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第10章 三つ巴

第349話 騒がしくなる日常

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 ナナシが魔王城の住人として加わった浴室の朝……。体にズシっと重みを感じ、俺は目を覚ました。すると目の前には悪戯な笑みを浮かべ、何を思ったのかナイン達が着ているメイド服を着こなしたナナシが腹の上に居座っていた。

「おはようございますだぞ?主~。……いや、この場合はと言った方が良いのか?」

「なんの真似だ?」

「主の国の文化のメイドというやつを真似てみたのだが……お気に召さなかったか?」

「生憎俺はそういう趣味はないもんでな。」

「むぅ、ますます釣れんな。」

「それと、そのメイド服どっから持ってきた?ナナシのじゃないだろ?」

 ナナシはメイドとしてこの城に住むことになったのではない。ラピスと同じ、自分で家賃を稼ぐという契約でここに住むことになったのだ。だからメイド服は支給されていないはず……。

「これか?ソニアの物をちと拝借したのだ。」

「はぁ、ちゃんと返しておくんだぞ?」

「うむ、もちろんだ。」

 一つ頷き、少し残念そうにナナシは俺の体から飛び降りた。

「さて、今日はこれからどうしようか……ギルドとやらに行って日銭を稼ぐもよし、魔王の小娘を鍛えてやってもよいな。こうも肉体があるとやることが多くて困る。主の中におった時は特にやることもなかったのだが。」

「それも承知で復活を願ったんだろ?」

「まぁな。では今日もうまい飯を期待しているぞ主。我は一足先に行って待っているからな。」

「はいはい。」

 なんだかんだ言いながらも楽しそうにしながらナナシは部屋を出て行った。

「あとでリルさんにナナシのことを伝えておかないとな。」

 彼女は以前俺が変わってしまった姿そのものだからな。勘違いされては困るし、ナナシがどんな人物かということも少し伝えておかないといけない。まぁ大丈夫だとは思うが一応……な。









 朝食を終えた後、俺はナナシのお供でギルドへと赴くことにした。その道中、ある人物と出くわすことになる。

「ん?んん!?」

「あらあら……。」

 ギルドへと向かう道中で出くわしたのはクリスタとトウカの二人組だった。トウカはナナシの姿を見つけるなり彼女へと駆け寄った。

「カオル、カオルじゃないか!!」

「む、お前は……。」

 そうだった、トウカは元の姿の俺を知らない。だから今のナナシを俺だと思い込んでしまっているのだ。そんなことを分かってかナナシは俺のほうを一度見てニヤリと笑うとトウカに語り掛けた。
 
「ダークエルフの小娘よ、どうやらお前は盛大な人違いをしているようだ。」

「え?か、カオル?なんか前と話し方が……。」

「お前の探している人物はこっちだぞ?」

「あ、お、おい!!」

 ガシッとナナシに掴まれたかと思えば、俺はトウカの目の前に引っ張り出された。そんなナナシの言葉を信じられないかのようにトウカは言う。

「み、見間違うものか!!ウチが知ってるカオルは……お、男じゃ…………。」

「トウカ、少し落ち着いてください?事は少し複雑なのです、ちょうどそこに喫茶店がありますからそこでお話ししましょうか。カオル、あなた方もそれでいいですよね?」

「は、はい。」

 そして事情を説明するために近くの喫茶店に入ると、クリスタがトウカに事の顛末を話し始めた。すべての事情を聴き終えたトウカはがっくりと肩を落としながら呟いた。

「そ、そんな時期にウチはカオルに助けられてたってわけ……。」

「フフフフ、そんなにがっかりしなくいてもいいじゃないですか。あなたの性癖が歪む前にこうして真実を知ることができたのですから。」

「なんかめっちゃ複雑。嬉しいような嬉しくないような……。」

 トウカは飲み物を口に含みながらちらりと俺のほうを見つめてくる。そして絞り出すように問いかけてきた。

「か、カオル……なんだよな?」

「あぁ。」

 彼女の問いかけに頷くと、少しもじもじし、赤面しながら彼女はあることを申し出てきた。

「……確かめたいから、その……一瞬匂いを嗅がせてくれないか?」

「へ?」

「そ、その……恥ずかしいお願いなのはわかってる。でも覚えてるんだ、あの時ウチを守ってくれたカオルの匂いは。だから……その。」

 顔を真っ赤にしながらそう申し出てきたトウカの横でにこやかにほほ笑むクリスタは、やらせてあげてと言わんばかりの表情だ。

 勇気を出して言ってくれたし、これで確証が得られるっていうのなら安いもの……なのかな。

 そして俺はスッと彼女に服の袖を差し出した。

「まぁ袖でいいなら……。」

「だ、大丈夫だ。」

 トウカは優しく俺のそれを掴み鼻を近づけるとクンクンと匂いを確かめ始めた。

「この匂い……間違いない。本当にカオルなんだ……。」

「わかってくれたか。」

「うん、ありがと。」

 踏ん切りのついた表情で俺の袖を手放した彼女は、未だ顔を赤くしながらも飲み物を口に含む。そんな彼女にクリスタはにこやかにほほ笑みながら問いかけた。

「満足しましたか?」

「うん。でも今めちゃめちゃ恥ずかしい。」

「フフ、良いではないですか。しっかりと真実を確かめることができたのですから。」

「ん……。」

 恥ずかしそうにしている彼女をやさしく眺めたクリスタはこちらへと視線を向けてくると言った。

「さて、わたくし達は少々ここでお茶を楽しみますが、カオルあなたはどうしますか?」

「俺はちょっとギルドに用事があるので、一回ここで失礼します。」

「それではまた……。」

 クリスタたちに見送られながら俺とナナシは喫茶店を後にするのだった。
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