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第10章 三つ巴
第344話 真意と誓約
しおりを挟む俺の人化が解けると同時にユアーダはローブから僅かに見える目の横から冷や汗を流す。
「カーラ、お前なんつぅバケモン連れてきたぁ?」
「こうさせたのはアンタじゃないかい?自業自得ってやつだミアーダ。」
内側から沸き上がる理性をも吹き飛ばしそうなほどの怒りの奔流を何とか抑えながら、俺はミアーダへと視線を向ける。
「今すぐここで誓ってもらうぞ、もう自分の配下に他人を傷つけさせないとな。」
「わ~った、わかったからそのとんでもねぇ魔力を収めてくれよ。この魔水晶がぶっ壊れちまう。」
「本当だな?」
「あぁ、約束する。自己防衛以外で他人を襲わせなきゃいいんだろ?」
「…………。」
今読心術で心の中を読んでみたが、ユアーダの心の中は今この洞窟の奥にある自分のアーティファクト保管庫のことでいっぱいだ。だが、今の言葉は嘘ではないらしい。
「もし、また今回みたいなことが起こったら……今度は必ず責任を取ってもらう。いいな?」
「あぁ。」
言質を取ったところで俺はあふれる力を体内に押し戻し、スキルの人化を使う。すると赤く輝いていた水晶が元の青色へと戻ってゆく。
「まったくとんでもねぇトラの尻尾を踏んじまったもんだぜ。」
「ま、今後自分の手下の管理には気を付けるんだねぇ。アタシから言えるのはそれだけさ。下手したら魔王様よりも怖いかもしれないからねぇ……。」
「肝に銘じておくぜ。」
「それじゃあカオル、もう十分かい?」
「はい。」
カーラの問いかけに頷くと彼女はここに来た時と同様に再び杖で地面をたたき、移動魔法を発動させた。その次の瞬間には俺たちはカーラの家へと戻ってきていた。
「ユアーダのあんなにビビってる顔は初めて見たよ。魔水晶が赤く輝いてるのもね。ちょっと顔を見ない間に随分魔力が上がったみたいだねぇカオル。」
「いろいろあったんですよ。でもユアーダの口からちゃんとあの言葉が聞けて良かったです。」
「頑なに謝罪はしなかったけどね。まぁアイツは昔からあんなやつなんだ。でも誓った約束は守るやつだよ。」
ユアーダとの付き合いはカーラのほうが圧倒的に長い彼女がそう言うのであれば問題はないだろう。
「にしても、カオル。その……体を変化させるときに服がボロボロになってるけど、それ毎回買いなおしてるのかい?」
「あ……。」
いつもなんだよなぁ。龍の姿になると背中から翼が生えるわ腰からは尻尾が生えるわで服がボロボロになるんだ。
「まぁそうですね。」
「せっかくだし、アタシが破れない服でも作ろうか?」
「え、そんなのも作れるんですか?」
「あったりまえさ。とはいっても素材が必要なんだけど。」
「その素材を俺がとってくればいいってことですね?」
「話が速いねそういうことさ。必要なのは夢羊の毛皮とレッドワイバーンの翼膜って感じかねぇ。リルに聞けば生息地が分かると思うよ。」
「わかりました。」
せっかく作ってもらえるのなら是非とも作ってもらおう。素材を取ってくるぐらいでこの体の変化に耐えられる服が手に入るのなら、安いものだ。
「それじゃあ早速行ってきます。」
そして彼女の家を出ようとしたときだった。
「ちょっと待ちなよ。まだやらなきゃいけないことが残ってる。」
「へ?」
そう言って俺のことを呼び止めるとカーラはなにやら採寸用の道具を色々と持ち出してきた。
「服を作るには、体の採寸が必要なんだ。測らせてもらうよ?」
「あ、わかりました。」
そしてカーラは俺の体の色々な箇所の採寸を測っていく。ある程度この体の採寸が終わると、今度は先程の龍の状態の採寸もとると言い始めた。
「それじゃあ最後にさっきみたいに体を変化させてみてくれないかい?そっちの方の採寸も必要なんだ。」
言われるがまま、俺はまた人化を解除する。
「人化……解除。」
すると、全身があっという間に龍の姿へと戻っていく。そんな俺の体を興味深そうにカーラは見つめていた。
「さっきはあんまり見れなかったけど、改めてこうして間近で見てみると……凄いねぇ。鱗の一枚一枚にとんでもない魔力が含まれてる。並大抵の魔法なんかじゃ傷一つつかないだろうね。」
そう俺の体を観察した後、彼女は背後に回り翼の直径や幅なども詳しく測り、最後に尻尾の付け根に取り掛かろうとした時だった。
「ん?この鱗……。」
「どうかしましたか?」
「いや、一枚だけ逆さまに生えてる鱗が尻尾の裏側にあるんだ。いわゆる逆鱗ってやつなのかねぇ、これも初めて見た。長生きしてても見たことないものてのはたくさんあるもんだねぇ。」
尻尾の裏側にそんなものまであるのか、それは知らなかった。普段見ることもないからな。
そして入念な採寸を終えた後、俺は彼女の家を後にしてギルドへと向かうのだった。
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