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第一章 転生そして成長

第38話 黒龍ルア

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 ロレットが飛びかかってくる直前に、彼女はそのゴツゴツとした尻尾で地面をバシンと強く叩いた。その瞬間、ルアの胸の中心がドクンと脈打ち全身を流れる血液が勢いよく流れ始めるのがわかった。
 そして視界が徐々に赤く染まっていく。そんな視界の中でロレットの姿だけがくっきりと映る。

 まるで戦えと体が催促しているように……

 そんなルアに向かってロレットは言った。

「やはり反応するか。体が熱くなってきただろう?これは我ら龍族の中での戦いの合図だからな。」

 自分の尻尾で地面をたたくというのは、ロレット達龍族の中では相手に対する威嚇行為……そして同時に決闘の合図でもある。

 そして再びロレットが地面を尻尾で叩くと、今度は勝手にルアの尻尾が動き地面を叩いた。それを見たロレットはにんまりと笑う。

「フフフッ、体が勝手に合意したな。さて、では行くぞっ!!」

 ロレットが剣を振りかざして、ルアとの間合いを一気に詰める。

「わわわっ!?ちょっとまっ……。」

 慌ててルアも剣を引き抜き応戦しようとしたが、その前に勝手に体が動きロレットの剣をあろうことか素手で受け止めて見せた。

「……っ!!どんな硬さをしてるんだその鱗はっ!?」

「ボクに聞かれてもわからないですよっ!!」

 素手で剣を受け止められたことにひどく動揺した様子のロレット、しかし次の瞬間には彼女の表情は歓喜に満ちた表情になっていた。

「面白い……面白いぞっ!!どこまで受け止められるか見せてもらおう!!」

 ロレットは握る剣にさらに力を籠める。するとルアの鱗と剣が擦れバチバチと火花が散り始めた。

「あわわわ……。」

「さぁ、反撃してこないのならこのまま押し潰してしまうぞ?」

 そのロレットの言葉に反抗するように、剣を受け止めているルアの手に更に力が入る。

「むっ!?力が……増した?」

 その次の瞬間……

 ビキッ!!

「なっ……我の剣にヒビが。」

 ビキビキと音を立ててルアの爪が、ロレットの剣にヒビを入れながらめり込んでいく。

「と、止まって、止まって!!」

 「止まって!!」とルアが叫ぶが、彼の手はその言葉を聞き入れず、どんどん力を入れていく。
 そしてヒビが全体に広がると、ロレットの剣が柄のみを残してバラバラになってしまう。

「……なんと、ミスリルの剣をこんなにもあっさり砕くか。」

 柄だけになってしまった剣を呆然と眺め、ポツリとこぼすロレット。

 ミスリルは、伝説の金属と言われるオリハルコンに次ぐ硬さを誇る金属で、ちょっとやそっとのことでは刃こぼれすら起こらないはずの金属だ。
 そんな金属で作られたロレットの剣をルアはいとも容易く砕いてしまった。

「むぅ……これでは戦えんな。悔しいが、我の敗けだ。」

「えっ……あっ!!」

 ロレットが悔しそうにしながらも敗けを認めると、ルアの姿が役目を終えたと言うようにもとに戻る。

「ふむ、実際に相対してみると凄まじい力だな。そのメタモルフォーゼとやらは。」

「そうじゃろう、そうじゃろう?」

 ルアのメタモルフォーゼの力を目の当たりにしたロレットに、誇らしそうにくつくつと笑いながら由良が歩み寄る。

「ずいぶん我が敗けたのが嬉しそうだな?」

「くくくっ、我が子の勝利を喜ばぬ母は居らぬじゃろう?」

「うむむ……そんなものなのか?」

「お主も子を育ててみればわかるのじゃ。」

 首をかしげるロレットにルアは歩みより、ペコリと頭を下げた。

「あ、あの……ご、ごめんなさいっ!!」

「お?突然謝ってどうしたのだ?」

「そ、その剣……………。」

 ルアはロレットが手にしていた剣だったものを指差した。すると、彼女はクスリと笑いながらルアの頭に手を置いた。

「フフフッ、なんだ剣を壊してしまったことを気にしていたのか?」

「は、はい……。」

「気にすることはない。剣などまた造れば良いのだ。形あるものはいつか壊れる……この剣はそれが今日だっただけだ。」

 ルアに非はないとなだめるロレット。

「それに、ブラックドラゴンの姿になった君を刺激したのは我だ。龍としての闘争本能を呼び覚ますために敢えて挑発したからな。」

 ペチペチと軽く地面をロレットは尻尾で叩く。

「だが、まさかミスリルの剣があんなにも簡単に砕かれるとは思ってもみなかったがな。次はオリハルコンの剣でも打ってもらおうか。」

 そう言ったロレットに、呆れたように由良が口を出す。

「ミスリルの次はオリハルコンか。単純な思考じゃのぉ~。」

「む、な、なんだその棘のある言い方は……。」

「お主はまだまだ地力に頼っているということじゃ。例えば、剣が壊れたとて……こうすれば使えるじゃろう?」

 由良はロレットから柄だけになった剣を奪い取ると、魔力だけで刃を作ってみせた。

「な、そんなこと由良は教えてくれなかったではないか!!それはどうやるのだ!?我に教えろっ!!」

「いやなのじゃ~、お主は物覚えが早すぎて面白くないからの~。」

 クスクスと由良は笑うと城の中へと走って行ってしまう。

「あっ!?ちょっと待て!!逃がさんぞ由良っ!!」

 逃げる由良の姿を追ってロレットも城の中へと駆け込んでいく。そんな彼女たちの後ろ姿をルアは苦笑いを浮かべながら見送った。

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