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第9章 新たな生活
第302話 神獣たる所以
しおりを挟む落下したグラトはポッカリとできた砂浜のクレーターの中心から姿を現すと、俺の方へと視線を送ってきた。
そのグラトの表情には怒りが浮かんでいる。
「余を見下すな……この下等生物がァッ!!」
そう吼えると、凄まじい勢いでこちらへと飛んでくるグラト。ヤツの手の一本には先程俺が落としたアーティファクトが握られている。
「自分の剣で死ぬがいいっ!!」
そして俺へと向かってアーティファクトを振り下ろそうとしたその時……。
バチッ!!
「っぐ!?」
アーティファクトの刃が俺へと突き立てられる瞬間、突然アーティファクトから電気が放たれ、グラトの手から離れるとまるで意思をもっているかのように俺の手の中へと収まったのだ。
「これは……。」
『ほぅ、どうやらそのアーティファクトはなかなか特別らしい。主以外に使われるのは嫌らしいぞ?』
そして俺の手へと戻ってきたアーティファクトは元の短剣の形から太刀へと形を変える。
「そうか、なら今度は離さないようにしないとな。」
改めて軽くアーティファクトを握り込むと、柄の部分が俺の手に馴染む形へとどんどん変化していく。まるでずっと使ってくれと言わんばかりに……。
不思議な感覚を体験していると、こちらをギロリと睨むグラトの視線に気がついた。
「貴様、どこまでも余をコケにしてくれるな。余を前によそ見かっ!!」
眉間に青筋を立て、それぞれの腕から魔法陣を発生させると、炎や氷、雷などの様々な魔法を放ってきた。
「ふっ!!」
今なら斬れる……そう確信した俺はこちらへと放たれた魔法を全て一閃のもと斬り裂いた。
「なっ……魔法を斬っただと!?」
魔法を斬った勢いそのまま、俺はグラトへと斬りかかる。
「チィッ……調子付くな!!」
ヤツが重力の魔法が宿っている右手を向けてくると、またしても上から重力に押しつぶされ、体が地上へと落ちていくがその最中俺はグラトへと向かって飛閃を飛ばす。
「小癪な。」
その一撃はアッサリと回避されてしまうが、その直後……見えない斬撃がヤツの左手を一本飛ばした。
「っ!?何がっ……。」
突然左手の一本を失ったことで動揺し、俺にかけていた重力の魔法が解かれる。
「今だっ!!」
空中で一つ翼を羽ばたかせ、急加速し一瞬でヤツの懐を侵略した俺は逆袈裟にアーティファクトを薙ぎ、ヤツの体に大きなダメージを負わせることに成功した。
「ぐはっ…………。」
グラトはなんとか真っ二つになることは防いだものの、今の攻撃はほぼ致命傷。
ほぼ勝利を確信していた俺だったが、ふとナナシが異変に気が付く。
『……おかしい。ヤツの体から血が1滴も落ちていない。』
「なんだって?」
改めてグラトに視線を向けてみれば、ナナシの言う通り最初に落とした腕からも、切り裂かれた胴体からも血は全く零れていなかった。
異変を察知した俺はすぐにアーティファクトを構え直す。すると、切り裂かれた傷を押さえていたグラトがゆっくりと顔を上げた。
「なかなか良い攻撃だ。余の腕を飛ばし、体にまで剣を届かせるとはな。少々見くびっていたようだ。」
ヤツは薄ら笑みを浮かべ、傷口から手を離すと、先程斬り裂いたはずの体がすっかり元通りになっていたのだ。
「確かに斬ったはずだ……どうなっている?」
「余はこの重力と引力の魔法で神獣へと成り上がったわけではない。この常に再生を繰り返す余の天性の肉体が、余を神獣まで導いたのだ。」
「再生を繰り返すってわりには腕はもとに戻ってないみたいだが?」
「あぁ、これのことか?こんなもの飾りにすぎん。」
ヤツがそう言うと、あろうことかヤツの体に生えていた腕が重力と引力の魔法を宿している腕以外ポロポロと落ちていく。
「腕が……。」
「余の真の腕はこの2本のみ。他のものは魔法の依代にすぎんのだ。」
そう種明かしをすると、ヤツの体のうちにある魔力がどんどん膨らんでいく。
「まぁ、以前人間どもの文献にあった神という存在を模したものでもあるのだが……。やはり模すのではなく、余自身が神になるべきだな。貴様達にはその踏み台になってもらうぞ。」
ニヤリと笑うと、今度はヤツが急加速し俺の懐を侵略した。
「引力とは万有……。余はその理を自在に変えることができるのだ!!」
それと同時に突き出されるヤツの右手。重力の魔法が来ると予想し、距離をとろうとしたが、俺の意志に反して体がヤツの右手へと引き寄せられたのだ。
「うぐっ!!」
深々と腹部へとめり込む拳、深い痛みに襲われていると、間髪入れずにヤツの足がうなじへと振り下ろされた。
「ハァッ!!」
その攻撃には重力の魔法も乗っていたようで、俺の体は凄まじい勢いで海の中へと叩き落された。
死の島周辺の荒れ狂う深い海の底へと引っ張られていく最中、俺は肺に残っている空気をフル活用してヤツをどう倒すのか考える。
(攻撃しても再生する……。どうすればいい。)
『何を悩んでいるのだ主よ。実に簡単なことではないか。』
(簡単?あれが?)
『うむ、生半可な攻撃では再生される……ならば二度と再生ができぬよう肉片の一欠片も残さずに消してしまえばよいのだ。』
(マジで簡単に言ってくれるな。)
『主は魔力を使わなすぎる。ほぼ体術と剣術のみの戦いになっているぞ。実に勿体ない戦い方だ。』
(魔力を使うって言ったってなぁ……そもそも魔法に慣れてないんだぞ?)
『慣れていなくても良い。主の想像した魔法が今は現実となるのだ。魔力なんぞ使っても使っても湧いてくるものだ。この際魔力切れになるまで使ってみるのだな。』
(……わかったよ。)
ナナシのアドバイスを聞いた俺は海底に足をつけると、一気に蹴り上げて海上へと向かうのだった。
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