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第9章 新たな生活

第294話 オーガアレス

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「ミツケタゾ、強者つわものョ!!」

 雄叫びとも歓喜の叫びともとれるような声を上げながら、オーガアレスは岩の上から飛び降りて俺の前に立った。

「話せるのかよ。」

「当然ダ、言葉ハ意思ヲ伝エル。意思ガ伝ワラナケレバ勝負デハナイ。」

「なるほどな。」

「遠イ町ニ強者ノ気配ヲ感ジテイタ。ソチラカラ出向イテクルトハナ。」

「俺を探してたのか?」

「オレハ強者ヲ求メテ動ク。目ガ覚メレバ、感ジタコトノナイ気配ヲ感ジタ……オ前ノナ。」

「俺と戦うために町に向かってたってわけか。なら、ここでお前と戦ってやれば諦めてくれるか?」

「ソレハワカランゾ。オ前ガアッサリト負ケタノナラ、オレハ更ナル強者ヲ求メテ歩ク。ソレダケダ。」

「そうか、なら今ここでお前をぶっ倒すしかないな。」

 俺は収納袋から剣を取り出すと、鞘から引き抜いて構えた。するとオーガアレスは興味深そうにこちらを眺めてきた。

「ナルホド、剣士カ。得物ハソレデイイノカ?」

「問題ない。」

「デハ、存分ニ楽シマセテモラオウカ。」

 オーガアレスは真っ赤に燃え盛っているかのような両手をボクシングスタイルに構えると、大地を揺らすかのような踏み込みを見せ、一気に距離を詰めてきた。

「マズハ小手調ベダ。」

 目の前に迫ってきたオーガアレスは右の拳を突き出してくる。それに俺は陽炎を合わせ、ヤツを袈裟に切り裂いた……はずだったのだが。
 ヤツは何事もなかったかのように後ろを振り返ってくると、今度は丸太のように太い脚から大砲のような蹴りが放たれてくる。

「っ!!」

 飛閃で斬撃を飛ばしながら後ろに下がると、まるで降りかかる火の粉を払うようにその斬撃を全て拳で殴り飛ばしながらオーガアレスは距離を詰めてきた。

「剣ノ腕ハマダ未熟ダナ。ソノ程度デハ傷一ツツカン!!」

 近づいてきたオーガアレスの体の皮膚に目を向けてみると、先ほど陽炎で袈裟に切り裂いたはずの場所に傷一つついていないのが見えた。

「チッ……どんだけ堅いんだよ。」

 一回で効かないのならもう一度だ。態勢を整えた俺は突っ込んできたオーガアレスへと向かって再び陽炎を放った。しかし、刃がオーガアレスの体に触れた瞬間……。

 キンッ……!!

「っ!?」

 ヤツの体をすり抜けたときに手にしていた俺の剣は真ん中からぽっきりと折れてしまっていて、折れた剣先は宙を舞っていた。

 その出来事に一瞬止まってしまった俺へと容赦なくオーガアレスは詰め寄ってくる。

「剣士ノ命ハ折レタ。オレノ勝チダ!!」

 背中を向けていた俺にオーガアレスの拳が迫る……。その瞬間声が響く。

『反撃に適した体へと変化します。』

 その声が響くとほぼ同時に俺の体へとオーガアレスの拳が突き刺さる。だが、その拳は俺の体を覆った黒い鱗に阻まれていた。

「ナニ!?」

『反撃します。』

 その声が響いた瞬間、オーガアレスの顔面に回し蹴りが突き刺さる。

「グゥッ!!」

 その回し蹴りで吹き飛んだオーガアレスへと向かって一気に距離を詰めた俺は、顔面に踵落としを叩き込む。すると、ヤツの体は地面に突き刺さり、その場に大きなクレーターを作った。

「ナルホド……。」

 ポツリとそう呟くと、ヤツは地面に埋まっていた体を引き抜いて見下ろしていた俺を眺めて言った。

「剣士デハナクダッタカ。……面白イ!!」

 口元を伝っていた血をぬぐうとヤツはニヤリと笑って投資のこもった眼光をこちらに向けてくる。そして大地をえぐり取りながら跳躍すると、あろうことか空中でもう一度加速し一気にこちらへと距離を詰めてきた。

「フンッ!!」

 そして突き出された拳に向かって俺も拳を突き出すと、大きな衝撃波を産み出して拳同士がぶつかり合った。

「面白イゾ!!オレト真正面カラ打チアエルヤツハ初メテダ!!」

「そりゃあどうも。」

 ぶつかり合っていた拳を外し、ヤツの腕をつかむと豪快に背負い投げをかける。しかしやつは背中からではなく、体を無理やりひねって足から着地し難を逃れてしまう。
 しかしそれは一瞬の隙を作る分には十分だった。

「それじゃあ次はこれだ。」

 俺は指先に灯していた焔をはじいて巨大な熱線をヤツへと放った。それは確かにヤツの体を捉えた……だが、熱線が過ぎ去った後、体中から煙を上げながらもヤツはその場に立っていた。

「とんでもないタフさだな。」

「生憎熱ニハ耐性ガアッテナ。ソレニシテモ魔法マデ極メテイルトハ驚イタゾ。」

 お互いににらみ合っていると、ヤツの体に異変が起こる。

「オ前ノ強サニ敬意ヲ示シ、オレモ本気ヲ出ソウ。」

 そう言うと、オーガアレスの巨大な体がどんどん小さくなっていく。


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