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第8章 神の名を冠する魔物
第284話 ナナシの思惑
しおりを挟む魔王城へと帰ってきた俺を待っていたのはナイン達によるメディカルチェックだった。
「何もここまでやるか?」
「マスター、水銀を見くびってはなりません。少量でも体に入り込むだけで身体機能に異常をきたす可能性があるのです。」
「まぁ水銀って物質が危険なのは知ってるが……。」
「では少しの間大人しく待っていてください。」
「ん……。」
三人に体の隅々まで調べ尽くされ、異常がないとわかって解放されるとナインが問い掛けてきた。
「マスター、以前と比べて魔力の最大量がかなり上昇しているようですが……。」
「多分それはあの島でユノメルが造ったお酒を飲んだから……だと思う。」
「ユノメルに遭遇したのですか?」
「あぁ、意外と聞いてた話と違って良い奴だったぞ?」
「…………。」
俺の話を聞いたナイン達は唖然として黙り込んでしまう。
「情報では今までユノメルに姿を見られて生きていた人物はいません。」
彼女達の中にインプットされている情報では、ユノメルに姿を見られて生き残っていた人物はいないらしい。
まぁ、ユノメル自身……ユピスパークを奪いに来たという輩は全て同じ末路を……と言っていたから恐らくはそういうことなんだろうが。
俺の場合、たまたま彼女の知り合いであるナナシがいたから……無事に帰ってこれた。
「ま、ちょっと色々あってな。こうやって生かしてもらったんだ。」
「……そうですか。」
「それじゃ、俺は色々仕込みをしないといけないから行くぞ?」
「はい、問題ありません。」
そしてナイン達のメディカルチェックを受けた俺は、今日の夜にユピスパークをアルマ様に飲んでもらうため、お酒に合う料理を作るべく厨房へと向かう。
その途中、ばったりとジャックと出会った。
「あ、お疲れ様ですジャックさん。」
「む!?カオル様、死の島へと向かったのでは?」
「いま丁度帰って来たところです。」
「何か足りないものでもありましたかな?」
「足りないもの?いえ、普通にユピスパークを手に入れたので帰ってきたんです。」
「なんですと!?」
ユピスパークを入手して帰ってきたことを告げると、ジャックは驚愕の表情を浮かべた。
「これですよね?」
一応確認してもらうために俺はユノメルにもらったユピスパークをジャックに見せた。すると、彼は恐る恐るその香りを嗅いだ。そして現実を信じられないような表情をしながら一つ頷く。
「ま、間違いありません。ユピスパークですな。」
「良かった、違ったらどうしようかと思いましたよ。」
「いったいどうやってこんなにあっさりと手に入れたのです?普通は神獣ユノメルが休眠に入るところを狙って数日間は張り込みをしないと……。」
「あ、やっぱりそうだったんですね。」
やはり予想通り……今までこのユピスパークをお願いされて取りに行った人達はユノメルの休眠状態の時を狙って取っていたようだ。
彼女の言っていた休眠状態の時にユピスパークを盗んでいったのは前任者達だったというわけだ。
「たまたまユノメルに気に入られたみたいで……一緒にお酒を飲み交わしたらもらっちゃいました。」
「なんですと!?」
ユピスパークを手に入れた経緯を話すと、ジャックはフラフラとよろけながら頭を押さえた。
「カオル様はつくづく規格外ですな。まさかあの神獣ユノメルに気に入られるとは……。」
「ははは、たまたまですよ。まぁ何はともあれ、無事に帰ってこれたので、今からユピスパークに合う料理を作ろうかと思ってました。」
「仕事熱心なのは大変よろしいですが……休まなくて良いのですか?」
「全然大丈夫です。特に疲れもないので。」
「そうですか、では魔王様には私の方からお伝えしておきます。」
「お願いします。」
そしてジャックと別れ、コックコート姿で厨房へと立った俺は、まず少しユピスパークを飲んでみることにした。
というのも、味がわからないとこれに合う料理も作れないからな。
「それじゃ、いただきます。」
コップに注いだ少量のユピスパークをくいっと口の中へと含むと、炭酸水のようなパチパチという刺激が口のなかを刺激し、それと同時に白ワインのような爽やかな味がいっぱいに広がった。
「ん、なるほどこういう感じか。」
試飲を終えた俺が、作るメニューを脳内で決めていると、脳内にナナシの声が響く。
『くくく、飲んだな主よ。』
「ナナシ?……っ!?」
ナナシの声が聞こえた瞬間……ドクンと胸が大きく脈打った。それと同時に嬉しそうなナナシの声が響く。
『さぁ始まるぞ……進化が!!』
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