魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる

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第9章 新たな生活

第301話 重力と引力の使い手グラト

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 目の前に立つグラトがこちらへと向かって右手をかざした瞬間、一気に俺の体が何かに圧し潰されるように重くなる。

「っ!?な、ん……だ?」

 とんでもなく重くなった体を支えきれずに膝をつくと、その重さのせいでずぶずぶと足から砂浜へと沈んでいく。そんな俺の様子を見て目の前でグラトはあざ笑う。

「お似合いの姿だ。神獣たる余の前で這いつくばるその姿こそ下等生物にはふさわしい。」

 そうあざ笑いながら俺の頭を足で踏みつけようとしてくるグラト。そんなとき体の内側から膨大な力が溢れ出し、俺のことを押さえつけていた何らかの力を無理やり克服することに成功する。

「オラァッ!!」

「ほぉ……。」

 無理矢理謎の力を克服した俺の体はいたるところがすでにかなり龍化してしまっていた。そのせいで背中からは翼が飛び出し腰のところからは尻尾が服を突き破って露出している。

「なるほど、龍の一族か。ただの下等生物課と思ったが、存外優秀なしゅぞくではないか。だとすれば余計に疑問だ。なぜこのような愚かな行動をする?余の知っている限り龍種は自分に不利益なことはしない種族だと思ったが。」

「生憎、お前を倒すことには利益しかないもんでな。」

「ふん、ほざけ。」

 またしてもグラトは左手をこちらへと向かってかざすと、さっきとは打って変わって体が一気に軽くなり、ふわりと体が自然に宙に浮く。
 それと同時にヤツは俺へと一気に距離を詰めてくると、今度は左手を腹にポンと当ててきた。

「こちらも生憎かまっている暇はないのでな。遥か彼方へ吹き飛んでしまえ。」

「おぉぉぉぉっ!?」

 ヤツの左手が触れた瞬間、俺の体は何かに引っ張られるように後ろへと大きく吹き飛ばされ、島の外へと追い出されてしまう。

「くそっ!!どうすればいいんだよっ!!」

 何もできずに水平線の彼方へとふき飛ばされていると、ナナシの声が聞こえてくる。

『主、落ち着いて翼をはばたかせるのだ。』

「わかった。」

 ナナシに言われた通りに翼をはばたかせると、吹き飛ばされていた謎の力は消え去り体はぴたりと止まった。

「ふぅ、止まったか。いったい何なんだあの力は……体が急に重くなったり、軽くなったり、引っ張られたり……。どうなってる。」

『おそらくは、引力と重力の魔法だな。』

「引力と重力の魔法?そんなのもあるのか。」

『極めて稀な魔法だ。扱える者はそういない。あの魔法についての説明は向かいながらするぞ。今は急ぎ島へと戻るのだ主よ。』

「了解。」

 もう一度翼をはばたかせ、俺は元居た島へと一気に飛んでいく。その途中ナナシはグラトの操る魔法のことについて話し始めた。

『ヤツの右手には重力の魔法、左手には引力の魔法を振り分けていると見た。それに気をつければ対応はできると思うぞ。』

「そんなこと言ったって、あいつ6本も腕があるんだぞ?その全部に別々の魔法が割り振ってあったらどれがどれだかわかんない気がするが?」

『引力の魔法と重力の魔法、この二つにさえ気を付けていれば何の問題もない。他の魔法であればスキルが無効化してくれる。』

「わかった。」

 そして空を飛んで元居た島へと戻ってくると、上空の方で爆音が響いた。

『今上でユノメルが戦っているらしいな。』

「あぁそうみたいだ。」

 ふと上を見上げれば上へと浮いていくグラトの姿が目に入った。

「見つけたっ!!」

 大きく翼をはばたかせてヤツのことを追い抜くと俺は再び前に立ちふさがった。

「戻ってきたぞこの野郎。」

「おとなしく戻って来なければ死なずに済んだものを。そんなに死にたいのか?」

 そしてヤツが再び右手をかざそうとしたその時、俺はヤツの右手を蹴り上げる。

「っ!!」

「もらった!!」

 がら空きの胴体へと袈裟にアーティファクトを振り下ろそうとしたが、俺の手に握られていたそれは地面に引き寄せられるように手を離れ下へと落ちて行ってしまった。

「残念だったな。これで終わりだ。」

 勝ちを確信したグラトは右手に魔力を集めると俺へと向かってかざしてくる。

「潰れろ。」

 その言葉と同時に重力が体を再び襲ってくると、覚悟したその時……。

『重力魔法の解析を終了。無効化します。』

 その言葉が俺の頭に響くと同時にヤツの手に集まっていた魔力は一瞬にして霧散し魔法の発動がキャンセルされた。
 突然のことに目を見開くグラト。しかしそれだけでは終わらなかった。

『反撃します。』

 動きが一瞬止まったグラトの顔面に焔を纏った俺の拳が深く突き刺さったのだ。そして今度はやつが重力に引き寄せられるように急加速して砂浜へと落下していった。
 それを見てナナシがくつくつと笑う。

『くくく、ようやく解析も終わったな。これより反撃開始だ。』

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