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第一章 転生そして成長

第31話 仙狐への階段

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「妾の名を妖狐のお前なら聞いたことがあるのではないか?」

 スタスタと二人に歩み寄りながら、東雲は由良に問いかける。しかし何の返答も、反応も見せないことにふと首をかしげた。

「おぉ!!すまんすまん、言霊で動きを縛っていたな。口は動かしていいぞ。」

 東雲がそう言うと、由良とロレットの二人は口からぷはっと息を吐き出し、問いかけに答え始めた。

「せ、仙狐の東雲じゃと!?わしが産まれる何十年も前に亡くなったのではないのか!?」

「やはり知っていたか。どうやら妾の名はしっかりと後世にも語り継がれているらしい。」

 由良が自分の名を知っていたことに、東雲はひどく気をよくした様子だ。
 そんな二人の会話を聞いていたロレットは、由良に問いかける。

「この者は何者なのだ?」

「仙狐の東雲……わしら妖狐の中で唯一仙狐の境地に辿り着いた御方じゃ。」

 由良の説明に東雲はピクリと反応を示す。

「ん?妾が……唯一?まさか、妾の跡に仙狐の位になった者はいないのか!?」

「お恥ずかしながら……その通りですじゃ。」

「なんと……なんとなんと、それは予想外だ。」

 東雲は由良の言葉にひどく驚いていたが……それと同時にひどく喜んでいるようだった。
 そしてにんまりと口角を歪めた東雲は由良のことを指差して言った。

「では、次は由良……お前が仙狐になれ。妾が力を貸してやる。」

「な、なんですと!?」

「この者を守る力が欲しいのだろう?」

 思わず驚いた由良に、東雲はポン……と自分の胸に手を置いてみせた。

「う……そ、それは…………。」

「確かに今のお前は、妖狐にしては魔法に長けている。だが、その魔力量では天使相手に対抗できないのは……良く知っているのではないか?」

「………………。」

 痛いところを指摘され、由良はぐうの音もでない様子だ。そんな時、由良のとなりにいたロレットが声をあげる。

「おい、仙狐の東雲と言ったな。貴様、由良の何が分かる?」

「うん?何が言いたい?」

「由良ならば他人の手を借りずとも、貴様を超える仙狐とやらになれると言っている。」

「ほぉ?面白いことを言う。では、その根拠はどこにある?」

「ついさっき自分で言っていただろ、由良は妖狐にしては魔法に長けている……とな。」

 一瞬ポカン……とした表情を浮かべた東雲は、その後くつくつと笑い始めた。

「くっくっ……なるほど。確かに言った……だが、妖狐と仙狐の力は天と地ほど差があるのだ。魔法が少し使えるからと言ってなれるものではない。」

「貴様……我が友を侮辱するかっ!!」

「侮辱したとしたらどうする?妾の言霊に逆うことすらできぬ力量で……ん?」

 煽るように東雲はロレットの顔の前で笑う。

「くっ…………こんなものっ!!」

 必死に力を込めているが、ロレットは東雲の言霊を打ち破ることはできない。

「さぁどうした?破れんなぁ~……んん?」

「くぅっ……ぐぐぐぐっ!!!!」

 必死にロレットが力を込める隣で、突然……パン!!と風船が弾けるような音が鳴り響いた。

「くっくっ、そっちは自力で抜け出したか。」

「ふ~っ……ふ~っ!!」

 東雲が由良の方に視線を向けると、尻尾を6本まで増やし、目から理性の色が消えかかっている由良の姿があった。

「ふむ、理性を保てる限界は6本まで……か。(よくぞまぁ、一人身でそこまで辿り着いたものだ。)」

 東雲は感心しながら、体を由良の方へと向ける。

「お、おいっ!!何をするつもりだ!!」

「この妖狐が、仙狐になるか……獣になるか見極める。上手く行けば妾には及ばずとも仙狐の域に足を踏み入れられる……が、失敗すれば二度と理性が戻らん獣に成り果てるだろう。」

「なっ……そんな危険な事今すぐ止め…………。」

。友ならば友として、結末を大人しくそこで見届けていろ。」

 言霊でロレットの口を閉じると、東雲は由良へと向かって言った。

「由良よ、一つだけ助言をくれてやる。怖じ気づくな。恐れは心に隙をうむ……心に隙があれば?」

 東雲の言葉に由良は息を荒くしながらも、コクリと頷いた。そして、身の内に秘めている魔力を全て解放し始めた。

「うぅ……ああぁぁぁぁッ!!」

 魔力の解放に応じて由良の尻尾が一本……また一本と増え、9本になったとき、東雲は一気に由良の懐へと入り込んだ。
 そして由良のお腹に高純度の魔力を込めた右手を当てた。

「さぁ、戻ってこい。……噴っ!!」

 東雲は由良へと大量の魔力を流し込んだ。すると、暴れ狂っていた魔力の奔流がピタリと収まり、一瞬由良の瞳に理性の色が戻った。

「…………!!…………うっ。」

 理性の色が戻ったのも束の間、突如として由良の腰に生えていた9本の尻尾が1本に戻り、ぐったりと東雲にもたれ掛かった。

「ふぅ……まったく、想像以上に魔力を喰われた。とんだ大喰らいだな。」

 額から一筋汗を流し、呆れたように言い放った東雲。

 果たして由良が仙狐になることはできたのだろうか。
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