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第9章 新たな生活

第298話 ギルドマスコット

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 ミニオーガアレスをリルは抱き抱えると、酒場のテーブルの上へと座らせ、話を聞くことになった。

「一応確認だけど、キミはオーガアレスで間違いないの?」

「そうだっ!!」

「ふーん、ずいぶん可愛くなっちゃったね~。」

 彼女が人差し指でツンツンと頬っぺたをつつくと、ミニオーガアレスは嫌そうに必死にその手をはねのけようとしている。

「ねぇキミ、この子どうする~?」

「処遇に関してはリルさんに任せますよ。煮るなり焼くなりご自由に。」

「お、おいおまえっ!!おれをたべるつもりか!?」

 俺の言葉にさぁ~っと赤い顔を正反対の青色に染めていくミニオーガアレス。そんな奴の姿を見てリルはくすくすと笑った。

「あはは言葉のあやってやつさ。キミを食べたらお腹壊しちゃいそうだし、食べたりはしないよ。ただこっちでキミがこれからどうなるかは全て決めさせてもらうってこと。」

 そうミニオーガアレスに告げると、リルは手元に運ばれてきた酒を一口煽る。

「ぷはっ、いや~昼間から煽るお酒はいいねぇ。」

「仕事中に飲んでいいんですか?」

「大丈夫大丈夫、もう今日の分の仕事はほとんど終わってるからさ。残ってる仕事と言えばこの子の処遇を決めることぐらいだよ。」

「くあっ……。」
 
 指先でミニオーガアレスのおでこをコツンとつつくと、コテンと仰向けに倒れてしまう。

「まぁ、これだけ弱体化してるのを見るに……特に殺す必要もないかな~って思うよ。それに、幸いギルドには育児経験のある子達も何人かいるからね。せっかくだしギルドで面倒みよっか。」

「いいんですか?」

「うん、ギルドで面倒見るなら同時に監視もできるし一石二鳥!!じゃ、そういうわけでこの子はキミ達に任せるよ~!!」

「「「はーい!!」」」

 リルの声とともに大勢のギルドの女性職員がミニオーガアレスに向かって押し寄せ、その波にさらわれるように運ばれていった。

「なにをするんだっ!!まだはなしは…………。」

 ギルドの女性職員達に連れていかれたミニオーガアレスを見送って俺は一つポツリと呟いた。

「……人気ですね。」

「あはは、いくら強い魔物だったとは言え、あれじゃもう形無しだね。ま、その方がこっちとしては嬉しいんだけどさ。」

「それにしても、あの攻撃で灰になったのに生きてたのは驚きでしたよ。」

「あぁいうこの世に一体だけしか生まれなかった魔物は繁殖の能力よりも自己生存能力が高いことの方が多いんだ。だから一度命を奪われても、死んだ場所の近くに自分を構成してた物が残ってるとそれを頼りに体が再構築されたりするんだよ。」

「……まさか。」

 彼女の説明にあった自分を構成していた物……というのに俺は心当たりがあった。

 それはあの時、灰にしたオーガアレスの近くにあった奴の魔力を凍らせた氷像。リルの言っている事を踏まえたうえで考えられる可能性はあれ以外にない。

「でもね、一応肉体としては死んでるから。そういう魔物って体が再構築されたあとは、肉体が欠落してるアンデットとかになることが多いんだ。そう考えるとあれはちょっと異例かなって思えるよね。肉体が腐ってるわけでも欠落してるわけでもなく、ただ体が小さくなって弱体化しただけ。良く言えば……って感じ?」

「それだけ奴が特殊だったって事ですかね?」

「どうだろ、あの子自身あの姿になることを予想してたわけじゃないみたいだし、なんかの事故であんなふうになったって考えるのが普通かな。まぁこれからあの子がどうなっていくのかはしっかりと記録に残しておくよ。何かの時に役に立つかもしれないからね。」

 そんな会話をしていると、ギルドに見知った人物が入ってきた。

「なんだい、今日は昼間からやってんのかいリル?」

(嘘だろ……。)

 意気揚々とギルドの扉を開けて入ってきたのはカーラだった。

「あはは、今日はもう仕事も終わったからね~。こういう日ぐらい昼間から引っ掛けたっていいじゃん?」

「まぁ悪いとは言わないけど……ん?」

 こちらへと向かって歩み寄ってきた彼女は俺の顔を見ると、訝しげに眉を細めた。そして……。

「…………カオル、何やってんだい?」

「なっ……!!なんでわかって……。」 

「なははっ!!やっぱりそうかい、魔力の波長が丸っきり同じだったからまさか……とは思ったんだ。」 

 カーラも酒を注文すると向かいの椅子に座り、ニヤリと笑いながら言った。

「酒の肴にはずいぶんピッタリな話が聞けそうじゃないか。なんでそんな格好してんのか……聞かせてもらおうかい?」

 今日は散々だ……。なにもかもツキが回ってきてない。

 観念した俺は二人と同じく酒を飲みながら、こうなってしまった経緯をカーラにも話すのだった。
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