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第二章 呪われた運命

第116話 逆転のメタモルフォーゼ

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 ボールを手にしたルアの姿を見て、東雲はピクリと眉を動かした。

「……ルアに託したか。気を付けろよ真琴。」

「う~ん、あて……ルア君の実力を知らんのやけど……どうなんどす?天使に勝ったってのは聞いたけど。」

「一言で言わせてもらうのなら、未知数だ。」

 そう言い切った東雲に、真琴は首をかしげながら問いかける。

「……つまり東雲はんもわからん……ってことどす?」

「そういうことだ。妾が唯一わかっていることと言えば、あいつはメタモルフォーゼ……という技を使い、魔物の力を自分に宿らせる。それぐらいだ。」

「ほぇ~、魔物の力を自分に……おもろい技やねぇ~。」

「お前には話していなかったが、ルアは一度妾の力を不完全ながらも宿らせたこともある。」

 そう語った東雲に、真琴は驚いた表情を浮かべた。

「東雲はんの力を!?」

「それこそ最近やってきた天使を倒したときに、ルアは妾の力を使ったのだ。」

「そういうことやったんや~。ようやく納得したわ、ず~っとルア君が天使倒しはったの疑問やったんどす。」

「故に、気を付けねばならん。何を使ってくるのか……予想不可能だからな。」

「あても東雲はんもきばらんといけん……ってことやねぇ。」

 そう真琴がポツリと呟いた瞬間。東雲と真琴の放つ雰囲気ががらりと変わり、一気に警戒モードへと移行した。

 もちろん二人の雰囲気の変化を由良達は敏感に気が付き、ルアが最も警戒されている……ということを肌で感じていた。

「うわ……東雲さん達ガチじゃないの?」

「それだけルアちゃんが警戒されてるんですね~。」

 チラリとクロロとエナの二人は後ろに立つルアに目を向けた。そこには、みんなから期待されている、そして東雲達に警戒されていることを感じてか、いつになく真剣な表情を浮かべているルアの姿があった。

「い、いきますっ!!」

 そう声をあげるとルアは、ボールを軽く上へと放り投げ、自分も跳んだ。
 そして、あの言葉を叫ぶ……。

「メタモルッ……フォーゼ!!」

 そう叫ぶと同時に、ルアの体が光に包まれる。そして次にルアが姿を現したとき、彼の姿に変化が起きていた。

 髪の色が綺麗なエメラルドグリーンに変わり、瞳の色が金色に染まっていた。

 彼のその姿を見て、東雲と真琴はある人物の姿が頭をよぎった。

「あの姿はっ……!!」

「それもありなんどすかぁ…………。かなんなぁ。」

 二人がルアの今の姿に重ねたのは、自分達に圧倒的な実力差を見せ付けたアルだった。

 そして姿を変えたルアは、ボールに手を打ち付けながらポツリと言った。

理を貫く矢ルナ・テミス

 アルの力を自分に宿らせ、打ったボールは真っ直ぐに東雲達のコートへと落ちていく。

 そのちょうど落下点に立った東雲は、くつくつと笑う。

「くくくくく……ルア。随分と粋なことをしてくれるではないか。よもや、こんな形で妾達に雪辱を果たす機会がやってくるとはな。」

 そして東雲は左手の人差し指と中指をピンと立て、口に当てると更に続けて言った。

「妾は敗けっぱなしというのが一番嫌いだ。だからを使わせてもらおう。」

 右手をピンと横に伸ばし、東雲は魔力を練り上げ、キッ……と迫ってくるボールを睨み付けた。

……。」

 東雲がそう口にした瞬間、以前アルのことを捕らえた四角い結界とは違う、歪な形の結界がボールを封じ込めた。

 この技は、以前アルに敗北を喫してしまった東雲が真琴とミリアと共に開発した特殊な結界。その名の通り、と戦うことを想定した技だ。

「さぁ、捕らえたぞ。神にすら妾は対抗してみせ…………。」

 ビキッ…………。 

「なにっ!?」

 氷にヒビが入るような鈍い音が響いたと思うと、東雲がボールを捕らえていた結界にヒビが入った。

「くっ……まさか、これでも足りんというのか!!」

「東雲はん、あても手伝う!!」

 魔力を込め続ける東雲に真琴が協力し、なんとか抑えようとするが、そんな二人の努力を無視するようにルアが放ったボールは結界を破壊しコートの中へと突き刺さった。

 二人は自分の後ろに突き刺さったボールに目を向けると、悔しそうに表情を歪めた。

「真琴の助力を得ても足らん……というのか?」

 茫然と見つめる東雲達に、コートの外から声がかけられた。

「当たり前でしょ?良くも悪くも神様ってのをちょっと舐めすぎじゃない?」

「「っ!!」」

 東雲と真琴が声のした方を振り返ると、そこにはバカンスを楽しみにやってきたと言わんばかりに、水着姿をしたアルが立っていた。
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