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第三章 終焉を呼ぶ七大天使

第169話 お返し

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 そして夜も深まり……いつものようにルアがベッドに横になると、なぜか彼の隣に人の姿のままの東雲がいた。

「あ、あの……東雲さん?」

「なんだルアよ。」

「今日はなんでその姿なんですか?それと……今日はなんで隣に……。」

「くくくくく、昼間はお前に散々な目に逢わされたからな。そのお返しだ。」

 東雲はニヤリと笑うと、ルアの背中にきゅっ……と抱きついた。その瞬間、ルアの心臓の鼓動が少し早くなる。

「ん?心臓の鼓動が早くなったな。妾に後ろから抱きつかれて興奮しているのか?くくくくく……。」

「ち、違います!!は、恥ずかしいだけです……。」

「本当にそうか~?ならばこうして体を擦り付けられても……何も思わんな?」

 そう言うと、東雲はルアの背中に自分の体をスリスリと擦り付け始めた。彼女の胸の膨らみは小さいながらもしっかりと主張しており、ルアの体に柔らかく当たる。

 背中に当たる感触が何かを察したルアの顔はどんどん赤くなっていき、心臓の鼓動も一段と早くなっていく。

「くくくくく、また心臓の鼓動が早くなったな。胸は小さくともメスの体……柔らかく、温かいだろう?」

「~~~っ……。」

 クスクスと背後で笑う東雲……彼女の吐く熱い吐息が耳に当たる度にルアの体がビクンと震える。
 うぶなルアの反応に、東雲は満足そうに笑う。

「あ、あの……東雲さん……もうそろそろ…………。」

「ダメだ。まだ妾の気が済んでおらん。あれだけ妾を辱しめたのだ。それ相応の仕返しをせねばな。」

「あぅぅ……そんなぁ。」

「さて、それでは今からお前を……夢の世界に連れていってやろう。」

 クスリと妖艶に東雲は笑うと、突然ぎゅっとルアのことを強く抱きしめた。そして彼の耳元でポツリと囁く。

「幻術……まほろば。」

「えっ?」

 東雲がそう囁いた次の瞬間……その場の景色が一変し、体がまるで水面にぷかぷかと浮いているような不思議な感覚にルアは襲われた。

「えっ……えぇっ!?ここどこ!?ボク、浮いてる!?」

 周りを見渡すも、黒一色しかない世界。わかるのは自分が少し浮いている……ということぐらいだ。

 猛烈な不安感が襲って来ようとしていたとき、その空間に東雲の声が響いた。

「不思議な感覚だろう?」

「し、東雲さんっ!?ここはどこなんですか?」

「言っただろう?夢の世界へと連れていってやる……と。ここがその世界だ。」

「うぅ……どう見てもそんな風には見えないんですけど。暗いし……なんか体がふわふわしてるし……。」

「くくくくく、そんなに不安がらなくても大丈夫だ。夢ならば今から見せてやる。もっとも……お前にとって良い夢かはわからんがな。」

「そ、それってどういう……。」

 ルアが疑問に思う間もなく、先程まであったふわふわと浮いているような感覚が一瞬にして消え去り、ルアの体が闇の中へと落ちていく。

「わぁぁぁぁぁっ!?」

 落ちていく感覚に思わず悲鳴をあげ、ぎゅっと目をつぶったルアだったが、突然何か柔らかいものに受け止められた。

「わっ!?」

 そして今度ルアが落ちた先は、足場がとても柔らかく弾力のある不思議な場所だった。

「こ、今度はなに?とりあえず……地面みたいなのがあるけど。すごい柔らかい。」

 足元の地面をむにむにとルアが触っていると、後ろからくつくつと笑う声が聞こえた。

「くふふふふ……妾の腹に悪戯をするとは悪い子だな。ん?ルアよ。」

「ふぇっ!?」

 突然後ろから大音量で聞こえた東雲の声に、ルアは驚きビクンと震えた。恐る恐る後ろを振り返ると、その先には大きな東雲の顔があった。

「え、えぇっ!?東雲さん!?な、なんでそんなにおっきく……。」

「くくくくく、言っただろう?ここは夢の世界だ。この世界では妾の思うがままのことが実現する。例えば今のように……ルアの姿があり得んほど小さくなったりな。」

「そ、そんなこと……って、わぁ!?」

 ルアが呆気にとられていると、大きな東雲の手が伸びてきて彼のことをつまみあげ、顔の近くまで運ばれる。

「それにしてもずいぶんと可愛らしい姿になったな。元の姿も十分に愛らしいが……こうして掌の上にのせてみると、まるで人形のようだ。」

 小さくなったルアを掌の上に乗せると、東雲は悪戯っぽく笑う。

「くくくくく、さてルアよ。これからどうなると思う?」

「そ、そんなのわかんないですよ。それよりもとに戻してくださいっ!!」

「それはダメだ。まだ仕返しが終わっていないからな。」

 すると、東雲は口から真っ赤な舌をペロリと出し、その上にルアを乗せた。

「くくくくく、さぁ……た~んと味わってやるからな。」

「ちょ、ちょっと待っ…………。」

 その声が届くことはなく、ルアは東雲にぱっくりと食べられてしまった。
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