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第一章 龍の料理人

第33話

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 そしてカミルに再び抱えられ、城へと戻ってくるとモーモーとピッピが中庭で遊んでいた。時折ピッピはモーモーから牛乳を飲んだりしてお腹を満たしている姿も見て取れた。

「おぉ!!モーモーがピッピの世話をこなしておるのじゃ!!」

 そんな二匹の姿を見てカミルははしゃいでいる。昨日自分で世話をするとか言っていたような気がするが……。まぁあまり突っ込まないでおこう。逆にさっきのことをぶり返されるとこちらが危うくなるしな。
 地面に降り立つと、こちらに気が付いたピッピがパタパタと羽をはばたかせながら私の方に走ってきた。最初は遠目で見ていたからわからなかったが、こちらに近づいてくるにつれ私はピッピにある違和感を感じ始めていた。

 ん?ピッピってあんなに大きかったか?昨日見た時よりもなんか大きくなっているような気がするんだが……。

 私のその確証のない疑問はピッピが私の間近に迫ってきたときに確信に変わった。

「ピィィィッ!!」

 ピッピはとんでもない勢いで私に向かって飛びついてきた。その勢いに負けて転んだ私の顔をピッピはざらついた長い舌でペロペロと舐めてくる。

「どわっ!?お、お前なんでこんなに大きくなってんだ?」

 私に向かって走ってきたピッピは昨日の比ではないぐらい大きくなっていた。昨日までは手乗りサイズだったのに、今は大型犬ほどの大きさになっている。とんでもない成長スピードだ。
 私に馬乗りになりながらじゃれついてくるピッピ。私がその驚異的な成長スピードに驚いていると、腕にシュルシュルと何かが巻き付いてくるような感覚があった。

「……ッ!!へ、蛇が巻き付いて……。ん?これよく見たらピッピのお尻から生えてないか?」

 よーく見てみると、その蛇はピッピのお尻から生えているのが見て取れた。その蛇はやけに友好的で、私の腕にすりすりと体をこすりつけてくる。

「お?もう尻尾の蛇まで生えたのか、ピッピは成長が速いのじゃ~。」

「尻尾が蛇ってことは……この子コカトリスの雛なの!?よくこんな危ない魔物を飼えるわね。」

 少したじろぎながらヴェルは言った。確かに傍から見ればかなり危険なことをしていることには違いない。だがこの子は……。

「この子は幸い私とカミルのことを親だと思っているらしいからな。危なくないぞ?……多分。」

「多分……ねぇ。」

 ピッピは私とじゃれ合って満足すると再びモーモーのもとへと戻っていった。

「どうやらモーモーが世話をしてくれるみたいだな。」

 モーモーのもとに戻ったピッピは私とじゃれ合って喉が渇いたのか、ごくごくと勢いよく牛乳を飲み始めた。

「むぅ……妾が世話をしたかったが、まぁ良いか。生憎妾はモーモーのように乳が出るわけではないしのぉ。」

 ムニムニとカミルは自分の平らな胸を揉みながら言った。すると勝ち誇ったようにヴェルがその豊満な胸をカミルの頭の上に乗せた。

「まぁカミルのその貧相な胸じゃ~ねぇ?」

「重いっ!!その脂肪の塊を退けるのじゃ!!妾だってそのように胸が大きい姿に変化することは可能なのじゃ!!ただ体が重くなるのが嫌なだけなのじゃ!!」

 頭にのせられたヴェルの胸を振り落とし、カミルはそう主張する。

「へぇ~?じゃあやってみなさいよ。」

「ほぅ?ずいぶん挑発してくるではないか?じゃが今日はあえてそれに乗ってやるのじゃ!!刮目せよ、これが妾の魅力全開の変身じゃっ!!」

 そうカミルが高らかに宣言すると、カミルの体を不可思議な煙が覆い隠し始めた。カミルが変身するまでの間、私はヴェルに話しかける。

「あんまりカミルをたきつけないでやってくれよ?」

「ふふっ、わかってるわ。それよりも……多分面白いのが見れるわよ?」

 にやにやとしながらヴェルは煙の向こう側を眺めている。

「面白いもの?」

「カミルはね、自分を変身させるのが何よりも苦手なの。あの姿だって何十年と練習して、やっとできたまともな姿なんだから。」

 そうだったのか。それは知らなかった。やはりいくら生態系の頂点のドラゴンであっても苦手分野というのは存在するようだ。
 そんなことを話していると、カミルを包んでいた煙が晴れ始め徐々に変貌したカミルの姿が露わになり始めた。

「むっはっは!!どうじゃこれが妾の魅力全開の変身じゃ~!!……胸が重いのじゃ~。」

「ねっ?面白いものが見れるって言ったでしょ?」

 にやにやと笑みを浮かべながらヴェルはこちらを向いて言った。確かに彼女の言う通り煙の向こう側にいたカミルはなんとも珍妙な姿をしていた。
 簡単に言えば……元の幼い少女のような姿はそのままに、胸だけが異様に大きくなっている。かなり不釣り合いな姿だ。

「ぷっ……くくく、確かに胸はおっきくなったわね~。」

「どうじゃヴェル!!お主よりも大きいぞ!!」

「そうね、私よりもすっっごくおっきいわね。でも、その体型に不釣り合いな大きい胸で歩けるかしら?」

「むぐぐっ……むぐぐぐぐ……む、胸が重すぎて歩けんのじゃ~。」

 そりゃあそうだろうな。そんな体じゃ立ってるのが精いっぱいだろう。早く元の体に戻るように言ってあげるか。

「無理してないで早く元の体に戻ったらどうだ?」

「くっ……無念じゃが、この姿では日常生活もままならん。」

 私の助言を聞き入れ、渋々カミルは元の姿に戻る。

「むぅ……無駄に魔力を使ったから腹が減ったのじゃ。ミノル!!飯じゃ~!!」

「だから引っ張るなって!!」

 またもやずるずると私はカミルに引きずられ城の中へといざなわれる。もはやこれに抵抗するよりも、身を任せてしまった方が楽になれるんじゃないか?
 と、一瞬そんな考えが頭をよぎったミノルだった。
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