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第9章 新たな生活

第300話 ユノメル再び

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 白い花畑を歩きながら現れたのはこの島の主と言っても過言ではない、ユノメルだった。彼女は俺の姿を目にすると少し首を傾げて言った。

「おや……その姿、ついに自分の肉体を得たのですかナナシ?」

「あ、その、これはちがくて……。」

「んん?その口調、ナナシではない……ですね。まさかカオルなのですか?」

「は、はい。」

「やはりそうでしたか。何やら複雑な問題を抱えてしまったようですね、奥でお話を聞きましょうか。」

 ユノメルに連れられ島の中心にある泉まで歩いていた最中、彼女がふとあることを問い掛けてきた。

「大分お身体は変わってしまったようですが、ナナシは元気にしていますか?」

「あ、はい。元気ですよ。」

「フフフ、その体で畏まった言葉を使われるとなかなか違和感がありますね。いつもナナシは高慢な態度だったものですから。」

 クスクスとユノメルが笑うと頭上からナナシの声が響いてきた。

『誰が高慢な態度だ?お前の方こそ我と話しているときはそんな畏まった話し方ではないだろうが!!』

「おやおや、意識を入れ替えずとも声を発せるようになったのですか?」

『今の主の体はほぼ我の体と言っても過言ではない。このぐらいは朝飯前だ。』

 そんな会話をしていると、あっという間にユノメルの住処である泉へとたどり着き、彼女は話を聞くために魔法で地面から木を生やすと、それを椅子とテーブルの形へと変えてしまった。

「さ、お座りください。」 

「ありがとうございます。」

 木で作られた椅子へと腰掛けると、早速ナナシが俺の代わりに話し始めた。

『見ればわかると思うが、進化の際に何かしらの不具合があったらしくてな。我と主の体が入れ代わってしまったのだ。』
 
「つまり私に元の体に戻る方法を共に考えろ……とそういうことですか?」

『いや、一応主が元の体へと戻る方法は見当がついている。故にユノメル、お前には他の神獣の所在を教えてほしいのだ。』

「神獣の居場所を?」

『うむ、恐らく主が元の体に戻る方法として一番有力なのはもう一度進化することだ。それには強力な魔物の血肉が必要でな。』

「なるほど、そのために神獣を喰らいたいということですか。あなたはやはりなかなかとんでもないことを考えるものですね。」

 少し呆れたようにユノメルは一つ溜息を吐き出した。しかし彼女はその案を拒むことはなく、ぽつぽつと他の神獣たちのことについて話し始めた。

「今のところ私が把握している神獣の住処は3か所です。」

『ほぅ?そんなにわかるのか。』

「まぁ、一応他の神獣のことも知っておかなければと思って軽く情報は集めていましたから。それにこの三匹は何やらこそこそと私を殺すべく策を練っているようですので、正直目障りなんですよ。」

『つまりその三匹は我らが殺してしまおうがかまわないということか。』

「むしろこちらとしてはありがたい話ですね。下手にこの島を襲われても困りますから。」

 あっさりとそう言ったユノメルの様子からも、本当にその三匹の神獣に関しては邪魔な存在だと考えているようだ。

 そしていよいよ彼女から神獣の場所を聞きだそうとしたその時だった。

「おや……どうやらあなた方が出向く手間が省けたようですね。」

「へ?」

 彼女の言ったことを理解する前に、俺たちのいた場所を影が覆いつくした。ふと上を見上げれば、赤熱した巨大な隕石が幾つも上から降り注いできていたのだ。

「っ!?」

「まったく、よりによって今ですか。」

 降り注ぐ隕石に一つ溜息を吐いたユノメルは無造作に手を上にかざすと、周囲一帯に魔力の壁を張った。それにぶつかった隕石は粉々に砕けちり、この島を逸れて海へと落下していったようだ。

『ずいぶん派手に仕掛けてくるではないか。面白くなりそうだ。行くぞ主、我らの獲物が自ら出向いてきてくれたようだ。喰われるとも知らずにな。』

 そしてユノメルとともに強い気配のする海岸の方へと向かうと、そこには二人……異形な人型の姿の魔物がこちらを待っていた。
 その片割れである、6対の腕を生やした方の魔物は俺達の姿を目に収めるとニヤリと笑った。そんな奴らにユノメルは一言問い掛ける。

「一応聞いておきますけど、いったい何の用ですか?」

「こんな来たくもない場所にわざわざ赴いてきた……それだけで何の用かはわかるのではないかな?」

「まぁ大方は。」

 やれやれと一つユノメルはため息を吐き出すとこちらに視線を向けてきた。

「ナナシ、あなたはどちらを?」

『そうだな……あの腕の多い方から強い魔力を感じる。我の獲物はヤツにしよう。』

「それでは私は隣のでくの坊を相手しましょうか。」

 そうぽつりとユノメルが呟いた次の瞬間、彼女はナナシがターゲットにした神獣とは別の筋骨隆々の巨人へと一瞬で近寄り、遥か上空へと蹴り飛ばす。

「そちらは頼みましたよ。くれぐれも島に被害を出さないようにお願いしますね。」

『くくく、善処する。』

 少し不安そうにしながらもユノメルは蹴り飛ばした巨人を追って行った。

「逃がすかっ!!」

 すぐに彼女の後を追うべく動きだそうとしたヤツの前に立ち塞がると、俺は折れた剣の代わりにアーティファクトを構えた。

「ユノメルの下僕に用はない、そこを退け。」

 その言葉が聞こえた途端、プツンとどこからか何かが切れる音が聞こえて来る。

『下僕……下僕だと?ずいぶん舐めてくれるではないか他の神獣を喰らっていないヒヨッコが……主よ、こやつは潰すぞ。慈悲なんぞいらん。』

「はいよ。」

「……愚かな。立ち塞がらなければ命を失わずに済んだものを……。まぁいい、この名を冥土の土産に持って行くがいい。余の名はグラト、新たな時代を築く神獣だ。」

  その神獣はグラトと高らかに名乗りをあげ、体から濃密な魔力を溢れさせた。
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