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第10章 三つ巴
第345話 二度目の登頂
しおりを挟むギルドでリルに夢羊の居場所とレッドワイバーンの居場所を聞いた俺は早速、その生息地へと向かったのだが、意外にもそこは来たことのある場所だった。
「懐かしいなノーザンマウント。」
俺が今いる場所はアルマ様のお願いでノーザンイーグルを倒しに来た、あのノーザンマウントだ。夢羊はどうやらこの場所に出現するらしい。
「にしても前来たときはめちゃくちゃ寒かったのに今はなんてことないな。」
そんなに厚着をしているわけでもないのに猛吹雪の吹いているこの場所に立っていても寒さを感じない。その感覚を不思議に感じていると、ナナシが俺の体から飛び出してきた。
「当然だぞ主、龍となった主の肉体は超高熱、超低温にも耐えうる体だ。この程度の寒さなんぞに震える貧弱な肉体ではない。」
「ご丁寧な解説どうも。」
「さて、目的は夢羊だったか?」
「あぁ夢羊って魔物の毛皮が必要らしい。」
「ぐるぐる回って探すのは面倒だ、この山一帯に魔力を巡らせて索敵でもしてみたらどうだ?」
「そんなことして魔力足りるのか?」
「何も問題ない。主の称号の魔力回復の力と龍本来の魔力吸収の力、その二つがかみ合えば即時回復する。」
「じゃあやってみるか。」
俺は人化を解いて龍の姿へと姿を変えると、有り余る魔力を放出した。すると流した魔力に魔物が触れるとその魔物の姿形が頭の中に流れ込んできた。
(これはノーザンイーグルで、あっちはノーザンバッファロー。で……あそこにいるのは羊?)
見えた魔物の姿は純白でもこもこの毛皮にくるまった羊のような魔物だった。多分あれだ。
魔力の放出をやめると、頭の中に声が響いてくる。
『魔力索敵のスキルを新たに獲得しました。』
「ん!!新しいスキルゲット。魔力索敵か……これはいろいろと使えそうだ。」
新たなスキルに可能性を感じながらも、俺はさっき夢羊らしき魔物が見えた場所へと猛ダッシュで向かう。すると目の前にもこもこの羊が見えてきた。
「ちょっと毛皮をもらうぞ。」
腰からアーティファクトを抜くと、あるイメージを持ちながら横に一閃する。すると羊の毛皮だけがきれいに剝ぎ取られ、雪の上に落ちた。
毛皮のみを剥ぎ取られたその羊はどこかへと逃げて行ってしまう。
「よし、うまいこといけたな。」
雪に落ちたその毛皮を拾い上げると、俺は収納袋へと仕舞った。
「山全体を見渡したけど、羊みたいなのはさっきのやつだけだったし、あれが夢羊で間違いないだろ。」
リル曰く、臆病で生息数の少ない魔物だって聞いてたから出会えるか不安だったが、魔力索敵で解決できたな。
「さて、次は……向こうだな。ラピスと五老龍達に会ったあの山にレッドワイバーンがいる。」
そして背中の翼で飛び上がろうとすると、ナナシに声をかけられた。
「主よ、そろそろ移動魔法を覚えたらどうだ?」
「そう言われても、どうやって覚えるのかもわかんないぞ?」
「くくく、主はまだ自分の体のことを知らなすぎるな。」
くつくつと笑うとナナシは俺の胸をツンと人指し指でつついた。
「この肉体は龍の王として完成された理想の肉体だ。主がふと思い浮かべた思想が現実となる。そんな現実離れしたことをも可能にして見せる肉体なのだ。」
そう言って少し俺から離れると、彼女はこちらに向かって言った。
「脳で我の場所へとそこから移動することを想像しながら魔力を放出してみるのだ。」
「わかったよ。」
言われたとおりにイメージしてみると……足元に魔法陣が浮かび上がる。その次の瞬間だった。
「あ?」
「うむ、できたようだな。」
魔法陣が一瞬光ると同時に俺はナナシの眼の前へと転移していた。それと同時にまたしても声が響いてくる。
『移動魔法のスキルを新たに獲得しました。』
「おぉ、ホントにできた。」
「今の主に不可能などほぼ無い。」
「そこはほぼなのかい……。」
「どんな者でも不可能はある。全てを可能にできる存在を一つ上げるとすれば世界の神ぐらいなものだろう。」
ナナシのその言葉を聞いて俺は一つ前から疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「そういえば、この世界に来てから神って存在を聞かないけど、宗教とかそういうのは無いのか?」
「あるにはあるのではないか?まぁ神という偶像を信じている者の気は我はわからん。」
「そっか。」
まぁ俺自身そういうのは信じていなかった。あっちの世界ではな。だが、あちらの世界にないものがあるこの世界ならば……神という存在も本当に存在しているのではないだろうか?
そんな想像を膨らませながらも、俺は取得した移動魔法でレッドワイバーンがいるというあの場所へと向かうのだった。
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