魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる

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第9章 新たな生活

第304話 黒幕

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 ナナシから意識が戻されると、俺の手の中には赤い綺麗な宝石のようなものが握られていた。

「ナナシ、これは?」

『ギルドで主が聞いた神獣の持つ魔力の結晶だ。』

「これをどうすればいい?」

『体内に取り込む方法は様々あるが、一番手っ取り早いのはそれを噛み砕いて飲み込めば良い。』

「これ食えるのか?明らかに食い物っぽい見た目ではないぞ?」

『あくまでも形をそういう保っているだけなのだ。簡単に噛み砕ける。』

「そうか。」

 意を決してその結晶を口の中に放り込もうとしたそのときだった。

 ズンッ!!という大地を揺らすような音と共に、俺達の真横に先程ユノメルが相手をする……と言ってグラトから引き剥がしたもう一体の神獣が落ちてきた。

『ふむ、あっちも終わったようだ。』

 そうナナシがポツリと呟くとほぼ同時にその神獣の体の上にユノメルが着地する。

「そちらも無事に終わったようですね。」

「はい、なんとか……。」

『あの程度のヒヨッコなんぞ相手にならん。しかも結晶の大きさもまだまだ小さい。これでは進化に足りるかすら怪しい。』

 文句を言うナナシをユノメルが少し困り顔でなだめる。

「まぁ、彼らは神獣のなかでも一番の新顔でしたから。その分生きてる年月も短いですし、結晶が小さいのは当たり前ですよ。ですが……。」

 チラリと彼女は足元の神獣の体へと目を向けると、おもむろにその体にズブリと腕をめり込ませた。

 そして心臓付近からグラトのものと同じぐらいの大きさの魔力の結晶を抜き取ったのだ。

「一つならば足りなくとも、二つあれば足りるのでは?」

『なんだ、分けてくれるのか?』

「えぇ、私には生憎必要ありませんから。良ければどうぞ?」

『そうか!!ではありがたくいただこうではないか主!!』

「あ、ありがとうございます。」

「いえいえ、役立ててくださいね。」

 ニコリと笑いながらユノメルはまだ鮮血が滴るその結晶をこちらに手渡してきた。

 それを受け取ると、手の中にある二つの結晶が光り、一つの大きな結晶へと姿を変えた。

「結晶が一つに……。」

「結晶どうしが引き寄せ合う性質を持っているので、融合したのです。まぁ本当に単純に融合しただけです、特段魔力が増えていたりとかはしません。」

「そうなんですか。」

『主、早速喰らってみるのだ。』

「……わかった。」

 俺はその魔力の結晶に向かって歯を立てると、意外や意外サクッ……というスナック菓子を噛んだときのような心地の良い食感で噛み切ることができた。

 歯で噛み切れることがわかった俺は結晶を全て口の中へと放り込む。

「んん……。」

 まぁ食感は良いが、味はほとんどない。特に味わうものでもないな。
 ある程度飲み込めるまで派で噛み砕くと、それを飲み込んだ。

 ……のだが、特に体に変化が起こる様子はない。

 疑問に思った俺はナナシへと問いかける。

「ナナシ?特に何も起こらないぞ?」

『ふむ、やはりか。』

「やっぱりってどういうことだ?」

『たかが、そこの二匹の若い神獣では進化には足りなかったということだ。』

「無駄だったってことか?」

『いや、そういうわけではない。明らかに主の肉体は次の進化へと近づいている。あともう一押しといったところか。』

「……ってことはまだこの体のままか。」

 ガックリと肩を落としていると、ユノメルがすこし心配そうに俺を見つめてきた。

「まだ元の体に戻るには足りませんでしたか。」

「はい、あともう一押しみたいなんですけど……。」

「ならば、この二匹の神獣を寄越した黒幕を斃しに行ってはいかがでしょうか?」

「黒幕?」

「先程言ったように、私はこの二匹と、もう一匹の神獣に狙われていました。今回、そのもう一匹の神獣は来ていません。恐らくは私の力を測るため、あの二匹を寄越したのかと。」

『生意気にも高みの見物を決め込んでいる輩がいるということか。随分といい身分のようだな。して、そいつの居場所は掴んでいるのか?』

「まぁ一応は……。正確かどうかはわかりませんけどね。」

『それでもいい。聞かせろ。』

「もとドワーフ公国の跡地……そこを根城にしているという噂です。」

『ドワーフ公国か……お前が滅ぼしたところではないか。あんな場所に住み着くとはなかなかの変人だな。』

 どうやらグラトたちを影で動かしていた神獣はユノメルがかつて滅ぼしたドワーフ公国の跡地にいるらしい。

『本当ならば今すぐにでも向かいたいが……あの場所に近付くにはスキルが必要だ。メルよ、手伝ってくれるか?』

「もちろん構いませんよ。」

 俺を尻目に二人はどんどん話を進めていく。ユノメルが手伝うことで得られるスキルとは一体何なのか……。俺はこのあと自分の身をもって思い知ることになった。
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