321 / 350
第9章 新たな生活
第322話 決着の行方
しおりを挟むカニバルは横でへたり込んでいたトウカに気が付くと、ニヤリと口角を歪に吊り上げる。
「今日はツイてねぇと思ったが……最高にツイてるじゃねぇか!!」
大口を開けてトウカへと迫るカニバル。そしてその牙がトウカへと届く刹那……。
「糧になれ神獣狩りィィィィッ!!」
「させるかッ!!」
二人の間になんとかアーティファクトで突きをねじ込む。その瞬間、鈍い痛みが腕に走った。
「ぐっ……。」
「カハハ、テメェならそう来ると思ってたぜ?その腕……貰ったァッ!!」
獲物に噛み付いたワニのように、体を回転させようとするカニバル。その回転運動に腕を持っていかれまいと、腕の龍化を強めていく。
すると、それに呼応するように全身の龍化もビキビキと音を立てて進んでいった。それと同時に、意識が徐々に何かによって書き換えられていく。
「……図に乗るなよ劣等種風情が。」
「ッ!!」
俺から意識を奪い取ったナナシが腕をカニバルごと地面に叩きつける。
これにはたまらず腕から離れたカニバルだったが、ヤツが噛み付いていたナナシの腕からはポタポタと血が垂れていた。
それを眺めたナナシはカニバルへと向かって、問いかける。
「龍の生き血は美味かったか?存分に味わっておくと良いぞ?それが貴様の最後の晩餐なのだからな。」
「ハッ、最後の晩餐は……テメェだよォッ!!」
そう言って飛びかかってくるカニバルだが、ナナシの目の前で突然軌道を変えると、再びトウカへと襲いかかる。
「だが、その前にこいつを前菜にィッ!!」
「させるわけがないだろう馬鹿め。」
ナナシの横を通り過ぎようとしたカニバルの尻尾を彼女は掴み、カニバルの体を地面に叩きつける。
「カハッ!!」
カニバルがひるんでいる間にナナシは一瞬でトウカへと近づくと彼女へと向かって右手を翳した。
「お前は少し隠れていろ。」
「あっ……。」
ナナシは彼女を移動魔法でどこかへと飛ばしてしまう。そして地面にめり込んでいるカニバルの腹を踏みつけた。
「ゴホッ!?」
「貴様はとことん屑な輩だな。だが、弱い得物を狙う弱肉強食のその精神……生存競争の理にはふさわしい。」
そう言ってナナシはカニバルを踏み続けながら両手の中心に炎と冷気の魔法を合わせた球を作り出す。
「貴様に物理攻撃が意味を成さないのは理解した。ならばこれは喰らえるか?」
そして凝縮され、青い雫のようになったそれをナナシはカニバルへと向かって落とした。その雫がカニバルの体に触れた瞬間……二人を中心に青い閃光が走り、大きな爆発が辺り一帯を巻き込み起こる。
周囲の地形を破壊しつくし、やっと収まったその爆心地の中心に立っていたナナシは虫の息のカニバルを見下ろした。
「まだ息があるか、そのタフさは大したものだ。だがもう動けまい。」
「ガ……ググ。」
黒い息を吐き出すカニバルを見下ろしながらナナシは意識をカオルへと切り替えた。
『主、後は任せる。』
そしてナナシから意識を戻された俺は、彼女の記憶を共有し現状を理解した。
「ナナシのやつ容赦ないな。」
ポツリとそう呟きながらも、俺はアーティファクトをカニバルの胸に突きつけた。
「あえてお前の言葉を借りようか、俺の糧になれカニバル。」
そしてカニバルの胸にアーティファクトを突き立てると、完全にカニバルの鼓動が消える。それと同時にアーティファクトを突き刺した胸の傷から神獣の持つ魔力の結晶が浮かび上がってくる。
「これがこいつの結晶か。」
これを取り込めば俺は元の体に戻れる……はずだ。
その結晶を収納袋にしまうと、俺は空間魔法で安全な場所に飛ばしていたトウカを呼び戻した。
「はっ!?ま、また戻って……ってカニバルは死んでるのか?」
「あぁ、倒した。」
「そ、そうか……。」
カニバルの死体を眺めた彼女はこちらに視線を移すとぺこりと頭を下げた。
「す、すまなかった。力になるどころか足を引っ張ってしまった。ウチのせいで怪我もさせて……。」
「問題ないさ。命があるだけいい。」
頭を下げていた彼女の頭にポンと手を置いてそう告げた俺は移動魔法を展開する。
「こんなところに長居は無用だ。今はひとまず帰ろう。」
そして彼女とともに俺はエルフの集落へと移動魔法で移動するのだった。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。


クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる