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第一章 龍の料理人
第19話
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そして連れてこられた先で、肉屋の店主の女性はある肉の塊を見せてくれた。
「こちらが私おすすめっ!!黒乱牛のサーロインです!!」
「ほぅ……サーロインか。」
サーロインとは牛の腰周りにある肉のことだ。サーロインと呼ばれているが実はロースの仲間だったりするんだよな。
まじまじとその黒乱牛とやらのサーロインの塊を眺めていると、横にいたカミルが私の脇腹をツンツンとつついてきた。
「のぉ、ミノル。さーろいん?とはなんじゃ?」
「牛の肉の部位の1つのことだ。それでサーロインっていうのは腰回りについている肉のことだな。」
「ほぉ~なるほどな。肉は肉じゃと思っておったが……そんな風に名前があるのじゃな。」
そうカミルにサーロインのことを教えてあげていると、驚いた表情を浮かべた店主の女性が言った。
「お客さん詳しいですね~!!それじゃあこれは何の部位かわかりますか~?」
今度私の前に置かれたのは一本の真っ赤な棒状の肉だった。こんな特徴的な部位はあそこしかない。
「フィレ……だろ?」
「おぉ!!すごい当たりです~。もしかして同業の方ですかぁ~?」
「いや、職業柄ちょっと詳しいだけだ。」
料理人はいろいろなことに精通しなければならない。その過程の中で肉の部位を覚えることは必修課程だっただけ。
「それで、この黒乱牛は何か珍しい牛なのか?さっき珍しいものが入ったとかって言ってたが……。」
「よくぞ聞いてくれましたっ!!この黒乱牛は獣人の国でのみ養殖されているそれはそれは珍しく美味しい牛さんなんですっ!!」
「獣人の国でのみ養殖されている牛……か。なかなか面白いな。サーロインの脂もちょうどいい塩梅そうだし、フィレも柔らかそうだ。カミル、これ食べるか?」
「うむっ!!」
私の問いかけにカミルは大きく頷いた。まぁ食べないって言うとは思ってなかったがな。
「それじゃあそのサーロインの塊と、フィレを一本……。」
「はいっ……はいっ。わっかりましたぁ~、他には何か入り用の物はありますか?」
「そうだな……鶏ガラとかってあるか?」
「ございますよ~。」
「それじゃあそれも多めにくれ。」
「え~……それではぁ~黒乱牛のサーロイン、フィレそして鶏のガラ以上三つで金貨8枚で~す。」
金貨8枚……か。だいたいこの金貨ってやつの価値がわかってきたぞ。
おそらく、日本円にしてだいたい金貨1枚が一万円と言ったところだろう。だからこれを全部合わせたら……だいたい八万円位ってところか。
鶏ガラはそんなに高くないとして……この黒乱牛というのがどれだけ高いかがわかるな。この世界でもある種のブランドというのには、いい値段がつくものなんだな。
「はいよ、これで良いか?」
「はい!!しっかり丁度金貨8枚頂きました。こちらはどうやってお持ち帰りに……。」
「あぁ、それなら問題ない。インベントリ。」
万能魔法インベントリを開きその中にサーロインとフィレ、そして大量の鶏ガラを仕舞う。
「これで良し。いい買い物だったよ。」
「いえいえ~またのご来店をお待ちしてます~。」
大きく手を振って彼女は私たちを見送ってくれた。
「買い物は以上で良いのかの?」
「あぁ、もう大丈夫だ。」
「ではもう帰るぞ~。妾は腹ペコじゃ~。」
街中でカミルは少女の姿から本来の姿に戻り、私のことを両手で抱え上げた。そして大きく羽ばたき、上空へと舞い上がる。
「くっふっふ……今日の飯は何かのぉ~。ん?ミノル~。」
飛んでいる最中含み笑いをしながらカミルは問いかけてきた。余程帰ってからの料理が楽しみらしい。すごく上機嫌だ。
「そうだな、今日はいい肉が手に入ったからこいつをシンプルに塩胡椒で焼いたステーキにしようか。」
「む?今日買った調味料は使わんのか?」
「いい肉ってのは下手にいろんな調味料で味をごまかすよりも、シンプルに塩と胡椒だけで味付けしたほうが美味しいんだぞ?まぁカミルがいろんな調味料を使ってほしいってならそれに従うが……。」
「いやっ!!ミノルが一番美味しいというのならそれでよいのじゃ!!」
首をぶんぶんと横に振りながらカミルは言った。
「妾が下手なことを言って美味しくないものができてしまったら元も子もないからのぉ~。」
「何をしたって美味しくないものなんて作らないさ。美味しくないものを作れって命令されない限りはな。」
「そんなことを命令する輩なんておるのか?」
「少なくとも今までの経験上はいない。だが、世の中は広いからな……いつかは頼まれるんじゃないか?」
「妾が健在のうちは頼むことはないのじゃ~。」
私としても頼まれないことを祈ってる。わざわざ美味しくないものを作るなんて、食材に対する冒涜もいいところだ。
「そういえば、帰ったらあの牛を中庭に放さないといけないな。……わかっていると思うがカミル。お腹が空いてもあれは食べちゃダメだぞ?」
「むっ!?ま、まさか……食べようなんて思ってないのじゃ~。……少し美味そうには見えたがの。」
今ぼそりと最後に言ったのもしっかりと聞こえたぞ~。まるっきり図星じゃないか。一応念には念を押しておくか……本当に食べられたら困る存在だからな。
「食べちゃったらお菓子が作れなくなるからな。あの牛から採れるものがお菓子作りの肝になるんだからな?」
あの牛からは牛乳にバター、果てには生クリームまでもが採れる。このどれもがお菓子作りには欠かせないものだ。それに料理にも使える。
「それに多分あれは乳牛だから肉はそんなに美味しくないと思うぞ?今日食べるやつとはかなり違うと思う。」
「なんと!?美味しくないのなら尚更食べる気が失せたの~。」
このぐらい念を押しておけば大丈夫だろう。今のカミルは美味しくないものには興味がないようだし……私の言葉も信じてくれている。これであの牛の安全は保障されたようなものだな。
さて、あの城が見えてきた。今日も最高に美味しい料理をカミルにご馳走しないとな。
「こちらが私おすすめっ!!黒乱牛のサーロインです!!」
「ほぅ……サーロインか。」
サーロインとは牛の腰周りにある肉のことだ。サーロインと呼ばれているが実はロースの仲間だったりするんだよな。
まじまじとその黒乱牛とやらのサーロインの塊を眺めていると、横にいたカミルが私の脇腹をツンツンとつついてきた。
「のぉ、ミノル。さーろいん?とはなんじゃ?」
「牛の肉の部位の1つのことだ。それでサーロインっていうのは腰回りについている肉のことだな。」
「ほぉ~なるほどな。肉は肉じゃと思っておったが……そんな風に名前があるのじゃな。」
そうカミルにサーロインのことを教えてあげていると、驚いた表情を浮かべた店主の女性が言った。
「お客さん詳しいですね~!!それじゃあこれは何の部位かわかりますか~?」
今度私の前に置かれたのは一本の真っ赤な棒状の肉だった。こんな特徴的な部位はあそこしかない。
「フィレ……だろ?」
「おぉ!!すごい当たりです~。もしかして同業の方ですかぁ~?」
「いや、職業柄ちょっと詳しいだけだ。」
料理人はいろいろなことに精通しなければならない。その過程の中で肉の部位を覚えることは必修課程だっただけ。
「それで、この黒乱牛は何か珍しい牛なのか?さっき珍しいものが入ったとかって言ってたが……。」
「よくぞ聞いてくれましたっ!!この黒乱牛は獣人の国でのみ養殖されているそれはそれは珍しく美味しい牛さんなんですっ!!」
「獣人の国でのみ養殖されている牛……か。なかなか面白いな。サーロインの脂もちょうどいい塩梅そうだし、フィレも柔らかそうだ。カミル、これ食べるか?」
「うむっ!!」
私の問いかけにカミルは大きく頷いた。まぁ食べないって言うとは思ってなかったがな。
「それじゃあそのサーロインの塊と、フィレを一本……。」
「はいっ……はいっ。わっかりましたぁ~、他には何か入り用の物はありますか?」
「そうだな……鶏ガラとかってあるか?」
「ございますよ~。」
「それじゃあそれも多めにくれ。」
「え~……それではぁ~黒乱牛のサーロイン、フィレそして鶏のガラ以上三つで金貨8枚で~す。」
金貨8枚……か。だいたいこの金貨ってやつの価値がわかってきたぞ。
おそらく、日本円にしてだいたい金貨1枚が一万円と言ったところだろう。だからこれを全部合わせたら……だいたい八万円位ってところか。
鶏ガラはそんなに高くないとして……この黒乱牛というのがどれだけ高いかがわかるな。この世界でもある種のブランドというのには、いい値段がつくものなんだな。
「はいよ、これで良いか?」
「はい!!しっかり丁度金貨8枚頂きました。こちらはどうやってお持ち帰りに……。」
「あぁ、それなら問題ない。インベントリ。」
万能魔法インベントリを開きその中にサーロインとフィレ、そして大量の鶏ガラを仕舞う。
「これで良し。いい買い物だったよ。」
「いえいえ~またのご来店をお待ちしてます~。」
大きく手を振って彼女は私たちを見送ってくれた。
「買い物は以上で良いのかの?」
「あぁ、もう大丈夫だ。」
「ではもう帰るぞ~。妾は腹ペコじゃ~。」
街中でカミルは少女の姿から本来の姿に戻り、私のことを両手で抱え上げた。そして大きく羽ばたき、上空へと舞い上がる。
「くっふっふ……今日の飯は何かのぉ~。ん?ミノル~。」
飛んでいる最中含み笑いをしながらカミルは問いかけてきた。余程帰ってからの料理が楽しみらしい。すごく上機嫌だ。
「そうだな、今日はいい肉が手に入ったからこいつをシンプルに塩胡椒で焼いたステーキにしようか。」
「む?今日買った調味料は使わんのか?」
「いい肉ってのは下手にいろんな調味料で味をごまかすよりも、シンプルに塩と胡椒だけで味付けしたほうが美味しいんだぞ?まぁカミルがいろんな調味料を使ってほしいってならそれに従うが……。」
「いやっ!!ミノルが一番美味しいというのならそれでよいのじゃ!!」
首をぶんぶんと横に振りながらカミルは言った。
「妾が下手なことを言って美味しくないものができてしまったら元も子もないからのぉ~。」
「何をしたって美味しくないものなんて作らないさ。美味しくないものを作れって命令されない限りはな。」
「そんなことを命令する輩なんておるのか?」
「少なくとも今までの経験上はいない。だが、世の中は広いからな……いつかは頼まれるんじゃないか?」
「妾が健在のうちは頼むことはないのじゃ~。」
私としても頼まれないことを祈ってる。わざわざ美味しくないものを作るなんて、食材に対する冒涜もいいところだ。
「そういえば、帰ったらあの牛を中庭に放さないといけないな。……わかっていると思うがカミル。お腹が空いてもあれは食べちゃダメだぞ?」
「むっ!?ま、まさか……食べようなんて思ってないのじゃ~。……少し美味そうには見えたがの。」
今ぼそりと最後に言ったのもしっかりと聞こえたぞ~。まるっきり図星じゃないか。一応念には念を押しておくか……本当に食べられたら困る存在だからな。
「食べちゃったらお菓子が作れなくなるからな。あの牛から採れるものがお菓子作りの肝になるんだからな?」
あの牛からは牛乳にバター、果てには生クリームまでもが採れる。このどれもがお菓子作りには欠かせないものだ。それに料理にも使える。
「それに多分あれは乳牛だから肉はそんなに美味しくないと思うぞ?今日食べるやつとはかなり違うと思う。」
「なんと!?美味しくないのなら尚更食べる気が失せたの~。」
このぐらい念を押しておけば大丈夫だろう。今のカミルは美味しくないものには興味がないようだし……私の言葉も信じてくれている。これであの牛の安全は保障されたようなものだな。
さて、あの城が見えてきた。今日も最高に美味しい料理をカミルにご馳走しないとな。
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