上 下
70 / 200
第一章 龍の料理人

第69話

しおりを挟む
 私はノノが見やすいように少し工夫しながら料理を進めていく。ちなみに今日作る料理は、トマトとカッテージチーズのフレッシュサラダ。そしてサラダのトマトに合う鶏肉の料理、今回はシンプルにチキンソテー。スープは蒸かした芋を裏ごし牛乳とコンソメで伸ばしたビシソワーズ。

 どれも簡単で初歩的な料理だ。難しい料理をノノの前で作っても構わないが……正直その料理を作る行程一つ一つの意味を理解できないだろう。だから今日は簡単なものにした。

「……こうじっくりと見られながら料理をするのは久しぶりな気がするな。」

 淡々と野菜や肉の下処理をしながらポツリと私は呟いた。日本にいたときは周りからの視線は絶えなかった。こちらに来てからはそういうのがなかったから、随分久しぶりの感覚だ。
 
 出来る限り……見えるように。

 そう意識しながら料理を進め、ようやく皆の前に出来上がった料理が並べられた。

「うわ……カミル達っていっつもこんな食べてるの?」

「うむっ!!さっきはまお……あ、アベルの前じゃったから、ちと我慢しておったのじゃ。」

 カミルはまだ無礼講というものに慣れていないらしく、アベルのことを魔王……と言いかけていた。

「では熱いうちに食べるのじゃ~!!」

 そしてカミル達は料理を食べ始めたが、その傍らでノノはじっ……と料理を眺めなかなか食べようとしなかった。

「ノノも皆と一緒に食べて良いんだぞ?」

「あぅ……。」

「遠慮とか我慢とかそういうのは無しだ。それにノノはもう奴隷じゃないんだから……なっ?」

 私の言葉を聞き入れてくれたノノは、おずおずとしながらもチキンソテーをフォークでさして口へと運んだ。すると……

「んっ!?ん~~~ッ!!」

 声にならない声を上げながらノノは、ピコピコと激しく耳を動かし、更には腰から生えている尻尾もブンブンと激しく揺れている。
 そんな愛らしい姿に思わず笑みをこぼしながら、私はノノに問いかけた。

「美味しいか?」

「~~ッ!!」

 私の問いかけにノノは激しく頷いた。

「なら良かった。たくさん食べると良い。おかわりだってあるからな。」

 美味しそうに料理を頬張るノノの頭を撫でていると、ひょっこりと私の横からアベルが顔を出した。

「もちろんボクの分のおかわりもあるよね?ねっ?」

「あぁ、もちろん作ってあるよ。どれをおかわりする?」

「全部!!」

「わかった。ちょっと待っててくれ。」

 アベルにおかわりを盛ろうと席を立つと……続けざまにカミル達が空になった食器を私に差し出してきた。

「ミノル、妾もおかわりじゃ!!」

「私もお願~い。」

「私も……もう少し食べたい。」

「はいはいっと。」

 そして皆分のおかわりを盛り直して再びノノの元へと戻ってくると……。

「あう……あうッ!!」

 ノノが空になった食器を持って必死にぴょんぴょんと跳び跳ねていた。

「ノノもおかわりか?」

 そう問いかけると、ノノは何度も首を縦に振った。

「わかった。ちょっと待っててな。」

 空になった食器をノノから受け取り、私はそれにおかわりの料理を盛り付ける。
 そんなやり取りを繰り返しているうちに、あっという間に時間は過ぎていき……。

「も、も~無理お腹いっぱい……。」

「あ~う~……。」

 アベルとノノの二人は膨れたお腹をポンポンと撫でながら幸せそうな表情を浮かべていた。
 そんな二人を背に、マームが私のもとに近付いてきた。

「ミノル、お菓子の時間。約束……覚えてる?」

「もちろん。……ただし、カミル達に自慢しないこと……わかったな?」

 無益な喧嘩だけは避けたいからな。

「うん。わかってる。だから早くちょうだい?できてるの知ってる。」

「はいはい……っとこれがマームの分な?」

 私はマームに更に山盛りに盛り付けられたシュークリームを手渡した。中にはカスタードクリームとホイップクリームが入っている。マームのやつには、特別にそれらの他にベリリとかいうイチゴみたいな果物が入っている。

 今回のお菓子をシュークリームにした理由は至極単純……中身に工夫をすることで、マームとの約束を果たすためだ。外面で分かるような贔屓をしたらカミル達が黙ってないだろうからな。

「ふふ……ありがと。」

 鼻唄を口ずさみながらマームがそれを持って戻っていくと、すかさずカミルとヴェルの二人が私のもとにやって来た。

「ミノル妾も食後の甘味を所望するのじゃ!!」

「私も私も~~~っ!!」

 二人にも山盛りのシュークリームを手渡すと、アベルがこちらを震えながら見ていた。

「え……ま、まだ食べる……の?」

「食後には甘味と相場が決まっておるのじゃ~。これを食わねば締まらないのじゃ!!」

 カミル達はアベルとノノを置いてきぼりにして、別腹にシュークリームを詰め込み始めた。

 私はノノとアベルのもとに幾つかシュークリームを持っていく。

「まぁ、二人とも食べられるなら食べてみれば良い。もしかしたら意外とお腹に入るかもしれないぞ?」

 ……ってあれ?この台詞この世界に来てから何度も言っている気がするな。
 この場面に既視感を覚えながらも私は二人にシュークリームを勧めた。

「あうっ!!」

「あっ!!」

 アベルより先にノノがシュークリームを一つ手に取り、かぶり付いた。すると、ノノは幸せそうな笑みを浮かべる。

「あ~う~!!」

 そしてまた一つ……また一つとノノはさっきまで満腹感で満ち足りていたというのに、次々に食べ始めた。
 それを見たアベルも遂に誘われてシュークリームに手を伸ばした。

「うぅ……お腹いっぱいだけど、美味しそうだし……あむっ。ん!?」

 シュークリームを一つ頬張ったアベルは大きく目を見開いて一瞬固まった。しかし、次の瞬間には自然と手がまたシュークリームへと伸びていた。
 そしてあっという間に二人の前からシュークリームはなくなってしまった。すると、二人はもの足りなさそうな表情を浮かべる。

「おかわりなら、あそこにいる二人から貰うといい。大量にあるからな。」

「「なっ!?」」

「あ、ホント!?じゃあ一個もらうね~。」

「あうあう~!!」

「お、おぉ!?ちょ、ちょっと待つのじゃ~!!」

 そうして忙しなく、楽しく……食事の時間は終わりへと近付いていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...