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第9章 新たな生活
第291話 逆転生活の始まり
しおりを挟む俺の体が変化してしまってから一晩が過ぎた。正直な話、この姿で外へと赴きたくはないのだが……城の中には大食らいが何名かいる関係上この買い出しという作業は回避できない。故にどうしても外へと赴かなければならないのだ。
「……いつまでもここで現実逃避してても現状は少しもよくならないよな。」
とにもかくにも今はこの体での生活にある程度慣れるところから始めなければ。
そして朝食の時に着たままのコックコートを脱いで普段着に着替えようとしたのだが……ここである問題が発生した。
「こ、こんなにブカブカなのか?」
どうにもこの華奢な体になってしまったため、今まで着ていた服のサイズが合わなくなってしまっていたのだ。
「ど、どうしたものかな。流石にこれで街には出れないよな。」
ブカブカの服の隙間からは少し動いただけで下着が見えてしまいそうだ。
ほとほと頭を悩ませていると、俺の部屋にナインが訪ねてきた。俺は彼女に今の現状を説明すると、ナインはある提案をしてきた。
「マスター、当面の間戻れる気配が無いのであれば服を何着か購入しては如何でしょうか?女性用の下着も買わねばなりませんし……。外に出るのであればちょうどよいかと。」
「そうだな。……でも俺女性用の下着のことなんてサッパリだからさ、ナイン達の中で誰か一緒について来てくれる人いないか?」
「それでしたらナインが付き添いましょう。」
「大丈夫なのか?」
「問題ありません。マスターの体の細かいサイズも全て把握しておりますので。」
「い、いやそういう問題ではなくてだな……。」
「マスターとにかく今はこちらを着てください。」
有無を言わせずにナインはこちらに良く見覚えのある服を差し出してきた。
「こっ……これを着るのか!?き、昨日着せてもらったやつは?」
「既に洗濯してしまっていますよ。」
「ま、マジかよ。」
「お手伝い致しましょうか?」
「い、いや……自分でなんとかしてみる。」
「では何かありましたらナインをお呼びください。」
そういい残してナインは扉の向こう側へと行ってしまった。そして部屋に一人取り残された俺は改めてナインに手渡された服を眺めて、大きなため息をはくことになる。
「まさかメイド服を着るはめになるなんて……。」
人生の中で絶対にないだろうと思っていたことが今俺の身に降りかかっていた。
「選り好みしてる場合じゃないのはわかってるが、なかなかどうして抵抗があるな。」
少しの間にらめっこをした末、心を虚無にした俺はいざメイド服へと袖を通すのだった。
「な、ナイン?」
「はい、マスター。」
「一応着れたんだが……これであってるのか?」
「失礼いたします。」
部屋に入ってきたナインはいろいろと確かめるように俺が着たメイド服を触ると、一つ頷いた。
「問題ありませんマスター。鏡で確認なされますか?」
「いやっ、いい!!」
「そうですか、お似合いなのですが……。」
「大丈夫だから早く行こう、マジで顔から火が出そうだ。」
そしてナインの背中を押して歩いていると、頭の中に声が響いた。
『ぷっくくく、ずいぶん似合っているぞ主?』
(うるさいぞナナシ。ってかこの体はお前の体だろ?)
『我はこういうものは嫌いではないぞ?それよりも普段の自分とは異なる反応をする主を見て腹がよじれそうだ。』
(他人事みたいに言ってくれるなまったく……。)
『さてな、今から服屋へと向かうのだろう?そこで主がどんな反応をするのか……我はこちらから楽しませてもらおう。くくくく……。』
その言葉を最後にナナシの言葉は聞こえなくなった。
「マジで楽しんでやがる……。」
そうポツリとこぼすとナインが問い掛けてきた。
「何か言いましたか?」
「いや、こっちの話だ。」
そしていよいよ城下町へと駆り出した俺はひとまず隠密のスキルを発動し、極限まで気配を殺してナインについて行くことにした。万が一にも知り合いに会わないように……な。
だが、こういう誰とも会いたくない……と思っているときこそ良く誰かにバッタリと会ってしまうんだよな。…………こんなふうに。
「あ!!キミは確か魔王様のメイドさんの……。」
「ナインです。」
服屋にたどり着くなり、バッタリと出くわしたのは、ちょうど同じ目的でここを訪れていたリルだった。一つ幸いなのは彼女はちょうど買い物を終えて出てきたというところだろうか。
もちろんこの距離では隠密しても意味はなく、こっちの姿に気がついた彼女は問い掛けて来る。
「あれ?そっちの子は……またジャック新しいメイドさん雇ったの?」
「この方は……。」
「ナイン、そういうふうに話を合わせてくれ。」
リルには聞こえない声でそうナインに告げると、彼女はリルの問い掛けに一つ頷いた。
「はい、つい先日から働くことになった者です。今日は普段着について相談がありましたので、同伴して来たしだいです。」
「ほぇ~、まぁお城は広いからメイドさんは何人いてもいいかもね。あ、そうだナインちゃんカオルくんにさちょっと依頼したいことがあるから夜にでも顔を出して~って伝えてくれる?」
「かしこまりました。」
「それじゃよろしくね~。」
別れ際にチラリと俺の方をリルは向いてきた。そんな彼女に一つお辞儀すると、少し考えるような表情をしながらも彼女は人混みの中へと消えて行った。
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