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第8章 神の名を冠する魔物
第289話 改めて
しおりを挟むナナシからある程度扱いに注意が必要なスキルのレクチャーを施されると、先ほどまで絶え間無く響いていたスキル獲得の声が収まった。
「ようやく終わったようだな。主よ、もう戻っても大丈夫だぞ。」
「もういいのか?まだ教えてもらってないスキルが結構あるんだが……。」
「最後の方に主に流れ込んだスキルは使い道を誤ったとしても特に危険なことにはならん。問題ない。それに、わからんことがあれば我にいつでも聞くが良い。我はいつでも主の中にいるのだからな。」
そしてナナシがトン……と俺の胸を指でつつくと、意識が急速に戻っていく。
「……マスター?」
「ん……。」
目を開けると、すでに目隠しを外されていたらしくナイン達の少し不安そうな表情が映っていた。
「マスター、お身体は大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない。」
体を起こしてみると、既に服が着せられていたことに気がつく。ひとまず、ナナシからもらったパッシブスキルはオンにしながらも、読心術のスキルをオフにして、ホッと一息ついたところでナインが問い掛けてきた。
「マスター、メディカルチェック中に脳の処理限界を超える大量のスキルが獲得されていたようですが……記憶などに障害はありませんか?」
「大丈夫だ。」
立ち上がって前に垂れてきていた髪を背中の方へと流すと、俺はナインにメディカルチェックの結果を聞いた。
「それで、メディカルチェックで何かわかったか?」
「はい、マスターの体はそれこそ内部構造から変化していることがわかりました。骨格……筋肉量……ホルモンの割合等々、人間……というよりかはどちらかと言えば魔族の女性にちかくなっているようです。元の体の名残はほとんど残っていません。完全に女性の体へと変化してしまったと判断するほかありません。」
「そうか。」
まぁ、ナナシと今の状況をなんとか打開できるかもしれない方法を話し合っていたから、ナインからのその宣告にもあまり絶望はしなかった。
これからいろいろ大変なことには変わり無いがな。
それよりも今不安なのは、自分の体がこうなってしまっていることをどう説明してアルマ様達に納得してもらうかが問題だ。
と、そんなことを思っていると部屋の扉がコンコンとノックされた。
「あ、アルマだけど……カオルいる?」
扉の向こうから聞こえてきたアルマ様の声を聞いたナインはチラリと此方を向いてきた。その彼女に一つ頷いた俺は一つ頷いて声を上げる。
「居ますよアルマ様。」
そう答えると、おずおずとしながら部屋の中にアルマ様が入ってきた。そして何を言うべきなのか迷っている彼女に俺はまず一言謝ることにした。
「さっきは驚かせてすみませんでした。」
「あ、アルマもカオルってわかんなくて……。急にぶっちゃってごめんね。一つ聞きたいんだけど……本当にカオル……なんだよね?」
「はい。」
俺自身の答えを聞いた後に、アルマ様はナイン達に視線をチラリと向けるが、ナイン達も同様にコクリと一つ縦に頷いた。
「ほ、ホントにカオル女の子になっちゃったんだ……。」
「は、はい……。」
そしてしばしの間アルマ様はすっかり沈黙してしまい、この空間に気まずい空気が流れた。その空気を何とか変えるために必死に頭の中で話題を探していると、部屋の扉が勢いよく開いてカナンやメア、ラピスたちがなだれ込んできた。
「か、カオル!?カオルなのか!?」
「あぁ、俺だ。」
「本当にメスになってしまったのか!?」
「そうみたいだな。」
「か、カオルさん大丈夫なんですか?」
「なんとかな。これからいろいろ大変にはなると思うが……。」
「パパ……じゃなくて、これからはママ?」
「頼むからその呼び方だけはやめてくれ。普通に今まで通りの呼び方でいい。」
そんな賑やかな空気が流れた時、俺は声を出せずにいたアルマ様に声をかけた。
「アルマ様、遅くなりましたけど今からユピスパークに合う料理を作ります。良ければ食べていただけますか?」
「へ?あ、うん。」
俺はさっき作りかけていた料理を全て作り上げると、アルマ様たちにふるまった。皆美味しそうに食べてくれていたのだが、その中で一人だけアルマ様は俺の料理を口にしてさみしそうにポツリと呟いた。
「……カオルの味だ。」
未だ俺以上に現実を受け入れられていない様子のアルマ様に俺はシュワシュワと泡立つユピスパークを差し出した。
するとアルマ様は俺の瞳を覗き込みながら問いかけてくる。
「カオル、いつか戻れるよね?」
「はい、必ず……。」
「信じてるから。」
そう言ってアルマ様はこくんとユピスパークを一口口にした。その瞬間アルマ様の体が光に包まれた。
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