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第一章 転生そして成長

第81話 切り札

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 ルアがミリアの後ろについていく最中、ふとミリアが口を開いた。

「そういえば、私とロザリィはさっき君の仲間の人達から君が♂だ……って聞いたんだけどね。」

「は、はい。」

「そこでようやく納得がいったんだ。君の体から漂う美味しそうな香り……それは君が♂だったからなんだね。」

 歩きながらそう話すミリア。

「でもいけないなぁ。」

 クルリとルアの方を振り返ると、ミリアはルアの唇に細く白い指を当てた。

「さっきのロザリィみたいにこの国には発情期のサキュバスが山ほどいる。普通はこんな危ないところにまだ幼い君は来ちゃいけないんだぞ?」

「す、すみません。」

「あはは♪素直でよろしい。さ、着いたよここだ。」

 ニコリとミリアは笑うと、目の前にあった扉を開けた。すると、それと同時に扉から何かがルアへと向かって飛び出してきた。

「うむ、やはりここが落ち着くな。」

「し、東雲さん……。」

 扉を開けるなり飛び出してきたのは東雲だった。やはりルアの頭の上が居心地が良いらしい。

「妾だけではないぞ?」

 そう言って東雲が頭の上から前足で前方を指差すと、元気になったロレットと由良の姿があった。

「お母さんにロレットさん……よかったぁ。」

「心配をかけてしまったのぉ~。すまなかったのじゃ。」

「だが、この通り無事だ。」

 無事な姿の由良とロレットの姿を見てホッとルアは胸を撫で下ろす。

「さ、座りなよ。話の続きを始めよう。」

「あ、は、はいっ。」

 由良のとなりのベッドルアは腰かける。そして三人の前に向かい合うようにミリアは座ると、中断していた話を再開させた。

「さて、さっきの話の続きをしようか。」

「うむ、お主の噂話について聞かせてくれ。まずはこの国に襲いかかった天使の軍団を一人で殲滅した……というのは本当か?」

「本当だよ。あのときは色んなサキュバスとかから血を分けてもらってね、全力の力で相手をしたのさ。」

「だが、結局♂は連れ去られてしまったのだろう?」

「あぁ、最終的には名付きが来てね。最初の天使達で力を大分使ってた私では流石に相手にならなかったよ。」

「そういうことだったのか。」

 どうやら地上に伝わっていたミリアの噂話は本当だったらしい。この国に襲来した天使をほとんど倒したが、最終的には東雲と同じように名付きの天使に倒されてしまったらしい。

 だから♂が連れ去られてしまったようだ。

「実際に名付きの天使と戦ったからわかるけど、あれは仮に全力だったとしても勝てるかどうかわからないほど強いよ。」

「うむ、それは妾も同意見だ。」

 そう言ったミリアの言葉に東雲も頷いた。

「貴様とはまた違う名付きの天使と妾も戦ったが……全力を出しても勝てなかったからな。……というか貴様、名付きの天使に倒されたのだろう?ならばなぜ生きている?」

「あはは♪たまたま意識が途切れる直前に倒した天使の体を見つけてね。ギリギリ命を繋いだのさ。」

「そういうことだったか。吸血鬼とは便利な体をしているな。」

「これでも色々不便なんだよ?定期的に血を飲まないとすぐに体が干からびちゃうんだからね。そういう君はどうやって生き残ったんだい?」

「妾はこやつの見付け役として新たに命を賜ったに過ぎん。」

 東雲はルアの頭をポンポンと前足で優しく叩く。

「新たに命を賜った?ということは……君は一度死んでいるということかい?」

「そういうことだ。だが、こやつの面倒を見るように……と女神に再び命を授けられた。」

「へぇ……なるほどね。にわかには信じがたいけど、そういうパターンもあるんだ。それにしても女神……かぁ。そんな存在がいるなら天使達をこの世界に入れないようにしてほしかったけどね。」

「まぁそう女神のことを悪く言うな。この世界に天使が襲来してきたとき、女神は名付きの天使より強い存在と戦っていたらしいからな。」

 その東雲の言葉を聞いた瞬間に、由良やロレット、そしてミリアの表情が歪んだ。

「…………名付きよりも強い天使がいるのかい?」

「うむ。」

「普通の天使でも精一杯じゃというのに……そんなに強い存在が控えているとは…………。」

「なかなか絶望的な状況だな。」

 そう口々に由良達は言った。しかし、そんな中で東雲だけがニヤリと笑っていた。

「そういう状況を打破するためにこやつがいる。」

 東雲は再びルアの頭をポンポンと叩いた。

「お前達も実際にこやつのメタモルフォーゼを目にしただろう?あれは女神からの贈り物。故に無限の可能性がある。」

「へぇ……なるほどね。女神からの贈り物……か。それは期待してもいいかもしれないね。」

「うむ、だからルアよ。もしもの時は頼んだぞ?くくくくく……。」

「えぇぇぇぇぇっ!?」

 ルアの叫び声が対談室の中に響き渡ったのだった。
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