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第9章 新たな生活
第322話 決着の行方
しおりを挟むカニバルは横でへたり込んでいたトウカに気が付くと、ニヤリと口角を歪に吊り上げる。
「今日はツイてねぇと思ったが……最高にツイてるじゃねぇか!!」
大口を開けてトウカへと迫るカニバル。そしてその牙がトウカへと届く刹那……。
「糧になれ神獣狩りィィィィッ!!」
「させるかッ!!」
二人の間になんとかアーティファクトで突きをねじ込む。その瞬間、鈍い痛みが腕に走った。
「ぐっ……。」
「カハハ、テメェならそう来ると思ってたぜ?その腕……貰ったァッ!!」
獲物に噛み付いたワニのように、体を回転させようとするカニバル。その回転運動に腕を持っていかれまいと、腕の龍化を強めていく。
すると、それに呼応するように全身の龍化もビキビキと音を立てて進んでいった。それと同時に、意識が徐々に何かによって書き換えられていく。
「……図に乗るなよ劣等種風情が。」
「ッ!!」
俺から意識を奪い取ったナナシが腕をカニバルごと地面に叩きつける。
これにはたまらず腕から離れたカニバルだったが、ヤツが噛み付いていたナナシの腕からはポタポタと血が垂れていた。
それを眺めたナナシはカニバルへと向かって、問いかける。
「龍の生き血は美味かったか?存分に味わっておくと良いぞ?それが貴様の最後の晩餐なのだからな。」
「ハッ、最後の晩餐は……テメェだよォッ!!」
そう言って飛びかかってくるカニバルだが、ナナシの目の前で突然軌道を変えると、再びトウカへと襲いかかる。
「だが、その前にこいつを前菜にィッ!!」
「させるわけがないだろう馬鹿め。」
ナナシの横を通り過ぎようとしたカニバルの尻尾を彼女は掴み、カニバルの体を地面に叩きつける。
「カハッ!!」
カニバルがひるんでいる間にナナシは一瞬でトウカへと近づくと彼女へと向かって右手を翳した。
「お前は少し隠れていろ。」
「あっ……。」
ナナシは彼女を移動魔法でどこかへと飛ばしてしまう。そして地面にめり込んでいるカニバルの腹を踏みつけた。
「ゴホッ!?」
「貴様はとことん屑な輩だな。だが、弱い得物を狙う弱肉強食のその精神……生存競争の理にはふさわしい。」
そう言ってナナシはカニバルを踏み続けながら両手の中心に炎と冷気の魔法を合わせた球を作り出す。
「貴様に物理攻撃が意味を成さないのは理解した。ならばこれは喰らえるか?」
そして凝縮され、青い雫のようになったそれをナナシはカニバルへと向かって落とした。その雫がカニバルの体に触れた瞬間……二人を中心に青い閃光が走り、大きな爆発が辺り一帯を巻き込み起こる。
周囲の地形を破壊しつくし、やっと収まったその爆心地の中心に立っていたナナシは虫の息のカニバルを見下ろした。
「まだ息があるか、そのタフさは大したものだ。だがもう動けまい。」
「ガ……ググ。」
黒い息を吐き出すカニバルを見下ろしながらナナシは意識をカオルへと切り替えた。
『主、後は任せる。』
そしてナナシから意識を戻された俺は、彼女の記憶を共有し現状を理解した。
「ナナシのやつ容赦ないな。」
ポツリとそう呟きながらも、俺はアーティファクトをカニバルの胸に突きつけた。
「あえてお前の言葉を借りようか、俺の糧になれカニバル。」
そしてカニバルの胸にアーティファクトを突き立てると、完全にカニバルの鼓動が消える。それと同時にアーティファクトを突き刺した胸の傷から神獣の持つ魔力の結晶が浮かび上がってくる。
「これがこいつの結晶か。」
これを取り込めば俺は元の体に戻れる……はずだ。
その結晶を収納袋にしまうと、俺は空間魔法で安全な場所に飛ばしていたトウカを呼び戻した。
「はっ!?ま、また戻って……ってカニバルは死んでるのか?」
「あぁ、倒した。」
「そ、そうか……。」
カニバルの死体を眺めた彼女はこちらに視線を移すとぺこりと頭を下げた。
「す、すまなかった。力になるどころか足を引っ張ってしまった。ウチのせいで怪我もさせて……。」
「問題ないさ。命があるだけいい。」
頭を下げていた彼女の頭にポンと手を置いてそう告げた俺は移動魔法を展開する。
「こんなところに長居は無用だ。今はひとまず帰ろう。」
そして彼女とともに俺はエルフの集落へと移動魔法で移動するのだった。
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