ。ちなみに僕より長生きしてるね。僕今年で300歳だけど……。」
苦笑いしながらアルマスは言った。
今確かに300歳……って言ったよな!?あれか?エルフは長寿なのか!?いや、それよりもあの妖精達はアルマスよりももっと長生きしてるって……いったいどれだけの年月を生きてるんだ?
とんでもない数字に驚いていると、カミルが言った。
「エルフといい、妖精といい長寿じゃからな。先代の妖精王はもっと歳をくっておったぞ?」
「そうですね。先代は私の父なので……今だいたい……500か600歳ぐらいかな?」
「む?なんじゃ、お主あやつの息子か。道理で、輪郭が似ておるの思ったのじゃ。」
「ははは!良く言われます。」
カミルは確か、先代のエルフの王とは面識があるって言ってたよな。だからアルマスと、その先代が似ていることに気が付いていたようだ。
「あやつは息災か?」
「えぇ、今は母と森の奥でゆっくりと隠居生活してますよ。」
「そうか。」
そんな他愛のない会話をアルマスとカミルがしていると、さっき奥に駆けていった妖精がこちらに戻ってきた。
「妖精王様!準備できましたです!」
「おぉ、ありがとう。……それじゃあ行きましょうか。」
アルマスの案内のもと、私達は客室へと迎え入れられた。そして向かい合うように席につくと、アルマスが口を開いた。
「ふぅ……それでは改めて、この度は本当にありがとうございました。」
「良い良い。……それよりも、じゃ。今日は1つ聞きたいことがあっての。」
そうカミルが話を切り出すと、アルマスは耳をピクンと動かし反応する。
「……それは、なぜ僕が彼の事を人間だと知っているか。ということですか?」
「わかっておるのなら話が早い。妾達が予想したのは、そこのチビすけがお主に話したと思ったのじゃが……合っておるか?」
「間違いないですよ。シルフが僕に教えてくれたんです。カミルさんの下になにやら美味しい料理を作る人間がいる……と。」
アルマスはこちらに視線を向けてくる。
「やはりな。」
「実は何日か前に魔王から手紙が届きましてね。内容は人間を探しているというもので……。」
「……それで魔王様にミノルの存在を教えたというわけか。」
「そういうことです。彼がここにいるってことは、どうやら魔王が探している人間とはまた違ったみたいですね。……ちなみになぜカミルさんが彼と一緒にいるか教えてもらっても?」
「それについては秘密じゃ。」
「ふふ、そうですか。」
何かを察したように笑いながらも、アルマスはそれ以上の詮索はしなかった。
「さて、ではそろそろ本題に入りましょうか。今回シルフを助けてくれた……ということに酬いる形で、何か御返しをさせてもらいたいのですが、何か欲しいものとかはありませんか?」
……褒美をとらせるって訳か。とはいっても欲しいものなんて特には無いし、カミルに任せるか。
0
お気に入りに追加
209
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生先が同類ばっかりです!
羽田ソラ
ファンタジー
水元統吾、”元”日本人。
35歳で日本における生涯を閉じた彼を待っていたのは、テンプレ通りの異世界転生。
彼は生産のエキスパートになることを希望し、順風満帆の異世界ライフを送るべく旅立ったのだった。
……でも世の中そううまくはいかない。
この世界、問題がとんでもなく深刻です。
ダンジョン・ホテルへようこそ! ダンジョンマスターとリゾート経営に乗り出します!
彩世幻夜
ファンタジー
異世界のダンジョンに転移してしまった、ホテル清掃員として働く24歳、♀。
ダンジョンマスターの食事係兼ダンジョンの改革責任者として奮闘します!
これがあたしの王道ファンタジー!〜愛と勇気と装備変更〜
プリティナスコ
ファンタジー
しばらく休みます
割と普通の女子高生の時浦刹那は、深夜にDVDを返しにいった帰り道に空から降ってきた流星によって死亡、消滅する
胡散臭い天使に騙され、異世界に転生するも転生によって得たいろいろな特典をメイドに殺されかけたり、殺されたりなどで次々失う展開になり、挙げ句の果てに 唯一のこったスキル"ウエポンチェンジ"も発動条件がみたせなくって!?なかなか無双できない主人公が頑張ったり、頑張らなかったり、勝ったり、負けたり、笑ったり、泣いたり、喜んだり、悲しんだり、傷つけたり、傷ついたり、怒ったり、謝ったり、手に入れたり、手放したり、誰かの為だったり、自分のためだったり、躓いたり、転んだりしながらも。 それでも頑張ってハッピーエンドを目指す王道ファンタジーです。
男もそこそこでてきます。ご注意を 最低、1日1話更新します。かける日はいっぱい書きます
初めて書いた作品です、少しづつ成長していくので、最新話までお付き合いいただけると嬉しいです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~
今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。
さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。
アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。
一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。
※他サイト転載
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる