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プロローグ

第0話ー2部 目が覚めると……

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「う…んん。」

 縷亜るあがうつろな目を開けると…。

「あら?ようやくお目覚めね。」

「ふえっ!?あっ……えっ?」

 見知らぬ女性が妖艶な笑みを浮かべ、縷亜るあのことを膝枕していた。思わず飛び起きた縷亜るあは目をぱちくりとさせながらその女性から距離をとった。

「ぼ、ボク……さっきまで悟と一緒に…………あれ?そのあと……。」

 登校途中のことを思い出そうとするが、滑って転んだ後からの記憶がないことに気が付きうろたえる。そんな彼に、先ほどまで膝枕をしてくれていた女性が言った。

「記憶がない?まぁそれも当たり前よね。だってあなたはトラックに撥ねられて……。」

 にこやかに微笑みながら、あっさりと……にわかに信じられないようなことを口にする女性。その言葉に縷亜るあはひどく困惑する。

「えっ!?」

 状況が理解できず困惑する縷亜るあにその女性は続けて言った。

「よかったわね~。あ~んな自由もへったくれもない世界から解放されて。」

 ニコニコと微笑みながらそう言う女性に、縷亜るあは一緒にいた悟のことを問いかける。

「ぼ、ボクが死んだなら……悟は?悟はどうなっちゃったの!?」

「まぁまぁ落ち着きなさい?ボクと一緒にいた……その悟君?はちゃ~んと生きてるわよ。今は病院のベッドで寝てるわ。」

 その女性がパチンと指を鳴らすと、二人の足元に突然病院のベッドで横になっている悟の姿が映し出される。
 自分の親友が生きていることを知ってホッと案していたのも束の間、女性は更にもう一度指を鳴らした……すると。

「あ、あれ!?お母さんに……お父さん……あの奥の写真に写ってるのは…………ボクッ!?」

「そのとーり。これで少しは実感できたかしら?ボクちゃんが死んでしまったということを。」

 見慣れない仏壇の奥に飾られた自分の遺影の写真を見つめ、泣いている両親の姿を目にした縷亜るあは、いよいよ今の現状が夢ではなく現実であること。
 そして本当に自分は死んでしまったことを少しずつ実感し始めていた。

「じゃ……じゃあここは天国?なの?」

「う~ん天国とはまたちょっと違うわね。ここは言うなれば……魂の境界線。本来なら死んでしまった人間の魂っていうのは、天に昇って閻魔っていう罪を裁く神様のもとに送られるんだけど~……。」

 縷亜るあの方にゆっくりと歩み寄りながら、女性は今の縷亜るあが置かれている現状について説明し始めた。

「ボクちゃんは~とってもかわいいお顔だったから、このまま天に召されちゃったらもったいないと思って~私が魂だけを連れてきちゃった。」

「え……じゃ、じゃあボクはこれからどうなっちゃうの!?」

 自分が天国にも地獄にも行けていないことを知り、これからどうなるのか不安で仕方がない縷亜るあ

「安心して?言ったでしょ?このまま天に召されちゃうのはもったいな~いって……ねっ?」

 その場に座り込んでいる縷亜るあにしゃがんで目線を合わせ、安心するように促す女性。

「今からボクちゃんには二つの選択肢をあげる。……このまま私の手元を離れて閻魔のもとへ行くか~、はたまた私が管理する世界に新しい生を受けるか……。」

 女性は縷亜るあに二つの選択肢を与えた。一つはこのまま天に召されるか、もう一つは別の世界……彼女が管理しているという世界に新たに生を受けるか。というものだった。

 それを聞いた縷亜るあは、もしかしてと思いその女性に問いかける。

「ふ、二つ目の選択肢って、もしかして異世界転生ってやつですか!?」

「あら、物分かりがいいわね。つまりはそういうことよ。」

 女性の口から望んでいた答えが聞けた縷亜るあは、迷いなく二つ目の選択肢を自ら望んだ。

「二つ目の選択肢でお願いしますっ!!」

「ふふっ、そう言ってくれて嬉しいわ。お姉さん、ご褒美上げちゃう。」

 縷亜るあが望んだ選択が、自身も望んでいた選択であることに気を良くした彼女は、と言って縷亜るあの頭に手を触れた。

 すると、彼女の手を伝い暖かい何かが自分に流れ込んでくるのを縷亜るあは感じ取った。

「ご褒美って……。」

「うふふ、ボクちゃんが私の世界で楽しく暮らせるようにおまじないをかけてあげたわ。どんな効果かはあっちに行ってから体感しなさい?その方が楽しみがあっていいでしょ?」

 彼女がそういたずらに微笑むと同時に、縷亜るあはだんだん自分の体が透けていっているのに気が付いた。

「ぼ、ボクの体が……。」

「安心して?次に気がついたら……第二の楽しい、楽しい人生がボクちゃんを待ってるわ。」

 どんどん体が透けていく中、縷亜るあは最後に女性に向かって問いかけた。

「あ、あのっ!!あなたの名前……。」

「あぁ、そういえば説明に気が行ってて忘れてたわね。ふふっ、私はレト……神界を追い出された野良女神よ。」

 縷亜るあは最後にレト……という彼女の名前を耳にした瞬間、視界がまばゆい光で埋め尽くされ、意識がふわりと浮かんでいくような感覚に襲われた。

 こうして彼の魂は、レトという女神によって現世から、別の世界にしたのだった。
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