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第二章 呪われた運命

第151話 忍び寄るモノ

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 ルア以外の者達が天使と戦いを繰り広げている最中、心配そうに彼女達を見守っていたルアの背後に影が降りる。

「つ~かま~えたっ♪」

「んむぅっ!?」

 突如背後から手を回され、天使に拘束されてしまったルア。

「私達の目的はあくまでも君の捕獲だからね~。他の天使はみ~んなだったんだよ?クスクス……驚いた?」

「ん~っ!!ん~~~っ!!」

 なんとか声を出そうともがくルア。彼が口を開けると、天使の細い指が口の中へと潜り込み、舌を絡めとった。

「えぁぅ……。」

「ねぇ、どんな気分?みんなが必死に戦ってるのに……そんな努力はぜ~んぶ無駄なの。クスクス……滑稽だよねぇ?」

 ルアの背後でクスクスと笑いながら天使はルアの口の中を指で蹂躙する。舌を指で摘まんだり、軽くしごいたり……やりたい放題だ。

「あぅっ……ぅぅっ!!」

「あ~あ~、ダメだよそんなに暴れたら……間違ってその可愛い舌、引っこ抜いちゃうかもよ?」

「うぅ……。」

 天使の言葉に、背筋に冷たいものが走るのをルアは感じた。

「そうそう、君は大人しくそうしていれば良いの。私と一緒にここで仲間さんの活躍を見てよっか。クスクス、まぁ全部無駄なんだけどさ♪」

 そして天使の言いなりになるしかないルアは大人しく反撃の機会をうかがいながらも、他の仲間の活躍を見守り始める。

 そんな時、東雲達の戦闘が目に入った。

「お~、あの子達頑張るね。上位天使相手に力を使わせた。」

(力?それに上位天使って……。)

 ルアが心の中で疑問に思っていると、そんな彼の心を読んだように天使が口を開く。

「気になる?まぁ、これで最後になるだろうし君には特別に教えておこうか。上位天使は主神によって与えれられた各々の力があるの、あの子達が戦ってる天使が持っている力は自動修復オートリペアその名の通り無限に回復し続ける力だよ。」

(そ、そんなの……倒しようがないじゃん。)

「ちなみに私が授かった力は認識阻害リコンジャミング私が触れる、もしくは相手に触られない限り誰も私のことを認識することができない力だよ。クスクス凄いでしょ?この力があったから、君たちの仲間に気付かれず君を捕まえられたんだよ。」

 ペラペラと天使は自分の能力や、仲間の能力をルアに話してしまう。彼女からすれば、これからルアは連れ去られてしまう運命だから問題ないと判断したのだろう。

「おっと……そろそろ下位天使がやられちゃいそうだし、君のこと拐っちゃうね?」

 そして天使はルアの口から指を引き抜いた。
 その行為が悪手だったと後に彼女は思い知ることになる。

 自由になった口でルアは叫んだ。

「メタモルフォーゼっ!!」

「っ!?な、なにっ……キャアッ!?」

 ルアがそう叫んだ瞬間、天使は彼から弾き飛ばされる。そして眩い光がルアの体を包み込む。
 その光が弾けると、そこには漆黒のドレスに身を包んだルアが立っていた。

「レトさん……また力を借ります。」

「その服は……まさか、あの裏切り者のっ!!……クスクス、そっかぁ~君はあくまでも運命に歯向かうつもりなんだね?」

 天使はクスリと笑うと突然ルアの前から姿を消した。これが彼女の力……認識阻害リコンジャミング。先ほどその説明を聞いていたルアは、突然彼女が消えても驚いた表情は浮かべなかった。

(レトさんが前に教えてくれたことを思い出すんだ。)

 ルアは、初めてレトにメタモルフォーゼしたときのことを思い出す。あのミリアと戦ったあのときのことを……。

「魔力をドレスに……。」

 あの時と同じようにルアが魔力をドレスに流し込むと、再び心臓の鼓動のようなものが聞こえ、ドレスから無限に力が湧いてくるような感覚がルアを包む。

 そしてドレスから溢れだした力は黒いオーラとなってルアの周りを漂い始める。

「まだ……もっと!!」

 ルアは更に自分の魔力をドレスへと流し込む、すると……ドレスから聞こえてくる心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。まるでもう一つ心臓があるような不思議な感覚に陥った瞬間だった。
 突如ドレスから機械的な音声が流れた。

『一定量の魔力の蓄積を確認。自動操縦オートモードに切り換えます。』

「えっ?な、なに?」

 更に力を増幅させることができると思っていたルアは、予想とは違うドレスの反応に思わずすっとんきょうな声を上げてしまう。
 しかし、次の瞬間ドレスの効果をその体で思い知ることになる。

 ルアが驚いていると、突然彼の体が自分の意思とは関係なく動き、背後に向かって鋭い回し蹴りを放ったのだ。すると、ルアの踵に肉を打ったような感触が伝わってくる。

「ぎゃぅっ!?」

「え、えっ?」

 それと同時に先ほど自分を拘束していた天使が短い悲鳴を上げて突然現れた。

「ど、どういう……こと?私の姿は見えないはず。」

 流れる血を拭いながら天使が不思議がっていると、ドレスから再び声が響く。

『解析終了。認識阻害リコンジャミングに対応します。自動操縦オートモードは継続。』

「くっ……まさか私の姿が見えてるの?そんなはずはないっ!!」

 そして再び天使は姿を消すため力を使うが、ルアの目には先程とは違い、周りを絶え間なく移動する天使の姿が写っていた。
 そんなことに驚く暇はなく、再びドレスから声が聞こえてきた。

『周囲に多数の天使を確認。殲滅開始。』

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