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第10章 三つ巴
第351話 酒宴は突然に
しおりを挟む酒場の厨房にてナナシの要望に応えてクラーケンの解体をして調理に入ろうとすると、そこへお酒を片手にリルが現れた。
「やぁやぁ、調子はどうかな?」
「む、真昼間から酒を嗜むとはなかなか良い身分だな?」
「んふふ~、今日は仕事が思ったよりも少なかったからね~。一日の仕事を終えた自分へのご褒美さ。あ、これナナシちゃんの報酬ね。素材分の追加報酬がないから、素の報酬金だけになっちゃったけど。」
「いただこう。」
ナナシはリルから報酬金の入った袋を受け取ると、おもむろに中に入っているお金の数を数え始めた。
「金貨50枚……。主、家賃はいくらだったか?」
「家賃は金貨8枚だ。」
「ふむ、ならばしばらくは安泰といったところか。これは後でジャックに渡すとしよう。」
ナナシがパチンと指をはじくと、彼女が持っていた袋はシュンと消えてしまう。
「それで~?クラーケンは美味しくできた?」
「今主が解体を終えて料理に取り掛かっているところだ。」
ちょうど俺が一つ料理を完成させ、二人のもとに運ぶ。
「良かったらリルさんも食べますか?」
「あはっ♪いただこうかな~。」
「お、これは……我が再現に失敗したイカ焼きだな。」
「まぁ丸々一匹ってのは無理な話だから、切り分けた分厚い身を串にさして調味液をつけながら焼いたんだ。」
「ふむ、これは酒に合いそうだ。」
「じゃあ一緒に飲むかい?」
「そうさせてもらおうか。主、これには何の酒が合うのだ?」
「まぁ無難にこういうエールみたいな酒とかもいいし、穀物とかを発酵させて作った酒もいいぞ。」
「ふむ、主よ。我はな、主の隠しているこれが気になっているのだ。」
「なっ!?あ、おい!!」
ナナシは悪い笑みを浮かべながら俺の腰に抱き着くと、腰に下げていた収納袋の中に手を突っ込んできた。
そしてその中から俺が隠していた、ある酒を引っ張り出したのだ。
「くくく、あったあった。これだ。」
ナナシが取り出したのは、この前彼女と日本に行った際に俺が買っていた日本酒だった。あとで一人で楽しもうと思ってとっていたのだが、ナナシはそれを覚えていたらしい。
「主よ、あっちの飯にはあっちの酒が一番合う。違うか?」
「はぁ、まぁあながち間違いじゃない。」
「そうだよなぁ、くくく楽しみだ。」
そしてナナシが手にしていた日本酒を見て酒豪リルが目を細める。
「そのお酒……見たことないお酒だね。どこのお酒?」
「とある国の銘酒だ。主が一人で楽しもうとしていたぐらいだからな、さぞかしうまい酒だと思うぞ?」
「へぇ~、それはなおさら気になるね。」
「くくく、飲むか?」
「えへへ~いいの~?」
「無論だ。」
「ありがと~♪」
俺を差し置いてリルとナナシはお猪口に酒を注ぎ酒盛りを始めてしまった。こうなってしまってはもう止められない。
残念だが、あの日本酒はまた後で買いに行こう。今度は一人で……。クラーケンを調理し終えてそんなことを思っているとナナシにこっちにこいと呼ばれた。
「主、飯を作り終えたのなら早くこっちにきたらどうだ?酒は大人数で楽しんだほうがうまくなるぞ?」
「はぁ、もうこうなったら楽しんだもん勝ちだな。」
そう割り切った俺は二人の間に座る。するとナナシが俺の分のお猪口にとくとくと日本酒を注いできた。
「ありがとさん。」
「良いのだ良いのだ。主がいなければこの酒宴は開かれなかったのだからな。さぁともに存分に飲み明かそうではないか。」
リルとナナシの二人はとんでもない酒豪だった。それに加えてナナシは元が龍ということもありかなりの大喰らい。自分の体よりもはるかに大きなクラーケンがみるみるうちの腹の中に収まっていった。
二人はクラーケンという酒の肴が無くなると酒場にあるつまみを引っ張ってきてはお酒を楽しんでいた。さすがに二人についていけなかった俺は途中で抜け出すと、いつものように買い出しをしたり、カーラに作ってもらった服を受けとったりして一日を過ごした。
ちなみにちゃんと調理したクラーケンは甘みもあってサクサクとした歯ごたえでとても美味だった。
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