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第10章 三つ巴

第333話 アリスの用意した余興

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 木刀を手にしながらアルマ様はゆっくりとこちらに向かって歩いてくると、アリスに向かって言った。

「これでいいんでしょ?」

「うん、合格だね。できればもう少しゆっくり話をしたかったところだけど、約束は約束。」

 残っていたお茶を飲み干すと、アリスは傍らに置いていた剣を手にとって立ち上がる。

「さて、じゃあちょっと場所を移そうか。キミの稽古をするにはここは狭すぎる。」

 そしてアリスがトン……と剣の鞘を床につけると、アルマ様とアリスの姿が俺の前から消えてしまう。

 それと同時にヒラヒラと目の前に一枚の紙が落ちてきた。その紙にはこんな文章が書いてあった。

『この子の稽古をつけてる間、キミは暇だろうからね。ちょっとした余興を用意したよ。時雨の体得頑張ってね~。』

「ちょっとした余興?」

 そうポツリと呟いた瞬間、道場の真ん中に魔法陣が描かれ、そこから上半身は人間、下半身は馬の体をした神話に登場するような魔物が現れた。

「余興ってそういうことか。」

 アリスの意図を察した俺がアーティファクトを抜こうとすると、じっと座っていた牛の魔物がここに来て初めて動く。

「コレを使え。」

「ん?」

 そして俺に手渡してきたのはアルマ様にアリスが持たせた木刀と同じもの。

 それを受け取ると、木刀とは思えないほどのズッシリとした重量を感じた。
 こちらに木刀を渡すと牛の魔物は説明を始める。

「今からこのダンジョンに用意されている全ての階層の守護者が一体ずつ現れる。アリス様の剣術のみで倒せ。他の技や力、魔法に頼ろうとすればその木刀がお前を縛るだろう。」

「わかった。」

 そう説明を聞いた後に俺は改めて魔法陣から現れた魔物へと視線を向ける。
 すると、そのケンタウロスのような魔物は待ちわびていたかのように口を開く。

「うむ、強い力を感じる。流石にミノ、お前の観察眼は鈍っていないようだな。」

「フン……。」

「その態度も相変わらずだな。さて、人間よ始めるとしようか。」

 そしてケンタウロスの魔物は背中に携えていた槍を手にして戦闘態勢に入る。

「あぁ行くぞ!!」

 剣を構え、一気に間合いを詰めようと床を蹴るが、それに合わせてケンタウロスの長い槍が凄まじいスピードで繰り出される。

(陽炎。)

 その一撃を陽炎で躱し、ケンタウロスの背後をとった。しかし、それを読み切っていたかのように俺に向かって、繰り出されたのは馬の体による後ろ足の強烈な蹴り。
 それをも陽炎で躱し、今度は体の正面、槍の攻撃の範囲外の懐深いところに潜り込む。

「そこッ!!」

 そして無防備な腹部へと下段から切り上げる。完璧な一撃かと思われたそれだが、ケンタウロスの姿が空気に溶けるように一瞬で目の前から消えた。

「なっ!?」

「そんなに驚くことではないぞ人間。」

 見覚えのある消え方で目の前から消えたケンタウロスは俺の背後へと回り込んでいた。

「我ら階層の守護者はアリス様によって作られた存在である。故にアリス様の剣術を多少使えるのだ。」

「なるほどな。」

「無論階層が深くなるにつれて、守護者は強くなり、使用できるアリス様の剣術の幅も広くなる。ここで足止めされているようでは先が思いやられるぞ。」

 そう説明している間にも、俺の周りにいくつもケンタウロスの残像が現れる。

「時雨も使えるのか。まったく……その時点で俺よりも卓越してるじゃないか。」

「ふ……生憎アリス様のように手を抜いてはこの技は出せぬ。死なぬように避けて見せろ!!」

 そして放たれる時雨。見渡す限り全方位から放たれたその技……。一見避ける隙間もないように見えるがしかし、アリスが先程軽く放ってみせた時雨よりも

 俺は体勢を床スレスレまで低くすると、床に体をこすりつける勢いで一体の残像へと向かって飛んだ。
 その時、頬を軽く槍が掠めたが、致命傷は避けられた。

「コイツだ!!」

 残像のように見えるケンタウロスの体の下に潜り込み、今度は馬の体の腹部へと木刀を叩き込んだ。

 すると残像が消え、俺の前でケンタウロスは膝をつく。

「見事。その剣が真剣なら死んでいた。」

 少し膝を震わせながら立ち上がると、ケンタウロスの魔物の足元に魔法陣が現れた。

「これにて役目は終わりだ。次の守護者と闘うのだ。」

 その言葉を最後にケンタウロスの魔物は消えた。そしてまた新しい魔法陣が現れる。

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