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第10章 三つ巴
第336話 至福の時間と稽古の時間
しおりを挟む二人のもとへと料理を運んでいると、こちらに気が付いたアルマ様が俺の持っている料理を見て目を輝かせた。
「あ!!ハンバーグ!!」
「はんばーぐ?」
熱された鉄板の上でジュウジュウと音を立てるデミグラスソースをかけたハンバーグ。アルマ様の大好物の一つだ。一方のアリスはそもそもこの料理のことを知らないのか目の前に置かれても不思議そうに眺めていた。
「これは……肉の塊?それを焼いたのかな?」
「ただの肉の塊ではないですよ。ひとまず食べてみてください。おかわりはまだありますから、足りなかったら声をかけてください。」
「ん、わかった。」
「やったー!いただきまーす!!」
誰よりも先に熱々のハンバーグにナイフを入れて切り分け、それを食べるアルマ様。さすがに熱かったらしくハフハフしながら食べている。だが、ある程度熱が落ち着くと、嚙んだと同時にジュワっと染み出してくる肉汁に舌鼓を打っていた。
それに合わせてライスをかき込んでいくアルマ様の姿を眺めて、ポカンとしながらアリスはつぶやく。
「すんごいおいしそうに食べるね?」
「んっぐん!!ぷはっ、だっておいしいんだもん!!」
「ふーん……。」
アリスも手元に配置されたフォークとナイフを手に取ると、ハンバーグを切り始めた。
「わ!!すご……切った瞬間から汁が溢れ出てくる。」
そして熱々のそれに軽く息を吹きかけて彼女はそっと口へと運んだ。
「あふっ!!……ん、んん。」
最初は口に入れた瞬間、アルマ様と同じくハフハフとしながら食べていたが、やがてうっとりとした表情に移り変わり始めた。
「これ美味いっ!!肉なのに柔らかいし、不思議!!」
取り憑かれたようにガツガツとハンバーグを食べ始めたアリスだが、ふとその横にあるライスに目がいった。
目の前を見ればアルマ様がハンバーグと一緒にライスを食べているのが見える。
それを真似して彼女もハンバーグを食べたあとにライスを口に運んで食べてみた。すると、カッと目を見開き上を見上げながら叫ぶ。
「うまぁぁぁぁい!!」
そしてタガが外れたようにハンバーグを食べ、ライスを食べを繰り返すと空になった食器を俺へと向かって差し出してきた。
「おかわりちょうだい?あるんだよね?」
「ありますよ。」
「アルマも食べる!!」
「わかりました。少し待っててくださいね。」
その後何度かのおかわりを繰り返した後、お腹が膨れた二人は満足そうに一つ息を吐いた。
「ぷふぅ……いやぁ、美味しかった~。ここに何百年といるけど、久しぶりに食事の楽しさってやつを思い出したよ。」
「なら良かったです。」
「さてっと、お腹も膨れたことだし。そろそろ動けるよね?」
「バッチリ!!」
先程戻ってきたときとは打って変わって元気よくアルマ様は答えた。
「うん、じゃあ場所を変えようか。」
そしてまた場所を変えるべく彼女が指を鳴らそうとする直前、アリスは俺へと向かって言った。
「キミにも良い相手用意しといたからね。」
その言葉とともに指が鳴らされ、場所がまた切り替わる。俺の飛ばされた場所にはアルマ様たちの姿はなかった。
「くぁぁ……やっと来たか。」
その代わりに新たな守護者が待ち構えていた。その姿はアリスのような狐の獣人だ。しかし彼女とは違って尻尾が3本生えている。
「始めるぞ小僧。」
俺は例の木刀を手にすると、守護者へと向かって構える。そして意識を脚へと集中させた。
ナインに普段から教わっていた歩法をひたすらに早く、精確に、繰り返す。
すると、自分の目で見えるほど辺りに自分の残像が現れた。
「……時雨!!」
そして時雨を繰り出す……がそれと同時に辺りの残像が消え、俺の姿のみとなってしまう。
「チィッ、またか。」
時雨を試そうとするが、いつも必ず攻撃の瞬間残像が消えるのだ。
この状態から時雨を放つのは無理。だが、行動ができないわけではない。二人に食事を振る舞うまではここから避ける体勢に入っていたが……。
時雨を使おうとしていた体勢を無理矢理足で床を強く踏むことによって止める。
そして最短で相手に届く一直線の突きを繰り出した。
「喰らえ!!」
しかし、その突きは守護者の体に触れることはできなかった。
「クソ……。」
「まだまだ足運びが甘いな小僧。攻撃の瞬間に足が止まっているわ。」
そう言いながら、アッサリと自分の残像を生み出す守護者。
「だが、攻撃を続ける意志は良いぞ?悪くない。」
パッと残像が消えたかと思えば、頭に重みを感じる。
「何をしてっ…………!!」
「まぁそう動くな。少し基本を教えてやると言っているのだ。このまま残像を生み出してみるが良い。」
なんなんだコイツは……今までの守護者とは違う。戦う……よりも俺を小馬鹿にしてるのか、それとも本当に教えようとしてくれているのか…………わからない。
「ほれほれ、やらんのか?やらんのならば……首を落とすぞ?」
「~~~っ!!」
その言葉に込められた殺気は異常だった。
「わかった。やるよ。」
仕方なく俺はその守護者を頭の上に乗せたまま足捌きの練習をさせられる羽目になったのだった。
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