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第一章 龍の料理人

第3話

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 まずは調理器具の確認からしていこうか。コンロは……あれかな?
 厨房に配置してある大きなコンロらしき物に近づいて観察してみると、明らかに私がいた世界とは違うものであることが見てとれた。

「これは……コンロで間違いないようだが、この真っ赤な石は何なんだ?」

 一つ一つのコンロの中央には真っ赤な石が置かれていた。これが何を意味するのかは、まだわからない。
 よくよく見てみると、しっかりと一つ一つのコンロのツマミが設置されている。こいつを捻ってみれば何か起こりそうだな。
 そう確信した私は目の前にある大きなコンロのツマミを軽く捻った。

すると中央に埋め込まれていた赤い石から炎が上がった。

「おぉ?なるほどな。この赤い石から火が出るようになってるのか。火力の調節も……しっかりとできる。私がいた世界の物と何ら変わらないな。」

 コンロはこのまま使えそうだ。火力も申し分ない。流石は城の調理設備だな。
 さて、次は……鍋や包丁等の細かい調理器具の確認をしていこうか。
 そういうのはだいたいこの辺に……。

 コンロの真後ろに設置されていた盛り付け台についている扉を開けてみると、思った通り様々な形の鍋が出てきた。

「手入れはしっかりとしてあったみたいだ。錆び一つない。」

 城の外側の経年劣化の具合を見た限り、ここが使われなくなってかなりの時間が経っていると思ったが……鍋は一つ残らずピカピカの状態で残っていた。

 鍋を見れば料理人の心がわかる。これを使っていたこの城の料理人は真の料理人だったのだろう。

「ふっ……会ってみたいものだな。案外話が合うかもしれない。ついでにこの世界の料理文化についても聞いてみたい。」

 ま、仮にここにいた料理人が生きていれば……の話だがな。

「さて、包丁は……流石に無い……か?」

 厨房の戸棚を全て開けて回ったが包丁らしきものは一つも出てこない。流石に料理人の命とも言える包丁は残っていないようだ。
 さて困った。包丁が無いとなると……切りものが一切できなくなる。

「困ったな。どうするか……。」

 包丁という物がないことにほとほと困り果てていると、ピロン……という音ともに私の前に謎の文字が現れた。

「ん!?」

 驚きながらもその文字に目を向けると、そこには『インベントリにお探しのアイテムが入っています。』と書いてあった。

「インベントリ?」

 ふと疑問になりその言葉を復唱した時だった。突然私の前に奇妙な画面が現れた。そしてそこには私が探していたものが確かに入っているようだった。

「これもこの世界の……魔法かなにかなのか?だが、包丁があるのなら好都合だ。使わせてもらおう。」

 目の前に現れた画面に表示されているデフォルメされた包丁のアイコンを指で触れてみると、次の瞬間には私の手の中に使い慣れた私の包丁があった。
 初めて自分の金で買った牛刀だ。それもあってこいつには特別思い入れがある。

「やはり包丁は自分のものを使うに限る。この手にしっくりくる感じといい、自分で調節した切れ味。これに勝るものはない。」

 包丁を優しく台の上に置き、もう一度その画面に目を向けるとまだ中にはいろいろと入っているようだった。

 着替えの調理服に、用途別に分けられた数々の包丁。そして自分で購入した調理器具の数々……ホテルの経費で落としたものはどうやらカウントされていないらしい。だが、これだけあれば大抵のことはできる。

「よし調理器具は完璧だ。後は調味料か。」

 一通り探してみて台の戸棚などに調味料がないのは確認した。もし調味料があるとしたらおそらく……あの金属製の扉の中だろう。

「おそらくこの中が貯蔵庫……調味料がしまってあるとすればこの中だろう。」

 ひんやりと冷たい金属の取っ手に手をかけて扉を開くと、その中からさらに冷たい冷気が溢れてきた。

「やっぱりここが貯蔵庫……というか冷蔵庫で間違いないな。」

 奥の壁に青い石が埋め込んであるのを見るに、さっきのコンロと同じような感じなんだろう。

 異世界式の冷蔵庫の中を一通り見て回った結果、それこそ食べ物のような物は一つも残ってはいなかったが……その代わりに何やら香辛料のようなものと塩らしきものを見つけることができた。

「こっちは香辛料のようなものだとして……これは塩か?」

 革袋に入った、まるで塩のような真っ白な結晶を少し指先につけて味見してみると……

「うん、やっぱり塩だな。苦みが残ってないからしっかりにがりを抜いているんだな。」

 ちなみにあえてにがりというものを少し残すことによって、塩本来のまろみや風味などを損なわないようにされた塩が現代にはある。

「こっちの香辛料は……ふむ、ブラックペッパーのように刺激的で豊かな木の香り……」

 どこかブラックペッパーよりかも木の香りが強いな。だが肉などの臭み消しにはなりそうだ。味はどうだろう?

 革袋から一粒その香辛料を取り出し、口に含むとピリピリと刺激的な辛さが口いっぱいに広がった。

「ん~……予想はしていたが辛い。だが、辛さはさっぱりとすぐに消えるな。これなら料理にも使えそうだ。ミルに詰めておこう。」

 さっき使い方を覚えたインベントリから、過去に買ったブラックペッパーミルを取り出しその中にこの香辛料を詰める。これでいつでも使うことができるな。

「さて、一応おおかた確認するべきことは確認し終えたな。使える調味料は塩とブラックペッパーのような物のみ。設備は十分……これだけあれば申し分ない。後は私の腕が通用するかどうかだろう。」

 カミルが狩ってきたものを調理して、彼女の口に合うものを作れればこちらの世界でも料理の腕が通用する証明になる。
 もし口に合うものが作れなかったら……私の腕はそれまでだったということだ。到底この世界で生きていくことはできないだろう。

「残る問題はカミルが何を狩ってくるかだが……。」

 魔物がどんなものかはわからないが、肉か魚であることは間違いないだろう。
 カミルには城の外に出るなと言われていた。が、城の中ならば歩き回っても問題ないはずだ。

 中庭には草が生い茂っていたから……もしかすると食べられる何かがあるかもしれない。カミルが帰ってくるまでに少し探してみるか。もし食べられるものがあれば料理の幅が広がるだろう。

 善は急げということで私は、厨房を後にし城の中庭へと向かった。
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