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第9章 新たな生活
第308話 ナナシと日本へ
しおりを挟む翌日、俺は日ごろ使っている調味料を買い足しに行くために魔王城にある日本へとつながっている魔法陣のある部屋を訪れていた。
「さてっと、行くか。」
壁に設置してあったレバーを引くと魔法陣が輝き始める。そして視界を光が覆いつくすと、次の瞬間俺の体はあの屋敷の一室へと転移してきていた。
「よし、今回は大丈夫だったな。」
前回は予想外のハプニングでアルマ様とラピスの二人まで連れてきてしまったからな。
屋敷を出て外に出るとさっそくナナシが話しかけてきた。
『おぉ!!ここが主の住んでいた世界か。』
「あぁ、以前と全く変わってないみたいだな。」
『ふむ、どれせっかくだから我も地に足をつけてみるか。』
「は?」
ナナシはそう言うと、俺が体内に溜め込んでいた魔力をごっそりと使って、魔力で自分の姿を造りだしてしまったのだ。
「む、この世界には魔素がないのか。主の魔力が回復せんな。」
「なんで普通に出てきてるんだよ。」
「面白い体験というのは自分の体で体験したいだろう?だからこうして主の魔力を使って体を具現化したのだ。」
「はぁ……それ大丈夫なんだろうな?」
「今のところ問題はないようだ。肉体を構成している魔力が放出されることもない、だが流石にこの体では魔法は使えんか。」
「頼むから大人しくしててくれよ。後その角とか翼とか尻尾とかしまってくれ。」
「そういえばこの世界にいる種族はただの人間だったな。この姿では少々おかしいか。」
するとナナシは赤い髪色を黒く染め、角などの龍を象徴する部位を体の中にしまうと鱗を変形させて黒いドレスを身に纏った。
「これならばよかろう?」
「まぁ、さっきよりかはマシになったな。」
そしてナナシと俺はいつもの行きつけであるショッピングセンターへと向かって歩き出すのだった。
道中では俺たちの格好が恰好だから、かなり人目についているようだった。その視線にナナシは少しご機嫌のようだ。
「くくく、感じるぞ人間の視線を。我の溢れ出す魅力にはこちらの人間も抗えんらしい。」
「俺は激しく遠慮したいんだが。」
あまりこっちの世界で人目につきたくはない。皆何を考えているのかわからないからな。
人目を気にしながらもなんとかいつものショッピングセンターに着くと、俺はここにしかない調味料の類を大量に買い込む。
その最中、なぜかナナシは妙に鮮魚コーナーを気にかけているようだった。気になったので声をかけてみると……。
「ナナシ?何を探してる?」
「主の記憶にあったふぐという魚は売ってないのか?」
「フグ?何でまた……フグならそこに切り身にされて売ってるぞ。」
俺が切り身にされて真空パックになっているフグを指差すとナナシは首を傾げた。
「これの中には肝は入っておらんのか?」
「あのなぁ、フグの肝は猛毒だから市販はしてないんだよ。」
「むぅ、そうか。どうにかして手に入れる方法はないのか?」
「あるにはあるが……なんでまたそんなにフグを欲しがるんだ?」
「ユノメルのやつがこちらの世界にいるフグという存在に興味を持ったらしくてな。」
「ユノメルがか……。」
彼女にはいろいろと借りがある。ユピスパークをもらったり神獣の結晶を分けてもらったり……な。
フグ一匹で借りが返せるなら安いものか。
「わかった、なら帰りに魚屋に寄ろう。」
フグの免許はあるし、丸ごと売ってもらうことぐらいできるだろう。
「おぉ!!助かるぞ主!!では善は急げだ早く行くのだ。」
そして調味料系を揃えた俺はナナシとともに近場にある魚屋へと向かうのだった。
魚屋に着くと、そこにはいろんな種類の魚介が並んでいた。しかしそこに目的のフグの姿はない。
「主よ、フグはどこにある?」
「フグは多分ここには置いてないかな。多分奥にある生け簀で泳いでると思う。ちょっとここで待ってくれ。」
俺は魚屋の店主に一本、丸でフグがいないかどうかを問いかけるとやはり生け簀の中にその姿はあった。
「これが今うちにいるトラフグですね。」
「うん、太ってていいフグだ。これを下さい。」
「あ、お客さん免許は……。」
「あります。」
俺がフグの免許証を見せると店主の男性は少し驚きながらも、フグを締めてくれた。
「はいどうぞ、扱いにはくれぐれも気を付けてくださいね。」
「わかってます。ありがとうございました。」
大きさが大きさだったから決して安くはない金額だったが……まぁ今は懐にも余裕があるし何も問題はない。
「ほれナナシ、買ったぞ。」
「おぉ、こいつがフグか!!なかなか不細工な面だな。」
「不細工な魚は美味いんだ。さ、目的のものは揃えたし早く帰るぞ。」
そして帰路についたのだが、俺たちの後を誰かが着いてきていた。
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